伊藤博文は側近からの報告を受けて、思わず手にしていた地図を強く握りしめた。まさか、イギリスとフランスが戦争を始めるとは――。彼の頭の中で無数の思考が飛び交う。その報告が意味するものは、大日本帝国にとってあまりにも大きな影響を及ぼすものだった。すでにイギリスとは同盟関係にあるが、フランスもまた、過去に同盟を結ぶことを打診してきた国であり、その両国が今や敵対する関係にあるとなれば、選択肢は限られていた。
伊藤は深く息をつく。もしフランスと手を組んでいたなら、今のような事態にはならなかっただろう。しかし、それはすでに過去の話だ。彼が選んだ道は、イギリスとの同盟であり、その関係を深めることこそが最優先だ。しかし、冷静に考えると、この戦争には多くの複雑な要素が絡んでいることに気づく。
フランスはアフリカ西部を支配しているが、それは遠く離れた地のことであり、大日本帝国にはあまり影響がない。しかし、フランスは東南アジアの要所であるベトナムとカンボジアを確実に押さえている。ここに手を出すとなると、あまりにも危険だ。
「どうすべきか……」伊藤博文は心の中で葛藤していた。イギリスに手を貸すことで、フランスを排除できるかもしれないが、その際にフランスが我が国に攻めてくるリスクも考慮しなければならない。今、最も重要なのは、冷静に全体のバランスを見極めることだった。
数分後、彼はようやく一つの結論に達した。イギリスとの関係を重視し、フランスを東南アジアから締め出すことが最も効率的な戦略だと確信した。そして、そのためには大日本帝国が積極的に軍事的支援を行うことが求められる。インドネシアを持っている我が国と、インドやオーストラリアを支配するイギリスが手を組むことで、フランスを完全に包囲できるはずだ。
すぐに西郷隆盛に連絡を取り、協力を求めるとともに、彼は作戦を練り始めた。冷静に世界地図を眺めながら、三方向からの同時攻撃を思いつく。そのシンプルで力強い戦略が、フランスを降伏させるために最も有効だと判断した。
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数日後、伊藤博文はイギリスの外交官と会談のために執務室に迎え入れる。彼は力強く手を差し出し、握手を交わした。その瞬間、伊藤の胸の中で何かが弾けるような感覚があった。彼はこの協力が未来に大きな変革をもたらすことを確信していた。
「作戦会議を始めましょう」と、イギリス側の外交官が言った。その顔に浮かんだ自信に、伊藤はやや不安を感じながらも、その期待に応える決意を固めた。
「大日本帝国が提供できる戦力については、まだ正確な数は出せませんが、我々には十分な武器があります」と、伊藤博文は言った。その言葉には、確信とともに冷徹な計算が込められていた。「ダイナマイトや自動式機関銃などの最新兵器を提供できます。そして、ベトナムとカンボジアを攻撃することになります。上陸さえできれば、我が軍には勝算があると考えています。」
その言葉に、イギリスの外交官は満足そうに頷いた。だが、伊藤はその表情に少し違和感を覚えた。外交官は微笑んでいたが、どこか無理をしているように見えた。彼の目には、ただの軍事的な協力以上の何かが隠されているように感じた。
「それでは、作戦を本国に伝え、準備を整えます。また、インドにも海軍を派遣していただければと思います」と、外交官は続けた。だが、その後の言葉に伊藤は違和感を覚えた。インドに海軍を配備するという提案が、どうにも腑に落ちなかった。
伊藤は内心で警戒感を強める。ベトナムとカンボジアの戦線が重要であることは間違いないが、インドに軍を投入するという話が出るとは予想していなかった。さらに、フランスが本当にインドまで手を伸ばすことができるのか、それも疑問だ。インドに軍を送る余裕があるとは思えない。
そして一番気になったのは、イギリス外交官の微妙な表情だった。それは単なる策略や外交戦術の一部なのか、それとも、何か別の意図が隠されているのか。伊藤博文は、その瞬間、何か大きな誤解が生じているのではないかという予感に駆られた。