「ちなみにヨッシー様。すでに我らは敵に囲まれているでござる」
「はっ? ミッチー、それは本当なのかえ!?」
「マジもマジでござる! さあ、この窮地を挽回できる援軍を呼んでくだされっ!」
武装解除したのが裏目に出た。ヨッシーが窓に嵌められている鉄板を横にスライドさせた。
人ほどのサイズがあるウツボカズラ、ハエトリグサ、さらにはラフレシアが輸送車をすっかり取り囲んでいた。
「このサイズの食虫植物は見た目が気持ち悪すぎますね……」
「もちろん、マンイーターに改造してあるわよ! 服だけ溶かす奴もいたりするの! すごいでしょ!」
「この駄女神! どんな魔改造を施しておるのじゃ!」
「そんなこと言われても? 何度も言うけど、ここは難易度SSダンジョンよ?」
"どうすんだこれ、ヨッシー"
"一難去ってまた一難ってやつ"
"ファーwww 服だけ溶かす奴にヨッシーが捕まってほしいでござるぅ!"
"サービスタイム、やっときましたか……"
"わっふるわっふる"
"ヨッシー、出番だよー(´・ω・`)"
「ふっ、仕方ありませんね。ヨッシーの代わりに先生が服を溶かされてきましょう」
"おい、ノッブやめろ"
"グラサンちょんまげ男エルフの裸体なんて、需要ねえよ!"
"ノッブ(*´Д`)ハァハァ"
"少なからず需要がありそうだな……"
ノッブが果敢にもひとりで輸送車から降りる。「さあかかってきなさい!」と威勢よく植物モンスターに挑みかかった。
しかし、お約束を見事に果たす。ノッブは鞭のような
そこから力づくで脱出してきたはいいが、ノッブはパンツ1枚のほぼ全裸の姿であった。ノッブはすごすごと輸送車の中へと戻ってくる。
そんなノッブにサルがタオルを渡している……。
「サービスシーンです。たっぷり先生をカメラで収めてください」
"Oh……ノッブ"
"いやだから、ノッブの裸が見たいわけじゃねーっつーの!"
"ノッブ(*´Д`)ハァハァ"
"誰だよ、ノッブほぼ全裸でシコってるやつ!"
"ノッブのビキニパンツにおひねり突っ込みたい(´・ω・`)"
"カオスすぎる……"
ノッブは一部の視聴者の目の保養になったようだ。これでいいのか? と疑問に思うが、被害者が自分じゃないのでヨシ! とした。
とりあえず、輸送車から外に出るのは危険すぎた。ミッチーの言う通り、ここは大人しく援軍要請しておく。
スマホを取り出し、LINEアプリを立ち上げる。武田信玄は論外だ。先ほど手伝ってもらったばかりで悪いが、謙信と顕如に応援要請を出した。
「……待てど暮らせど、既読マークがつかないでおじゃる」
「ヨッシー。涙吹けよ」
「うっさいわい!」
ノッブがこちらにそっとハンカチを手渡してきた。それをパーンと床へと叩きつける。「やれやれ……」とノッブが肩をすくめた。
「ヨッシーって昔から、相手の都合を考えずにお手紙出しまくってたじゃないですか?」
「それがどうしたというのじゃ!?」
「だから……表には出しませんけど、裏では嫌われていたと思いますよ?」
「そんなーーー!? 謙信殿と顕如殿はズッ友だって言ってくれていたでおじゃるーーー!」
「今、わざと信玄くんの名前を除外しましたね?」
「……だって、あいつ、わっちにエロ写メを要求するもん」
ノッブがよしよしと頭を優しく撫でてくれた。これでパンツ一丁で、お肌が植物油でテカテカじゃなかったら、本気で惚れていたかもしれない。
ノッブの今の恰好は変態すぎた。その姿に救われたとも言えた。
「しっかし、本当に既読マークすらつかないでおじゃる」
「冗談はさておき……県知事に市長なんですよ、彼ら。単純に仕事で忙しいんだと思いますよ?」
「仕事とわっち、どっちが大切でおじゃるかー!」
「そういうところがダメなんですけど(ぼそっ)」
「何か言ったでおじゃるか!?」
つい、怒りをノッブにぶつけてしまった。そうだというのにノッブは涼しげで余裕たっぷりの表情だ。
悔しくなってしまう。大人の余裕をたっぷりと見せつけてくる。こちらは心まで年頃のJCに成り果ててしまったのか、いちいち感情的になってしまっている。
ノッブを余所に直接、電話をかけることにした。
『もしもし、こちら顕如』
「おお、顕如殿!」
『現在、法事に出席中です。ピーと鳴りましたら、お名前と要件をお伝えください』
「はーーーつっかえ! 仕事と思えば法事でおじゃったー!」
「まあまあ。法事も政治家の立派な仕事です。献金、マジ大事なので」
ノッブの最後の一言は余計すぎた。
"やっぱ政治家汚い"
"でもドサ周りって地盤固めにくっそ大事なんだよなぁ!?"
"裏金を疑われた政治家が地元のイベントとか挨拶回りをおろそかにしたら落選しちゃった☆彡っての多かったしな、去年の解散総選挙"
"もうダメだよこの国……"
"何やっても叩かれるなら、いっそ開き直ればいいのにね?"
"ドブ板選挙活動って実は正しいんだよなぁ!?"
"んま、正義病の蔓延がもっと
"謙信「呼んだ?」"
"偽物は御帰りください(´・ω・`)"
コメント欄では政治の在り方について議論が熱心に行われていた。政治に関心を持ってもらえることはこの上なく、ありがたいことだ。
そのついでに現内閣を支持してくれると表明してもらえるとありがたい。だが、その思いは叶わない。
じりじりと内閣支持率が落ちるだけであった……。
「……どうしたものでおじゃるか」
LINE友達一覧にはまだまだ援軍要請を行える候補がいた。だが、見えないフリをしたい相手もこの中にいる。
手が震える。信玄以上に厄介な気がしてならない人物にメッセージを送っていいものかと……。
「うきー!」
「サル、何をするのじゃ!」
「うききー!」
サルがこちらの手からスマホを奪い取った。さらにはポチポチとスマホを操作し、誰かに電話し始めた。
「うきー。うきうき、うきー」
(それで相手に伝わるのでおじゃる?)
疑問が渦巻いたが、サルがこちらにサムズアップしてきた。どうやら、話が通じたらしい。スマホを返されたので、そのスマホでゲートを開く位置を設定した。
次の瞬間、ヨッシーは自分の行為を後悔した。先ほど、援軍要請を出すかどうか迷った相手がゲートの向こう側から現れた。
ノッブが都会のインテリヤクザだとすれば、今、目の前に現れたのは広島のヤクザである。
きちっとしたスーツを身につけていても、じゃらじゃらとした金色のアクセサリーが目につく田舎のヤクザだった。
「お話は秀吉殿から聞きました。御大将、援軍要請していただきありがたく思います」
「うわっ、来やがったでおじゃる……」
「ひどいですね! なんでそんなに邪険な言い方なのですか!?」
「隆景……おぬしと比べれば、ノッブの方が全然マシなのでおじゃる」
――隆景。フルネームは小早川隆景だ。毛利両川のひとりとして名高い智将である。現代において広島県知事を務めている。
だが、ヨッシーはぶっちゃけ小早川隆景に対して、嫌な感情を抱いていた。そうであるというのに隆景はこちらの手を両手で包み込んで、さらには片膝をついている。
「御大将に嫌われる理由がわからぬ! ノッブ殿! 何を吹き込んだ!?」
「いや……先生は何もしてませんが? 身から出た錆……」
「むがーーー! マイ御大将! 違いますよね!?」
「お、おう……」
ヨッシーは隆景という男が腹黒いことを知っている。忠臣のように振舞っているが、戦国時代において、最初はヨッシーを歓迎しなかった男だ。
時世の流れを読むのに長けているのだ、この男は。ノッブは包容力をいかんなく発揮してくれた。
あの戦国時代、ノッブにつらく当たった記憶が蘇る。だがそれは愛情と憎しみが入り混じったが故にだ。
だが、この隆景という男とは利害だけの関係だ。マイ御大将と、こちらを持ち上げてくれるが、それを到底、信じることができない。
「マイ御大将! さあ、下知を! そこのノッブ殿よりも役立つことを証明してみせましょう」
隆景の目がキラキラと輝いていた。しかし、これはコンタクトレンズ効果であろう。
ヨッシーは覚えている。選挙協力を頼んだ時、隆景の目は死んだ魚の目だった。それが脳裏に焼き付いている。
(こやつ……絶対に何か企んでいるでおじゃる)
(まったくその通りでしょうね。サルもなかなか面倒な相手を呼び出してくれたものです)
(ノッブ殿……またしてもわっちの脳内に直接語りかけてきおって!)
(まあまあ、いいじゃないですか。便利でしょ? 内緒話するには)
ノッブの言う通りであった。ヨッシーは心の中でノッブと相談する。何もさせずに追い返せば、敵に回りかねない面倒くさい相手だとノッブに忠告を受けた。
ヨッシーは「はぁ……」と諦めのため息をつく。
「隆景殿。ご助力感謝なのじゃ。さっそくで悪いが、この輸送車を取り囲んでいる植物モンスターを薙ぎ払ってきてほしいのじゃ」
「わかりました! さあ、我の活躍を見ていてくだれ!」
隆景が颯爽と輸送車から飛び出す。できるなら、人サイズの食虫植物と相打ちになってほしかった……。