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第16話:初クエスト(9)

"ボスの弱点がお姫様(処女に限る)とか斬新すぎる"

"姫武者JCのヨッシーって弱点にカウントされるのか?"

"ヨッシーはおてんば姫"

"じゃあ、弱点をつけないな"

"ヨッシー。お姫様に援軍要請してくれ"

"でも……お姫様って誰が該当するんだ?"

"か、甲斐姫"

"あれはゴリマッチョ姫やろがい!"


 コメント欄が賑やかになる。しかし、ヨッシーとしてはもっと普通のボスにしてほしかった。


 この駄女神なら「ぼくがかんがえたさいきょうのぼす」を序盤から登場させる可能性だってあった。それを出さないだけマシとも言える。


「うーーーむ。どうしたものじゃろうて……」


 一応、お姫様の候補はあった。しかし、その人物を呼んでいいのか? という迷いがあった。


 とりあえず、普通に戦ってみることにする。こちらに同調するようにミッチーが隣に立ってくれた。


「私は悪い魔法使いオズワルド! さあ! 私がさらうに値する姫を用意したまえ!」


 魔法使いが高々と宣言してきた。それとともに魔法使いの身体から紫色のオーラが立ち上った。


 ノッブが「うぐっ!」とうめき声をあげた。片膝をついて、肩で息をしている。


「早く悪い魔法使いを倒さないと、ノッブがどんどん衰弱していくわよっ!」

「どういう仕掛けでおじゃる?」

「ネタばらしはまだしないっ!」

「ほんと、この駄女神はっ!」


 女神の言うことから推測するに、どうやらノッブはこのボスとは相性が悪いようだ。ノッブの力には頼れない。ミッチーに援護射撃を頼んだ。


 ミッチーが素早く拳銃を構える。次の瞬間、パーンパーンと連続で乾いた音が鳴り響く。しかし、銃弾は悪い魔法使いには届かない。


 悪い魔法使いは紫色のオーラに包まれている。それがそのまま防御結界になっているようだ。それによって銃弾が奴の身体に届く前に止まってしまう。


「なんとも面妖な結界術でおじゃる」

「では……ロケットランチャーの出番でござる」

「だから、ロケットランチャーは止めるでおじゃる!」

「チッ……では、どうしろと?」

「そのまま拳銃で応戦しとけでおじゃる!」

「まったく……ヨッシー様は無茶難題ばかりでござる」


 ミッチーがコルトパイソン357マグナムのみで戦ってくれた。ミッチーが発砲すると同時に悪い魔法使いへと一気に距離を詰める。


 刀を両手持ちして、それを上から下へと振り下ろす。しかし、剣先は悪い魔法使いに届かない。


 ふわっと浮きながら、こちらと距離を取ってしまう。そこへミッチーが発砲する。それを何度も繰り返した。


「ふふ……はははっ! ぬしらの攻撃、かすりもせぬっ! さあさあ! 私の弱点であるお姫様(処女に限る)を、この場に呼ぶのだ!」

「アホぬかせ! なんでそこまでお姫様を欲しがるのじゃ!」

「悪い魔法使いのアイデンティティだからだ!」

「アイデンティティなら仕方ないでござるな」

「ミッチー、そこ、納得するところではないでおじゃる!」


""そういやなんで悪い魔法使いって、お姫様をさらうんだ?"

"お決まりというか王道の類だろ?"

"いけすかないブスをさらいにいきたいか?"

"美少女は鉄板"

"そこを外したり、ずらしたりするのはただの逆張り"

"逆張り見せられるくらいなら、シンプルに王道でいいわけよ"

"王道がなぜ王道なのか。それが読者に望まれてるからだよ!"

"これでいいんだよって至言なんだよなぁ!"


 コメント欄が何やら賑わっているが、今はそちらに気を向ける余裕はない。何度、連携攻撃を繰り出そうが、悪い魔法使いに傷ひとつつけられない。


 さらに悪い魔法使いの周りに植物系モンスターが出現した。このまま戦闘が長引けば、こちらが不利になるだけであった。


(どうするでおじゃる? 援軍要請でお姫様を召喚するでおじゃる? しかし……ノッブ殿がキレるのが目に見えているでおじゃる)


 ヨッシーはまだ迷いを断ち切れなかった。お姫様に心当たりはある。だが、それをすれば、ノッブに何をされるかわかったものじゃない。


 懐に手を入れる。その手にスマホを握る。指がどうしても動かない。悪い魔法使いの弱点をつける方法は思いついているが、実行に移せない。


「うきーーー!」

「サル、何をするのじゃ!」

「うききーーー!」


 サルがこちらの首元にしがみついてきた。さらには手をスマホへと伸ばしてきた。


「サル。もしかしてお姫様に心当たりがあるのでおじゃる?」

「うききー!」


 さすがは女好きのサルだ。ここは彼に任せてよさそうだ。サルにスマホを渡す。サルがにやけ顔になりながらポチポチとスマホを操作する。


 スマホが光り輝く。それをサルから受け取り、ゲートを設置した。そのゲートの向こう側から2人の女性が現れた。


「サルーーー! その2人、呼んではいけないでおじゃる!」

「やっちまいましたね、ヨッシー様」

「うきー?」


 ミッチーがこちらに同情するように、ポンと肩に手を置いてきた。サルが呼び出したのは……ノッブの妹であるお市とノッブの嫁である帰蝶であった。


「お兄様!」

「えっと……なんで呼ばれたのかわからないけど? あなた様、大丈夫?」

「サル……切腹な?」


 ノッブの顔面にこれ以上ないほどにビキビキと赤い筋が浮かび上がっていた……。サルは当然のようにこの場から逃げ出した……。


 三国一の美女と言われているお市と帰蝶がノッブを介抱している。


"目の保養でござる"

"美しや……"

"JCヨッシーとかJK謙信が霞むくらいの美人だな"

"これが三国一の美女"

"ここまで美人だと、逆にちんこが立ちやしねえ!"

"萎縮しちまうよな"

"蛇に睨まれたちんこ"

"それでも俺はお市様で立たせる!"


 なんとも絵になる2人の美女であった。それに釣られるようにグングンと内閣支持率が上昇していく。


「ぐあああ! これがお姫様のオーラ! 私の防御結界が剥がされる!」

「お、おう。悪い魔法使いを包んでいた紫色のオーラが消えていくでおじゃる」


 悪い魔法使いは弱点を突かれて、一気に弱体化した。これでいいのか? と疑問に思う。女神がさぞ満足そうに後ろに倒れそうなほどに踏ん反り返っている。


「あははっ♪ 一見、クソボスのように見えるけど、ちゃんと弱体するように作ってあるの! 他のボスもこういうギミックが施されてるわ!」

「ふ、ふむ。一見、クソボスのように見えても、弱点がちゃんとあるのは嬉しいでおじゃる」

「でしょー? わたくしはクソゲーは作るけど、クソゲームマスターじゃないわっ!」


"クソゲーって自分で言っちゃってるぞ、この女神"

"遊べるレベルのクソゲーならいいんじゃね?"

"まあ難易度SSダンジョンだから、クソゲー! ってプレイヤーに言われるくらいがちょうどいいんだろ……"

"俺も難易度SSダンジョンに挑んでみたいな"

"やめとけ。これから先、どんどん理不尽な状況を押し付けられるぞ?"

"それでも俺はクソゲーにチャレンジしたい!"

"クソゲーに魅入られし者、現れる"


 なにはともあれ、悪い魔法使いの弱体は成功した。手も足も出せなかった悪い魔法使いに攻撃が届きそうであった。


「ミッチー、撃つでおじゃる」

「はっ! 三段撃ちでござる!」


 ミッチーが腰のホルスターからコルトパイソン357マグナムを抜く。目にも止まらぬ早業で3連射してみせた。


「うぐぁ!」


 銃弾が悪い魔法使いの両肩と腹に命中する。思わず「おお!」と叫んでしまった。攻撃が通ることがわかった。ならばとばかりに一気に悪い魔法使いに肉薄する。


「鹿島新當流が一の太刀……でおじゃる!」


 悪い魔法使いを袈裟斬りにしてやった。傷口からは血ではなく、紫色のオーラが噴射された。それを浴びてしまう。


「うぐ! 身体が鉛のように重いのでおじゃる!」

「くく……ひとりでは逝かぬよっ! お姫様ではないが、そなたとともにあちらの世界に逝く!」

「ヨッシー様! すぐに離れてください!」

「ミッチー!? 何を構えているでおじゃる!?」

「何って……5.56機関銃MINIMIでござるが?」

「アホか! わっちも粉々になるでおじゃる!」

「では、すぐに退避してください(カチャ)」


 悪い魔法使いがこちらを拘束してきた。そうしてきたことで、悪い魔法使いの位置が固定された。この機を見逃さずにミッチーがライトマシンガンを構えた。


 ヨッシーは撃たれる瞬間、悪い魔法使いの股間を膝で蹴り飛ばした。それによって悪い魔法使いの手から力が抜けた。


 ヨッシーはすぐさま、その場で伏せた。悪い魔法使いが苦々しくこちらを睨んできた。


 だが、次の瞬間、ダダダ! ダララララ! という音が周囲に鳴り響いた。悪い魔法使いが一気にハチの巣にされてしまう。


「5.56機関銃MINIMIでひゃっはー!」

「もう息の根を止めているでおじゃる!」

「死体撃ちは挨拶でござる!」

「マナーの悪いFPSゲーマーみたいな台詞を吐くでないでおじゃる!」


"ミッチーは炎上芸が上手いな"

"これゲームじゃないんだよなぁ!?"

"悪い魔法使いが塵になっていくでおじゃる"

"あばば……"

"てか、ミッチー、まだ弾喰らわせてんだけど!?"

"どんだけマナー悪いねん、こいつwww"

"誰か止めろw 放送事故すぎるwww"


 コメント欄はいつも以上に賑わっていた。しかし、ミッチーの暴走によって、内閣支持率はがんがん下降していく。


 せっかく三国一の美女の登場で上昇した内閣支持率はミッチーの死体撃ちのせいで、木っ端みじんに吹き飛んだ。


「もうツッコミ疲れたでおじゃる……」

「うきー」


 逃げていたサルが戻ってきて、自分を慰めてくれた……。


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