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3 驚きの再会と古語の書


ミンチェスター邸の広い庭園。

春の陽光がやわらかく降り注ぐ中、久しぶりの再会の空気が静かに満ちていた。


「ポナドじぃ! 久しぶりだね!」


アーロの声が庭の静けさを切り裂く。

年老いたが威厳あるその姿が、こちらへとゆっくりと歩み寄る。


「アーロ! おぬしも元気そうで何よりじゃ!」


硬く握手を交わす二人。

どこか懐かしさと、互いの成長を認め合う尊敬が漂う。


そこへ灯生とロータスが現れた。

灯生は2人が作ってくれた魔剣『天景』を軽く振り、刀身の輝きを確かめている。

ロータスも同じく『朝霧』を見せにやってきた。

と同時にポナドじぃが『朝霧』を凝視した。


「この刻まれとる文字はなんと言うんじゃ?」


「久し振り、ポナドじぃ! それは俺が入れた名前だよ。“アサギリ”と読むんだ。」


「アサギリか……。この刀身の筋、この打ち方、どこかで……。」


「ポナドじぃ、これは師匠が作ったものだって。」


「なんと! それは本当かアーロよ! これが、かの名匠ガンドロフの技か……。」


ポナドじぃの瞳が輝く。

かつて伝説と呼ばれたドワーフの鍛冶師、ガンドロフの名を聞き、思わず目を見張った。


「最後の傑作だと聞いている」と言うロータスは表情を一切変えない。


感動のあまりポナドじぃは静かに深呼吸をしたあと、持っていた杖を置き、無意識のうちに鍛錬台へと歩み寄った。


「わしはまだまだじゃ……。負けてはおれん。」


長年の技と経験が染みついた動きは、まるで歳月を感じさせない鮮やかさだ。

歳を忘れたように汗を流すその背に、アーロもまた胸を熱くし、剣を握りしめた。


「見ておれ、アーロ。名匠ガンドロフの剣は、ただ美しいだけではない。

 その刃が切り裂くのは、敵の心の弱さまでじゃ。真の強さは、技の奥にある気迫と精神にあるのだ。」


ポナドじぃの一撃が鍛錬台に鋭い音を立てる。

アーロはその一瞬の間に、剣に込められた気の流れを感じ取った。


「師匠が伝えたかったのは、そういうことか……。」


アーロは小さく呟き、剣に力を込めて同じ動きを真似た。


 ***


庭園の奥の演習場。タンリックが剣の型を繰り返していた。

そこへリアが颯爽と現れた。


「おじちゃん、久しぶり。今日、勝負してみない?」


挑戦的な笑みとともに差し出された手。タンリックは微笑み返す。


「再会早々おじちゃんはないだろう、リアの嬢ちゃん。まぁそう来ると思ったぜ!」


二人の剣戟が火花を散らす。

リアの身体能力は以前より遥かに向上し、素早く力強い動きにタンリックは驚きを隠せなかった。


激しい攻防の中、かつて共に冒険した日の記憶が蘇る。

勝敗は付かず、二人は互いの実力を認め合い、静かに息を整えた。


「守るべきものがある限り、私は何度でも戦う」リアの言葉がタンリックの心に響く。


激しい模擬戦の後、演習場の縁で汗をぬぐいながらリアが話し始めた。


「獣人国で両親と再会した。生きていてホッとした……。」


タンリックは静かに頷く。


「別れる前の夜、祝祭に参加した。あの時の焚火の炎と、満天の星空は今でも忘れられない。」


タンリックは微笑んだ。


「さっきのリアの嬢ちゃんが言ったこと、『守るべきものがある限り、私は何度でも戦う』って。

 いいじゃねぇか! 少しは成長したんじゃないか?」


リアは少し照れくさそうにしている。


「守るべきものがあるから、戦うんだな。」


リアの言葉にタンリックは、

「そうだな。まっ、先に俺を倒さないとまだまだだけどな!」


タンリックの顔面にリアの拳が直撃した。


 ***


邸内の書斎にて。灯生、リア、ルーナ、セリーヌが机を囲んでいた。


リアが母から託されたという古びた本――“獣神の系譜”を慎重に開く。


「この文字、カイがまとめていた獣人古語の本と照らし合わせれば……」と灯生が指示を出す。


翻訳作業が始まる中、古語から浮かび上がるのは“獣神”についてのものだった。


——四種の聖獣が人の姿を得て、森を守っていた


——その血を引く者は時に『原初の徴』と呼ばれる力を持つ


——“獣神の残響”と呼ばれる特異な力


——黒猫族は風と影を読み、“迅なる爪”と呼ばれる古き戦士の末裔だ


ルーナが静かに本の上に手をかざすと、ほのかに青い光が文字の一部を照らした。


「この文字、魔力で隠されているかも。」


ルーナが呟く。


「試してみましょう。」


セリーヌはゆっくりと呪文を唱え始めた。

文字の一部が浮かび上がり、新たな一節が現れるが、一部の文は判読できず、謎めいた記述が続く。


——“獣神”が“神代の協定”……


——“獣神”が交わした盟約は、未だ終わらず……


部屋の中に重い静寂が流れ、誰もがその言葉の意味を噛み締めていた。


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