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第27話:武田信玄の実力

 ヨッシーは仕方なく信玄に援軍要請をした。信玄がガハハ! と言いながら現れる。彼の豪快な笑い声を聞いているだけで頭痛がする。


「魔素耐性がないものがこのゾーンにいられるのは3分間だけじゃ!」

「では30秒でケリをつけ、残りの2分30秒でヨッシーのエッチな写メを撮りまくってやろう!」

「本当に30秒で倒せたなら、その願い叶えてやるわい!」


 信玄はスーツとワイシャツを脱ぎ、さらにはズボンまでも脱ぎ捨てた。諏訪法性兜はそのままのふんどし姿だ。


 両腕を振って脇をカッポンカッポンさせていやがるのに、これまた妙に様になっているところが腹立たしい。中年腹が似合う男なぞ、信玄くらいであろう。


 そんな信玄に対して、ミッチーがストップウォッチを取り出した。勝負は公平にと言わんばかりだ。


 信玄が口角をニヤリと上げる。ノッシノッシと歩きながら、信玄が坑道に空いた横穴に身体を入れる。


 しかし、信玄がいきなりこっち側にすっ飛んできた。何事かと信玄の方ではなく、横穴に注目した。


「ぶもあああ!」


 頭は牛。身体はボディビルダーのように引き締まったヒトの身体。そして、牛の角の代わりにきのこが生えていた。


"ミノタウロス?"

"でも、様子がおかしくないか?"

"きのこが生えてるっていうより……もしかして"

"そうだ。きのこだ! きのこに寄生されてるんじゃねこれ!?"

"グロっ! これがバグの力ってやつ?"

"拙者の股間にもきのこが寄生しているでござる"

"ハサミで切り落としとけっ!"

"バカは放っておいて……信玄がんばれ!"


 きのこに寄生されたミノタウロスが横穴から踊り出てきた。「ぶもぶもっ!」と鼻息を吹き鳴らしている。


 対する信玄がゆっくりと身体を起こす。鼻に親指を当てて「ぶっ!」と鼻息を鼻血ごと噴き出した。


「信玄殿!」

「ふっ、ちょっとだけ油断したわい! ミッチー! ストップウォッチをオンしていいぞい!」

「では(カチッ)」


 ミッチーがストップウォッチをスタートさせた。信玄は不気味すぎる顔になっているミノタウロスを本気で30秒で倒すつもりなのだろう。


 正直言って、驚きを隠せない。信玄が両手を前へと押し出すように交互に突き出した。相撲でいうツッパリである。


 それに対して、ミノタウロスが右肩を前に持ってきて、ショルダータックルを信玄に食らわせようとしている。


「上手い! ミノタウロスの肩を下からかちあげましたよ!?」


 自分だけでなくノッブまでもが仰天している。


 ノッブは無類の相撲好きだ。ミノタウロスが古代ギリシャの格闘家を思い起こさせる動きを見せる中、信玄が相撲の技で対応しているとノッブが丁寧に解説してくれた。


 ミノタウロスが腕を振り上げ、それを勢いよく振り下ろしてくる。しかし、信玄はそれをまともに喰らうことはない。


 両手を上手く動かし、ミノタウロスの動きを封じてみせた。信玄の戦いっぷりを見ていると、こちらも手に汗を握ってしまう。


「速きこと、風で舞うJCのスカートの如し!」


 信玄が目にもとまらぬ速さでその場から消えた。


「静かなること、林で内緒話する百合JCの如し!」


 次に信玄を目にした時、彼はすでにミノタウロスの後ろへ回り込んでいた。


「侵略すること、恋するJCの心の火の如し!」


 さらに信玄はミノタウロスの背中側から両腕を回し、がっしりとホールドしてみせた。


「動かざること、壁ドンされたJCの山の如し!」

「ノッブ殿。わっちは……呼んだやつを……間違った気がするでおじゃる」


 信玄がミノタウロスをぶん投げる。決まり手はジャーマンスークプレスホールドだった。ミノタウロスの頭頂部が固い岩の地面に突き刺さっていた。


 ミッチーが信玄の下へと駆け付ける。その場で四つん這いになり、地面を右手で勢いよく3回叩いた。


「勝者! 山梨県知事、武田信玄!」


 ミッチーが信玄の手を取り、その場で起こす。さらには信玄の手を取り、天井に向かって振り上げさせた。


 ヨッシーは地面に放り投げられたストップウォッチを拾い上げる。現在の経過時間は29秒だった。


 そこから3秒経った後、ストップウォッチのボタンを押して、針の進みを止めた。


「ふぅ! 良い汗をかいたわい! さあ! 約束通り30秒以内だったでしょう?」

「ふむ、惜しいのじゃ。32秒で決着じゃな」

「!? そんなバカな! わしのカウントでは29秒であったはず!」

「ほれ、このストップウォッチを見よ。32秒じゃろ?」

「そんなーーー!? ヨッシー様のエッチな写メのためだけに頑張ったというのにぃぃぃ!」


 信玄が膝から崩れ落ちている。こちらとしてはげんなりとしてしまう。ミッチーが信玄の肩にタオルをかけている。


 信玄が悔しそうにそのタオルで涙を拭いている……。


(ノッブ殿。普通の写メならOKにしとくでおじゃる?)

(はい。こんな嫌な男の涙は初めて見ました……ドン引きです)


 ヨッシーは「こほん……」と小さく咳払いする。そうした後、信玄に近づいて、労いの言葉を掛けた。


「あーーー、普通の写メではダメなのかえ?」

「せめて……せめて、2人で並んだ写メが欲しいですわい!」

「あーーー、わかったわかった。ミッチー、写メを撮ってほしいのでおじゃる」

「……まともに相手する必要ないと思うでござるが?」

「いいから、いいから。ほれ、信玄殿、横に来るのじゃ」


 ストップウォッチの時間をごまかしたのはヨッシーだった。ミッチーもこちらがそうしたことに気付いていない様子である。


 余計な詮索をされる前に、ミッチーの手で写メを撮ってもらうことにした。信玄が身体を屈め、こちらの顔と同じ高さに自分の顔を持ってきた。


 さらに左手をこちらの左肩に回してきた。空いた右手でピースサインをしている。


「はい、チーズ(カシャ、カシャカシャ!)」

「ありがとうだわい! さっそく庁舎に戻って、プリントアウトせねばならぬわい!」

「ちなみにどこにその写メを飾るつもりでござる?」

「そりゃもう、市長室の額縁に決まっておろうよ!」

「……次の市長選で再選できることを祈っておくでござる」


 信玄が脱いでおいた衣服を左手で抱える。そうしながら、空いた右手でこちらに握手を求めてきた。


 ここまでサービスをしてやる義理はないのだろうが、大人しく右手を差し出しておく。ごつごつの手でしっかりと握手されてしまった。


 スマホでゲートを開き、信玄にお帰りいただく。


「とんでもなくパワフルな人でしたね?」

「ノッブ殿……」

「なんでしょう?」

「もう二度と、信玄殿を呼びたくないのじゃぁ!」

「あはは……」


 ノッブに泣きついた。ノッブは苦笑いしている。それでもよしよしと優しく頭を撫でてくれた。


 今の自分の姿はツインテールJCだ。ノッブは歳が離れた従兄のようなオーラを醸し出している。ノッブには安心感を感じる。


 対して、信玄からはいい歳した父親が娘に甘えてくる気持ち悪さを感じてしまった。一言、はっきりと言わせてもらえば、信玄に恐怖を感じてしまった。


"ノッブの包容力の高さよ……"

"ノッブとヨッシーはぎりぎりアウトだけど、信玄は余裕アウトだなっ"

"信玄、強く生きて……"

"いや、40代の中年がJC相手に鼻息荒い方が悪い"

"父親とその娘くらいに歳離れてんのに……何やってんの信玄"

"[¥30000]信玄、きみはよくやったよ……"

"[¥5000]信玄さん、ヨッシーのエロ写メ買うときの足しにしてください"

"おまわりさーん!"

"でも、信玄には再登場してほしい"

"あのキャラの濃さを一度で終わらすのは惜しいよな"

"自分が当事者じゃないから、ホッとするわ"


 信玄は視聴者の目を楽しませたようだが、同時に気味悪く思われたようだ。信玄がボスモンスターを倒したというのに、内閣支持率は微動だにしなかった……。


 正直、呼んだだけ損だった気がしてならなかった……。


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