ケルバの城門が近づくにつれて、俺たちの足取りは自然と早まっていた。だが、近づくにつれ、目に映る現実に胸が重くなる。
崩れかけた城壁はそのままだった。石材を積んだ荷車はあちこちに放置され、数人の獣人兵が修復作業をしている姿が見えた。瓦礫の山が市街地の入口近くにまで残されていて、黒く焦げた建物も散見された。
「これは・・・ひどいな・・・。」
俺が呟くと、アポロンが手をぎゅっと握ってきた。
門をくぐると、より強く戦争の痕が感じられた。かつて、大通りだったであろうところは瓦礫が未だに散らばっており、出店の多くが焼け焦げ、骨組みだけを残していた。通りを歩く人々も、どこか疲れたような表情をしている。
「王国軍が侵攻してきたのは、半年前だったか。」
獣人の青年の一人が口を開いた。
「魔人族が来なければ、ここはもう。」
「まさか、王国がここまでやるとはな。」
別の者が吐き捨てるように言った。
「俺たちをただの野蛮人だと思ってやがる。」
奴隷にされていた獣人のみんなが彼らと合流した。荒れ果てた家を見て唖然とするものや家族と再会できた人もいた。みんなそれぞれだ。と、その時。
「おーい!無事だったか!?」
そんな中、遠くからこちらに向かって手を振る獣人がいた。大柄な虎の男で、重そうな甲冑を身に着けている。彼の後ろからは、同じように武装した獣人たちが数名続いていた。
「カイおじちゃん!」
リアがぱっと表情を明るくして走り出す。
「リア!?お前、生きてたのか!」
カイと呼ばれた男は、走ってきたリアを力強く抱きしめた。
「無事で・・・よかった・・・!」
再会の感動が、周囲の空気を一瞬だけ和らげた。
「リア、こちらの方は?」
「私はリアの叔父で、今はケルバ軍の前線隊長を務めております。」
カイが俺たちに礼儀正しく頭を下げた。
「リアを守ってくれてありがとう。」
「いえ、俺一人の力じゃありません。リアも、自分で自分を守りました。」
「そうか・・・。あなたがリアを保護してくださったのですか?」
「灯生と申します。俺と仲間のルーナと保護しました。今では仲間もだいぶ増えましたが。」
「そうでしたか。心から感謝します、ありがとう。灯生殿、ご相談なのですが長老に会っていただきたく。今回の仲間救出の恩もございますので。」
「わかりました。仲間も一緒でもいいですか?」
「勿論です!長老はケルバ城へおりますのでご案内いたします。」
それからカイは、俺たちをケルバ城へと案内してくれた。道中、焼けた民家、仮設の住居、薬草を配る治療所など、戦禍の爪痕がいかに深かったかを物語っていた。
「王国軍の侵攻は、唐突でした。」
カイは語り始めた。
「外交の場では友好的な姿勢を取りながら、裏では軍を動かしていたらしい。どうせあいつのせいだ!ドカチリチのやつめ!」
「なぜ、こんな・・・。」
俺の言葉に、カイは苦い顔をした。
「奴らにとって獣人族は、扱いやすい労働力や家畜としてしか俺たちを見ていない。」
俺は唇を噛んだ。異世界でも、いや、異世界だからこそ、人間の欲深さは際立つのかもしれない。
「だが、魔人族の助けでなんとか防衛には成功しました。」
「カイ、もうドカチリチはもういないよ。俺が復讐したからな。彼がここを侵攻することはない。」
「だが、他の王国軍が再び来ない保証はない!」
「それも・・・そうだな。」
しばし沈黙した。
「君たちの力を借りられないか?」
カイがそう口にしたとき、仲間たちが一斉に俺を見た。
「それはもちろんです。とりあえずケルバの復興と守りを固めましょう。」
「本当か!!それは有り難い!本当に助かるよ!!」
「みんなもそれでいいよな?」
勿論と言った顔だ。まぁそのために来たのだから。