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第29話 寂しさと…

「もう、すっかり夜なんだな」


俺は薄暗くなった校舎を一人歩いていたりする。

杉浦が借りた本の返却代行がまさか、歪理がらみに発展するとは思わなかった。

さらに言えば、陽輝君も夜詠者とはなぁ。


世間は狭いって事なんだろうか?


まあ、彼と仲良くなった事自体、奇跡に近い気もしないではないが…。


それにしても、蓮と陽輝君か。

同じ使命と呼んで良いのかは謎だったりするが、とにかく、友人達の共闘は凄くグッとくるのも事実なわけで…。


俺はミーハーかよ。

でも、パンと数字で解決って異色の組み合わせすぎるよな。


とはいえ、完全傍観者状態な俺はちょっと、寂しかったりするのは普通の男子高校生だから仕方がない。それでも、空気は読める方だと自負している。だから、戦いを終えた彼らを置いて、先にお暇したのである。夜詠者同士、きっと積もる話もあるだろうからな。

という事で、俺は静かに、歩みを進めるだけだ。

それにしても、さっきまで、日常とはかけ離れた現象に遭遇したわりには、見慣れた学園の景色は平凡そのものだ。


と語ってみたのはいいけれど、あの二人を魔力電室に置いてきたのは正解だったんだろうか?


「でも、まあ…。蓮の願いは叶ったって事だよな」


何せ、他の夜詠者に挨拶をしたいって話していたわけだから。

というわけで、きっと、彼らは濃密な話をしているはずだ。


しかし、そうであっても整合性とやらで消されてしまうんだろうか?

屋上のプールがそうだったように…。

はあ…。今になってその事を思い出すとはな。

やれやれ。俺も中々のポンコツ男子高校生だったか。

もう少し、二人にくっついておくべきだったかもな。


だが、あくまで部外者な俺が夜詠者の世界にどこまで足を踏み込んでいいのか躊躇する気持ちもあるわけで…。


例え、観察者と呼ばれていてもだ。

二人の中だけで完結するであろう会話を俺だけが覚えているのはおかしい。

だから、聞かないという選択も正しいはずだ。

と、俺は自分の行動を正当化したいだけなのかもしれない。


この瞬間もただ、ひたすらに図書館を背景に坂を下っていく。

すれ違う生徒達はまばらだ。


肌を突き刺すような冷たい風が周囲の木を揺らしていた。

そこにはどこか悲しげな水の香りも混ざっている。


何かに導かれるように向けた先には海埼さんがいた。

そして、石房先輩と陽輝君の従弟の量見君の姿もある。

その全員が戦闘ローブに身を包んでいる所を見ると、これから戦いに向かうのかもしれない。


「あの先にあるのは複魔区ふくまくだけのはずだけど…」


図書館よりもさらに奥の林の中には立ち入り禁止のエリアが存在している。

それは魔法が体系化されて間もないころに使われていた旧多属性応用魔法施設の跡地。

詳しい事は知らないけれど、確か違法魔法実験が繰り返されたために異様な魔力が周囲を漂っているって言う話だったような?

どうして、そんな危険な場所が学び舎の敷地内にあるのかは謎であるが、まあ、歴史が長い学園であるので、いろいろときな臭い時代を潜り抜けた証だと思っておこう。

それに今となってはその魔力量も安定してきているという話である。

つまりは一般人の俺が踏み込んでいい領域ではないという事だ。


それに、魔法師さんである海埼さん達が危険区域に入るのは何もおかしな話ではないはずだ。


「本当に彼女は遠い存在になったんだな」


小学生に上がる前。俺には仲の良かった少女がいた。

保育園が一緒だった彼女は魔法師に憧れていた。


――「どうして私には魔力がないの?桜真くん。私、悔しいよ」


涙ぐむ彼女は六歳にして、絶望を知った。

そして、俺は慰める言葉を知らなかった。

だから、そばに寄り添う事にしたのだ。


――「魔法が使えれば、あの星たちのそばにいけるのに…」


どんなに魔法技術が進んでも、生身で空を飛べるのは魔法師だけだ。


――「星を近くで見たいから魔法師になりたいの?」


彼女はふにゃりと笑うだけで答えはくれなかった。

そうして、俺達はそのまま小学校にあがるものだと思っていた。

けれど、神様…いや、魔法っていうのは時に奇跡を起こすらしい。


――「千世ちゃん!!」


その日は突然やってきた。泡喰いあわぐいとも呼ばれる魔異禍認定される魔法雨マギアレインが突如として発生したからだ。それらは魔力を吸収する性質を持つ。だから、魔法に素養のない人間には無害なはずだった。だから、俺も彼女も他の友人達もその雨の中で遊んでいた。

けれど、違っていた。親友だった少女が突然、頭痛を訴えてその場で倒れたから。


何度、名を呼んでも彼女は目を覚まさなかった。

降り注ぐ雨の中、大人達が駆け回っていた。

そして、二日後。病院のベッドで目を覚ました彼女にホッとしたのを覚えている。


――「誰?」


仲が良かった少女は俺を忘れていた。

他のすべては覚えていたのに…。

そして、以前と異なっていたのはそれだけではない。

少女は恋焦がれていた魔力保有者になっていた。


医者の話によれば、魔異禍によって魔力を有する事は特異な症例ではあるがないわけではないという事だった。その逆もあると知ったのは少し大きくなってからだ。


俺達の縁はその時を境に途切れてしまった。

どんなに魔法師とそうでない人達との距離が縮まったとはいえ、薄い壁みたいなものはまだあるって事なんだろう。

それを突き付けられるように小学校は離れてしまった。だって、彼女は魔力を持つ者。

専門的に身につけなければならない事は山積みだからだ。


千世ちゃん…。

彼女との別れは予想外の物となったけれど、悲しくはなかったんだ。

だって、友人は手を伸ばしても届かなかった魔法のそばで生きていく事ができるのだから。


「本当によかったね。海埼さん…」


もう、千世ちゃんとは呼べないけれど、君の活躍を見聞きできるからいいんだ。

なんて、昔話に花を咲かせるほど、俺は歳を取っていないのでこの辺りにしておこう。


う~ん。今日もやっぱり、寒いな。

と思いつつ、俺は帰路につくのである。

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