「長老よ、戦乱で焼かれた民の家は多く、治癒薬も尽きかけている。兵も疲弊し、今襲われたら持たぬ。まずは街と兵の再建が急務かと。」
「うむ。だが、時間はない。王国軍はこの地に未練があるはずだ。」
その時だった。部屋の奥から、地図を広げた青年の獣人が現れた。
「失礼します。軍師セイルです。復興と防衛計画の草案をまとめました。」
その地図には、城下に点在する避難所や、仮設の兵舎の位置、物資の輸送路が記されていた。
「まず、瓦礫の撤去と水路の整備。それから北門と東の壁を優先的に修復する必要があります。兵は、回復の早い者から監視班に。避難民の中からも志願者を募ります。」
「一般人まで兵に?危険では?」
「いえ、武器を取るのではなく、巡回や情報の伝達を担ってもらう。戦えぬ者にも居場所はあります。」
「あのーすみません。被害はこの地図一帯でよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうだが。」
「あの、俺、すぐに直せますけど・・・。」
沈黙が数秒間続いた。
「灯生殿、ここにきて冗談は無礼ですよ。」
「いや待て。灯生殿、本当に出来るのだな?」
「はい。追加で治癒魔法も付けときますね。それでは手っ取り早く。」
俺は広範囲に、空間魔法 エンドゥレイスンで復元し、最上級治癒魔法 エレメントヒールをかけた。
すると城壁は勿論、街も道も、今いる城でさえかつての姿を取り戻した。
「こ、これは!?」
勢いよく外から獣人の衛兵が飛び込んできた。
「ご、ご報告いたします!怪我をしておりました住人や兵士が全員回復しております!!、そ、それに街が以前のように戻っております!!」
「な、なんだと!?」
「追加で攻撃耐性、魔法耐性を付与、結界魔法も張っておきましょう。これくらいやれば十分ですよね?魔王さん?」
「な、なぬ!?ま、魔王だと!?」
「それに付与魔法に結界魔法だと!?」
一度に大量の情報で混乱しているようだ。
「すまない、申し遅れた獣人国の長老よ。先日召喚された魔王 イーゴリ・サリヴァンと申す。」
「あ、それはご丁寧にどうも・・・獣人国の長老 ライザンと申します。」
なぜいつも挨拶は営業の取引挨拶みたいなんだ。
「ってちがーーう!!灯生殿、これはどういうことでしょうか!?」
「どうもこうもさっき言った通りですけど。人間国が勇者召喚を行ったので魔王さんは無理やり召喚されたのです。うちの仲間にも魔王さんの元四天王のアルファスもいますし、そのご縁で一緒に旅をしているところです。」
「はぁそうなのですか・・・ではさっきの魔法は??」
「それもさっき言った通り、街は元の状態に、治療が必要人は治癒する魔法を、それから国全体に付与魔法と結界魔法を施しましたが、何か問題でも?」
「いやいやあれほどの大魔法は見たことがなかったので、それに詠唱もなく多重に魔法をかけるなど聞いたことがありません!!」
「え、そうなんですか?え、魔王さん、そうなんですか??」
「我もそれが普通なんだが、アルファスよ、どうなんだ?」
「え、私ですか!?いや魔王様をいつも見ていたのでそれが普通かと・・・ロータスどうなんだ?」
「まぁここ数百年の歴史においても希有な存在であることは確かですが。そもそも獣人の方は魔法はあまり使われないでしょう。」
「そ、それもそうですね、すみません、取り乱して。街を直してくれたこと、そして強化してくれたこと感謝する、灯生殿。」
「そんな大したことはしてませんよ。亡くなった生命はもう戻ってきませんから。それより問題はこれから来る王国軍の方じゃないですか?」
「それもそうだな。どうしたものか。」
「王国軍の駐屯地が南東にあるんでしたよね?」
「あぁそうだったな。そ奴らを何とかしないと。」
「分かった。俺たちでやろう。」
仲間たちも頷いた。
「魔王さんやみんなはここにいてくれる?何かあったらここを守ってほしい。俺は夜に少し様子を見てくるから。」
「お一人でよいので?そうだね・・・アルファス、一緒に来るかい?」
「はい、御供いたします。」
「わかった。それじゃ俺とアルファスで行ってくるよ。」
長老は、静かに拳を胸に当て、敬意を示した。
そして、城の外では太陽が落ち始め、月が昇ろうとしていた。