勝海舟は広大な海を悠々と進む軍艦の甲板に立ち、海風に吹かれながら遠くを見つめていた。風は心地よく、波間を切る船の音が耳に心地よく響く。彼はその風景を楽しむ一方で、伊藤博文からの指示に対して不満を感じていた。それが過度に慎重すぎるように思えたのだ。もっと積極的で堂々とした態度を取れば、海軍の士気も高まるし、自身ももっと気持ちよく任務を果たせるはずだと思っていた。しかし、伊藤の指示に従うのが自分の役目であり、それに従わなければならないことも十分理解している。しかし、気分はすっきりしなかった。
インドに到着した勝海舟は、イギリス人の指導者に出迎えられる。彼の態度は、勝海舟が思っていたよりもずっと礼儀正しく、もてなす姿勢に溢れていた。
「遠路はるばる、ありがとうございます。貴国の援助に心より感謝いたします。さあ、こちらにおかけになってください」
指導者はにこやかに言い、勝海舟を座らせる。座布団やイスが丁寧に用意され、インド製と思われるその椅子は座り心地も良さそうだった。勝海舟はその座り心地に少し感心し、しばし思案にふける。ふと、「我が国でもアメリカやメキシコの民間人に用度品を作らせよう」と、少しだけ未来のことを考えた。
「それで、インドに着いたら物資の補給をしていただけると伺っていますが?」
勝海舟は礼儀正しく話しかける。その言葉に、イギリス人はすぐに返事をする。
「ええ、もちろんです。こちらがその補給物資となります」
イギリス人が指し示す先には、大小様々な荷物が整然と積まれている。その中には、食料や日用品がぎっしりと詰め込まれているのが見える。これで、ベトナムやカンボジアへの進軍に十分な物資が補充できるだろうと勝海舟は考えた。後はインドネシアにいる海軍部隊と連携して、挟撃作戦を実行すればよい。部下に物資を運ばせようとしたその時、勝海舟はふと、違和感を覚えた。何かが、明らかにおかしい。
その荷物の中から、火薬の匂いが漂ってきた。普通、日常品の荷物に火薬の臭いが混じることはあり得ない。勝海舟はその匂いに気づいた瞬間、思わず身を引き、叫ぶ。
「みんな、荷物から離れろ! これは罠だ!」
その言葉が耳に届くか届かないかのうちに、荷物が激しく爆発した。轟音が耳をつんざき、爆風が周囲を巻き込む。勝海舟は瞬時にかがみ込み、頭を両手で守る。その爆発の音は、まるで耳の中に激しく響くような感じで、鼓膜が破裂しそうなほどだった。
爆風が収まった後、勝海舟が目を開けると、目の前に広がっていたのは信じがたい光景だった。イギリス人のリーダーをはじめ、同胞たちの姿が無残に吹き飛び、焦げた大地が広がっていた。火薬独特の嫌な臭いが辺りを包み込み、気持ち悪さがこみ上げてくる。生き残ったのはわずかに数人。それでも、彼の冷静さと、伊藤博文の予見が彼を支えた。勝海舟は瞬時に指示を出す。
「総員撤退! 荷物には近づくな!」
その後も生き残ったイギリス人たちが銃を抜こうとするが、勝海舟はそれよりも早く拳銃を抜き、撃ち抜く。懐に忍ばせていた拳銃が役に立った瞬間だった。伊藤博文の指示が、ここでもまた的確だったと、勝海舟は改めて実感する。この裏切りは予測通りだったが、それに備えていた自分を誇りに思う。
勝海舟は海軍の本体をインドネシアに残し、余計な兵力を割くことなく最小限の戦力でベトナムやカンボジアに向かう準備を整えていた。そのため、インドにおける危機にも冷静に対応できた。
勝海舟はすぐに軍艦に戻り、指揮を取る。手を振るように命じると、指揮官たちに向けて港を砲撃するように命じた。激しい怒りを込めて砲撃を続け、イギリスの軍港に次々と砲弾が命中する。数分後、火薬の残りを引き火したのか、港は炎と煙をあげて燃え上がる。これが、裏切り者たちの末路だ。勝海舟はその後の展開を見守りつつ、改めて伊藤博文の指導力に感謝した。
戦局が落ち着くと、勝海舟は急いで電報をインドネシアに送った。坂本龍馬をはじめとする部下たちに、これからの作戦に向けた指示を伝えるためだ。伊藤博文の指導を受けたこの作戦が、果たしてどう転がるかを見届けることが、勝海舟の次の任務だった。