カイの案内で、俺たちはケルバ城の中へと足を踏み入れた。
城壁の損傷はひどく、応急処置で板や石材が打ちつけられていた。門番たちは疲れた目をしていたが、カイを見ると敬礼し、重い門を開けてくれた。
「これが、ケルバ城か。」
「こちらです。」
城内も例外ではなかった。破壊された廊下、砕けた石像、壁に深く刻まれた剣の痕。兵士たちが忙しく行き来する中で、俺たちは重苦しい空気の中を進んでいった。
「カイ、長老は無事なのか?」
俺の問いにカイは頷いた。
「無事だ。ただ、かなり神経をすり減らしている。長老という立場でありながら、この惨状に何もできなかったと、自分を責めている。」
カイに続いて進むと、大広間に通された。かつては式典や儀式が行われた場所らしいが、今は作戦会議の拠点として使われているようだ。地図や書類が広げられた机を囲むように、数人の重装の獣人たちが立っていた。
その中で、ひときわ落ち着いた雰囲気を放つ人物がいた。
「君たちが我々の仲間たちを助けてくれた者たちか?」
重々しく、はっきりと響いた声で語りかけてきたのは、中心に座っていたこの獣人国 ケルバの長老 ライザンだった。年老いたライオン族の獣人で、灰色混じりのたてがみと鋭い金のきれいな瞳だ。
「はい。俺は灯生と申します。そして仲間たちです。奴隷にされていた獣人たちを、王国の地下で見つけて解放しました。先程、彼らと共に、ケルバへ戻ってきたところです。」
「そうか。私はこの獣人国 ケルバの長老 ライザンと申す。この国の民を救ってくれて、心から感謝する、灯生殿。」
長老が深く一礼した。王の表情に、わずかながらも柔らかさが戻った。
「この国は、半年前、王国軍の奇襲を受けた。」
重苦しい沈黙の中、王が語り出した。
「我らは外交を信じ、守りを
「ドカチリチでしたら俺が仕留めました。」
「そうか。だが、王国そのものの脅威はまだ消えていない。我らは、また狙われる。」
長老の背後で控えていた参謀らしき獣人が、古びた地図を広げた。
「王国軍の駐屯地が南東に増設されつつあります。再び侵攻してくる可能性は高いでしょう。」
「時間がないな。」
長老は低く唸り、俺に向き直った。
「灯生殿、君たちに力を貸してほしい。魔人族とは協力関係を築けているが、我が国には人手が足りない。復興も、守りも、希望も・・・すべてが不足している。」
仲間たちが俺を見る。誰一人として反対の顔はなかった。
「勿論です。俺たちは、ケルバを守るために来たんですから。まずは、立て直しましょう。人々が安心して暮らせるように。」
「本当に、ありがとう。」
長老の顔に、かすかな光が差した。それは、戦乱に覆われたこの城で、久しぶりに見た救いの表情だった。
その日から、俺たちはケルバ城の一員として動き出した。崩れた街、傷ついた心、そして襲い来る次の脅威。
すべてに立ち向かう準備を始めるのだった。