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18 出撃の刻、雷鳴の号砲


夜明け前、空はまだ紺に染まり、霧が薄く地を這っていた。

ケルバ城の巨大な門前に、獣人軍と灯生たちが整列する。

重苦しい沈黙の中に、確かな決意だけが息づいていた。


軍師セイルは前に出て、静かに布陣を確認する。

風に揺れる外套の下、彼の青の瞳が鋭く戦場を見据えていた。


「前衛にはカイ様率いる猛虎隊、側面を狼牙団が支え、灯生殿とアルファス殿が魔術対策部隊を!

 灯生殿、敵は魔術障壁を張っております。それを破壊すれば敵に油断が生じるかと。」


「了解!」


その口調は冷静そのもので、感情を排し、論理と効率を最優先とした軍師のそれだった。

アルファスが小声で灯生に囁く。


「こちらの軍、かなりまとまっておりますな。鹿族のセイルと言ったか、軍師と言うだけはある。」


灯生は小さく頷き、己の掌に力を込める。

敵は王国軍第二師団。

魔術対策部隊や対獣人戦特化部隊もいると聞くが、勝機はある。

セイルの計画と、仲間たちの力があれば。


魔王やセリーヌ、アーロそしてリアは城でアポロンの子守り。

ルーナは後方の鹿族弓部隊に。

ロータスはと言うと……俺たちの元へ来ていた。


「あれ、ロータス。参加するの?」


「久々の戦いですので。それに灯生様とご一緒するのは楽しいですから。」


「あぁそうなんだね……。」


嬉しいようでなんともむず痒い言葉だ。


そのとき、ライザン長老が城壁の上に立ち、軍全体を見渡した。


「獣たちよ、我らは今、選択の時に立つ。牙を折られ、声を奪われるのか。否!

 これは未来を奪わせぬための儀だ。叫ぶな。戦え。誇りは喉で語るものではない。血潮で語れ!」


短くも強い言葉が、全軍の魂に火を灯す。


そのまま、城門が軋みを上げて開かれる。獣たちの息がそろう。

雷鳴のような咆哮とともに、ケルバ軍が出撃した。


――前線。


獣人軍の猛攻に対し、王国軍は素早く反応していた。

魔術対策部隊が布陣し、魔法障壁が張られている。


「魔法障壁か、たわいもない。」


とアルファスが呟き、笑みを浮かべる。


「アルファス、術者だけ狙えるかな?」


「御意。」


アルファスは地に掌を付き降ろし、影の沼を生み出す。


「シャドウレイク!」


魔法障壁を張っている術者たちが次々と影の沼へと引きずり込まれ、見事に崩れた。

それを見ていた兵たちも動揺を隠しきれない顔になっていった。


「アルファス、お見事!」


「勿体無きお言葉!」


次いでロータスが、敵の陣形に血の斬撃波を繰り出し、敵の前衛らを錯乱させた。


「ロータスもなかなかだね!」


「こんなもの数百年前の大戦に比べたら他愛もないですよ。」


普段、無表情のロータスが生き生きしている。なんてかわいいんだっときゅんとしている場合じゃない!


一方、ルーナは遠距離から雷弓を放ち、灯生とアルファスの周囲に張りつく敵を正確に排除していく。

鹿族弓部隊との連携、魔力の精度と速射のセンスは抜群だった。


「侵入口、開きました!」とルーナが叫ぶ。


そこへ、ケルバ軍の狼牙団が突入。敵軍は形勢を崩され始め、ついに本陣の防壁が崩れ落ちる。


その瞬間、獣の咆哮が轟いた。


「吼えよ、誇り高き獣たちよ!」


ライザンが先頭に立ち、白銀の槍を掲げて叫ぶ。


「今こそ未来へ牙を剥けッ!」


獣たちは吼える。雷鳴のごとく、空が震える。


王国軍との決戦が、今、始まった。


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