数日後、伊藤博文は再び西郷隆盛と勝海舟を呼び出し、作戦会議を開いた。薄暗い室内に広げられた世界地図には、色とりどりの領土が塗り分けられ、各国の支配領域が一目で分かるようになっていた。特に東南アジアは、大日本帝国とイギリスがほとんどを占めており、フランスの領土は微々たるものでしかなかった。こうして全体を見渡すと、いかに大日本帝国が勢力を拡大してきたのかが、鮮明に感じられる。北米、中米、そしてインドネシア――その足跡が世界中に刻まれているのだ。
伊藤博文は、思わず感慨深くため息をついた。これまでの苦労を振り返ると共に、ふと「もし、世界征服がうまくいったら、西郷隆盛と勝海舟にも領土を分け与えて、彼らをそれぞれトップに任命しようか」と考える。しかし、現実は厳しく、まだ先の話だ。まずは明治天皇の許可を得る必要があり、そう簡単には進まないだろう。だが、夢は膨らんだ。
「勝、海軍をどれくらいインドに投入できそうだ? もちろん、我が国にも戦力を残すことを忘れるな」と、伊藤博文は真剣な表情で問いかけた。
勝海舟は顎に手を当て、しばし考え込んだ。その顔はいつになく真剣で、目を閉じている姿からは深い思索がうかがえる。こういう時、無駄に口を挟むのは良くないと、伊藤博文は経験則から心得ていた。数分後、ようやく勝海舟がゆっくりと口を開く。
「うむ……。軍の配置を考えると、主力は本土、インドネシア、インド、そして北米中米に割り振るべきです。しかし、ベトナムへの主力投入を考えると、海軍の戦力を3分の1程度、インドに配備するのが妥当でしょう」
「なるほど」と伊藤博文は頷きながら、地図の上で指を動かしていく。「北米中米に関しては、陸軍も手を貸せば、海軍の戦力をあまり割く必要はなさそうだな」と言いながら、考えをまとめる。
次に、西郷隆盛に視線を向け、質問を投げかけた。「それで、陸軍の動きはどうだ?」
西郷隆盛は一瞬、考え込んでからゆっくりと答えた。「我が陸軍が活躍するのは、上陸後だろう。まずは海軍に頑張ってもらわねばならん」
西郷の言葉には、あまりにも冷静で現実的な判断が見え隠れしていた。すると、伊藤博文は彼の目をじっと見つめる。しばらくの間、無言でその場の空気が張り詰める。
その瞬間、伊藤博文は気づいた。以前、勝海舟が西郷隆盛に煽りをかけたときと同じ、あの微妙な緊張感が漂っていた。いま、また何かが起きそうだ。さすがに自分から介入するべきだと感じ、伊藤博文は軽く手を挙げて二人の間に割って入った。「ちょっと待った。仲間同士で争っている場合じゃない」と、軽く笑みを浮かべながらも、強い口調で言った。
再び、二人の目が合う。西郷は一瞬黙ったが、勝海舟は黙って頷いた。伊藤博文は、あくまでも冷静に状況を打破しなければならないと感じた。
「それで、陸軍はどれくらい戦力を出せるんだ?」と、再度西郷に問いかけた。
西郷はゆっくりと頷く。「実際、今回はイギリス陸軍の方が役立つだろう。我が大日本帝国陸軍の武器は、ダイナマイトや自動式機関銃が主だ。特にダイナマイトは防御戦でこそその真価を発揮する。だから、イギリス軍を盾にしながら、進行するのが最も効率的だろう」
伊藤博文は納得し、深く頷く。彼は、イギリスに協力することに決めたものの、同時に今回の戦いで重要な戦力を失うことのないように、慎重を期す必要があることを痛感していた。彼は、二人に戦略通りに進めるよう指示を出し、「もう大丈夫だ。下がってくれ」と言い放った。
だが、その直後、伊藤博文は勝海舟を呼び止め、ふたりきりで話すことにした。勝海舟の表情に、何か不安の兆しが見えたからだ。伊藤博文は心の中で、杞憂に終わることを祈りながら、慎重に話を進めることを決意した。