森には、鹿っぽい動物『ランドル』や、兎っぽい動物『ポッピル』を狩りに行く。
この世界には、名前の違う動物がいるみたいだ。馬や牛といった元の世界と同じ名前の動物や植物ももちろんいる。途中、植物も採取しておこう。
森を散策していると、草のかすれる音が微かにした。
ランドルだ。仕留められるか。
前世で頭を一発で仕留めるようにとかそんなことテレビで言っていたような。
銃とかあればよかったんだが。弓で仕留めよう。ヘッドショットを狙う。
しっかりとランドルの頭に狙いを定め、弓を射った。
「よしっ!命中だ!すぐに血抜きをしよう。」
初めてだったが、なぜかすごい力が出せた気がする。この体のおかげか。
手早く血抜きを終わらせ、ランドルを背負って散策に戻った。
本で読んだ食べられる植物を採取し、元の草原へと戻ろうとした。
森を数時間歩き、そして迷った。
どっちに行けば草原に出られるのか、困った。
「こんなにも方向音痴だったか?」
日も暮れそうだったので少し焦っていた。
歩き迷っていると、木の下で女が倒れていた。
「おい!大丈夫かっ!」
女の下へ駆け寄り、耳を口元に近づけた。
意識はないが息はある。よかった。生きてる。
よく見ると少しやつれているようだった。着ているものもボロボロだ。
そしてあることに気づいた。耳だ。
俺と比べて少し長い。
「これって、、、エルフ?なのか?」
初めて見る違う種族に戸惑ったが、助けたいという思いが先走った。
このままここに放置するのは危険だと思った。
「野宿になるがここで休むか。」
野宿なんて初めてだが、アイテムボックスから調理セットを取り出し、ランドルと山菜でスープを作った。
「こっちにきて初めての料理。味は少し薄いが、上出来かな。」
料理は前世に中華屋でバイトをしていたので、その経験が役に立った。
ランドルの角と毛皮はとっておこう。
スープの香りで気が付いたのか、起きたようだ。
「あ、あのー、大丈夫ですか?あ、あの~?」
「え、あ、はい、大丈夫です。」
「え、あれ、あなたは?誰ですか!?」
酷く怯えている。そりゃそうだ。起きたら知らない男がいるのだから。
「落ち着いてください!おれは篭本灯生って言います。」
「あなたが倒れていたのを見つけたので、その、このまま放置しておくには危険かと思いまして。」
「す、すみません!?見守っていただいたのですね。ありがとうございます!」
彼女のお腹が鳴った。空腹のようだ。
「とりあえずスープ食べますか?」
「え、あ、いいんですか?」
「もちろんです!少し作りすぎてしまったので、食べてくれると!冷めないうちにどうぞ!」
「ありがとうございます!!」
スープを装い、彼女にあげると、すごい勢いで食べ始めたかと思ったが、やがて泣き出した。
よっぽどお腹が減っていたのか。悲しいことがあったのか、聞くのは黙っておこう。
少し落ちついた頃、彼女から話し出した。
「すみません、、、こんなに優しくしてもらったこと、、、なかったので。」
「スープ、とてもおいしかったです!ありがとうございます。」
「うん!それはなによりだよ。少しは落ち着いたかい?」
「はいっ!ありがとうございます!こんなにおいしいご飯初めて食べました!」
「料理人さん?か何かですか?」
「いや、えぇーっと。」
転生してきました!!なんて言えないし旅人とでも言っておこう。
「た、旅をしてるんですよ!旅人です!お口に合ったならよかった!料理は祖国で覚えました!」
「そうなんですね!助けていただきありがとうございました。」
「私の名前は、ルーナと申します。ひなりさん?と仰いましたか。どこの国の方なんですか?」
「あまり聞き馴染みのない名前の響きだったので、、、」
「あ、あぁ〜、えぇ〜っと、ひ、東です!東から来ました!」
うん、日本は西洋から見ると東だ。間違ってはない、が、大丈夫だろうか、、、
「そうなのですね!遠くから旅をしてきたんですね!」
「私とは大違い、、、夢のような話です、、、」
上手くごまかせた。ふぅ〜。
「そ、その!ルーナさんはなんでこんなところで倒れていたんですか?」
「それは、、、」
「あっ、すみません!言いたくなければ言わなくていいです!」
「大丈夫です。命の恩人には話しておかなくては、、、」
「私は、、、その、、、逃げてきたんです。エルフの森から、、、」
やはりエルフなのか。エルフといえば森人と言われる種族、っていうイメージだけれど、、、
どうしてこんなボロボロに、、、
「私の父は人間族で母がエルフ族、二人から産まれた私はハーフエルフなのです。」
「私の両親は幼いころに殺されてしまって、、、叔母に引き取られ叔母の元で育ちました。」
「大森林 エルフの樹海の住人はハイエルフのみ。私だけハーフエルフで、周りからは鋭い目線で見られてきました。叔母の言いつけで、小さいころからずっと下働きの生活をしてきました。」
「叔母の言うことは絶対で、口答えをすれば鞭で打たれたり、食事をくれないことも。」
「でも、もう耐えられなくて、、、逃げてきたんです。あの森から。」
「しかし、どこに逃げても私はハーフエルフ、ハイエルフになれない半端者、醜いエルフなのです、、、」
醜い、その言葉に親近感が湧いた。前世の俺と同じ境遇のような気がした。
俺はとっさに、
「そんなことない、そんなことないよ!虐げられて、逃げてまで頑張って生きようとしている!逃げることは悪いことじゃない、あなたは綺麗だ!」
「き、きれい、、、ですか、、、もったいないお言葉です、、、」
ルーナさんの目からまた涙が溢れだした。
俺はとっさにそう言った。俺と違って綺麗だと、そう思った。
いや、許せなかった、この世界までそんな境遇があることに。
そんな人たちを救いたいと、そう思った。
「その、ルーナさん?行く当てはある?その、もしよかったらなんだけど、、、」
「なんでしょう、、、?」
「俺と一緒に旅をしないか?」
「その、なんというか、、、この国には初めて来たし、案内してほしーなー、なんて、、、」
「ご、ごめんっ!急に知らない男から一緒に旅をしようだなんて嫌だよね、、はは、、ははは、、、」
「いっいえ!嬉しいです!」
「その、、私も同じことを考えていました、、、一緒について行っていいものか、と、、、」
「それに案内役も必要でしょ!私に任せてください!」
「い、いいの?ほんとに?仲間ができて嬉しいよ!」
内心ほっとした。女性を誘うなんて初めてだ。前世では孤独だったから、、、
何もかも初めてだ。少し気恥ずかしい、、、
それに案内をしてくれるのは心強い。本ではわからなかった国のこともわかるだろう。
「そうと決まれば!家に帰るとするか!」
「い、家ですか??家があるのですか?」
「あー、うん!あるんだけど、、、その前に、、、草原というか広い場所って近くにないかな?」
「森に狩りをしに来たんだけど、迷っちゃって!」
「草原ですか?ちょっと待ってくださいね!」
と言うと、ルーナさんは木とぶつぶつとしゃべりだした。
「わかりました!あっち、らしいです!」
「今、木と喋ってなかった??なんでわかったの??」
「木の精霊に聞きました!エルフは精霊と話せるので!」
ファ、ファンタジーだ!精霊もいるのか、、、すごい世界だ、、、
「そ、そうなんだ!それじゃあっちに進んでみようか!」
「はいっ!行きましょー!!」
そして一緒に森を抜け、本当に草原にでた。
す、すごい、ルーナさん、、頼もし過ぎる!!!
「ありがとうルーナさん!助かったよ!」
「いえいえ!こんなことお安い御用です!」
「それじゃ、家を用意するね!」
「家を用意?それはどういう?」
『アトリエ』を取り出した。やっとゆっくりできる!
「こ、これは!?どこから現れたんですかこの家!!!」
「まぁま、気にせず、どぞどぞっ!」
「は、はい~。お邪魔します!」
「ひ、広い!それに見たことないものばかりです!」
ルーナさんは物珍しそうに辺りを見回って、それは子供のようだった。かわいい。
お、俺はなんてことを思ったんだ!かわいい?こんな感情は初めてだ。
「と、とりあえず、先にお風呂に入ってきなよ!」
「ありがとうございます!それでは失礼して、、、」
ーしばらくして
「ひぇ~!」
何かあったようで行ってみると。
「どうしたの?ルーナさん!」
「水が!お湯で!雨のように降って!」
「あー、それはシャワーって言うものだよ。まぁ気にせず、ね!」
「ってごめん!急に入って!見てないから!湯気で見えてないから!すぐに出るよ!」
「す、すみません!!私が叫んだので、、、心配してくださってありがとうございます!!」
お互いタジタジである。
女性がお風呂に入っているのになんで入ったりなんか、、、おれは馬鹿だ。
女性と過ごすということはこういうことなんだろうか。
これが毎日続くのか、、、俺の気が持つかどうか、、、
転生した初日はいろいろあったが、ぐっすり眠れた。