目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第7話 首都エルド




僕らは樹海村から首都エルドに向かって出発した。

エルドランド樹海を過ぎれば、目指す首都はもうすぐだ。

僕は期待に胸を膨らませていた。


地平線の向こうに城壁らしきものが見えてきた。

あれが、首都エルドだ。


「いよいよ、近づいてきたな。」

ゴラムもワクワクしているようだ。

「どんな町なのか、楽しみね。」

リリアも目を輝かせている。

「わしは、行ったことがあるから、皆を案内しようかの。」

ハックが妙に頼もしく見える。

「大きな町だから、はぐれないように、みんな一緒に行動しよう。」

中で迷子になったら大変だ。


近づくごとに、城壁の巨大さが分かってくる。ちょっとしたビルくらいの高さはありそうだ。そして、横の長さも相当ある。左右を見ても壁の終わりが見えないくらいだ。

僕らは城壁の入り口にだんだんと近づいている。とにかくその大きさに圧倒される。門の前には門番らしき兵士が2人いて、その前には、さながら祭りでもあるかのように、出店が立ち並んでいる。商人たちの客寄せの賑やかな声が聞こえる。周りには馬車もたくさん停まっていて、元の世界で言えば国境線のゲートのような雰囲気だ。

「わしらは一応、観光目的ということにしておこう。揉め事にならんようにの。」

ハックが言った。

門の前では、検問をしているのだろう。馬車や人の長い列が出来ていた。

僕らはその列の最後尾に付いた。

「ねえ、ケンタ。時間かかりそうだから、お店見て来ていいかな?」

「それなら、リリア。言葉が通じないと困るから、僕も一緒に行くよ。ゴラム、ちょっと行ってくるから、後は頼む。」

「はいよ。ごゆっくり。」

僕とリリアは出店を見て歩いた。

服や宝石、各地の食べ物や酒、作物や家畜まで、いろいろなものを売っている。

僕とリリアは少しの間、買い物を楽しんだ。


「そろそろ戻ってこい!」

ゴラムに呼ばれたので、僕とリリアは急いで馬車に戻った。

「はい、ゴラム、ハック。お土産。」

リリアが買ってきた食べ物とお酒を2人に渡す。

僕とリリアも同じものを食べながら順番を待った。


待つこと十数分。検問の兵士のところまできた。やっと順番だ。

「俺が、話す。」

ゴラムが代表して話すことになった。

「俺ら4人で観光に来ました。」

もう一人の兵士が積み荷をチェックしている。

「よし。通っていいぞ。」

「ありがとうございます。」

無事、検問を通過した。

門の内側は洞窟のようにヒンヤリしている。かなりの厚みのある壁だ。これなら外敵も簡単には入って来れないだろう。

出口が見えてきた。眩しくて、目が慣れるまで時間がかかる。

「さあ、これが首都エルドじゃ!」

ハックが言うと同時に目の前に広大な街並みが広がった。

僕らは、ついに、首都エルドに足を踏み入れた。



石畳みの道の左右に綺麗な街並みが広がる。元の世界で言えば、ヨーロッパ辺りの古い石造りの町のようだ。


まずは宿屋を探そう。図書館が近いならなお良い。

「すごく大きな街ね!楽しそう。」

「リリア、遊びに来たんじゃないぞ。」

「わかってるわよ。ケンタ。」


道が広い。この通りがメインの通りなんだろう。左右に立ち並ぶ店も綺麗な装飾の店が多い。まさに中世ヨーロッパ風という感じだ。しばらく進むと劇場や美術館がある場所に来た。きっと図書館もこのあたりだろう。

通り沿いに大きな宿を見つけたので、そこに部屋を取ることにした。流石に首都だけあって、世界共通語が公用語になっている。僕のスキルが役立つ時だ。

中心部にある割には宿泊費も良心的だったので、ここの宿に決めた。

王立図書館もすぐ近くらしい。まずは長旅の疲れを癒すために部屋で各自休息をとることにした。今回は全員個室だ。


窓を開けると、ひんやりとした風が入ってくる。綺麗な街並みはどこまでも広がっていて、そのさらに向こうには巨大な城壁がそびえ立っている。本当に大都会だ。こんな凄い街を作ったエルドランド王って、どんな人なんだろう?なんだか興味が湧いてきた。


「ケンタ。みんなで食事に行きましょう!」

リリアの声がした。

「わかった。今行く!」

急いで支度して、みんなと合流した。


宿屋を出てしばらく行くと大きな広場があって、酒場が何軒か軒を連ねている。

僕らは、その中の一軒「エルフの酒場」に入った。その名の通り、店員が全員エルフという店だ。

二階建てで吹き抜けになっている店内は、すごく賑わっている。人間をはじめあらゆる種族の客がいて人種のるつぼという感じだ。

僕らは、ビールで乾杯して、今後のことを話し合った。

「ケンタは、首都の王立図書館に行きたいって言ってたから、しばらくは図書館通いだね。」

「そうだね。僕一人だと不安だから、誰か助手がいると良いんだけど。ハック、頼んでいいかな?」

「もちろんじゃ。わしなら字も読めるし適任じゃろう。」

「じゃあ、俺は師匠の家を探そうかな。」

そういえば、ゴラムの剣の師匠ガルムはここに住んでいるんだっけ。

「私は、ゴラムと一緒に行こうかな。」

「そうだね。2人で行動した方が安全だ。」

まずは、図書館で古代文明のことを調べよう。何かわかればいいけど。



翌日。

僕らは二手に分かれて行動を開始した。

僕とハックは、この国で唯一の王立図書館に向かう。

エルドランド国民であれば誰でも利用できる図書館だ。

流石に世界中の書物が集まると言われるだけあって、大きな建物だ。

古い本の匂いがする。3階建てで、ずっと向こうまで本棚が続いている。

受付を済ませて、早速、古代文明に関する本を探し始めた。

「こんなに広いと、何がどこにあるかわからないな。」

「ケンタ。このあたりのようじゃぞ。」

ハックが書架を見つけてくれた。とりあえず最初の本から順番に、全部あたってみよう。数冊を棚から取って机に向かった。


エルドランド王国が出来るはるか昔に存在したといわれる古代文明。遺跡は世界中に存在するけど、記録資料は少ない。謎の多い文明だ。

図書館にある本は、遺跡の調査資料がほとんどで、当時の記録を見れるものはあまりなかった。


その中に気になる本があった。『古代のスキルと魔法』という本だ。


 -ーー 古代人は、そのスキルと魔法で繁栄を極めた。中には、今は失われてしまったものもある。その一つが、「種族を超えて言葉を理解することが出来るスキル」である。そのスキルは、お互いに言葉が異なる者同士でも、コミュニケーションをとることが可能で、相手が魔物であってもその考えを理解することが出来た -ーー


これは、僕のスキルそのものじゃないか!僕の翻訳スキルは、古代文明のものなのか。

僕は、この本をしばらく借りることにした。

図書館にいると時間があっという間に過ぎていく。夕方になったので、今日の所は切り上げて、宿に戻ることにした。


宿に戻ると、先にゴラムとリリアが帰ってきていた。

「今日の収穫はどうだった?」

僕は、ゴラムに聞いてみた。

「いや、何もわからなかった。そっちはどうだ?」

「古代のスキルと魔法についての本があったから借りてきたよ。僕の翻訳スキルは、どうやら古代文明のものらしい。」

「古代文明のスキルか。それは凄いな。」

「もう少し調べてみるつもりだよ。」

「俺の方も頑張らないとな。」


それから数日。

僕とハックの図書館通いの方は特に進展がなかったけど、ゴラムとリリアの方は進展があった。昔、剣の達人だったドワーフが住んでいる家がわかったそうだ。

僕らは4人で、そのドワーフの家に行ってみることにした。


街はずれの一角にその小さな家はあった。

「あれがそうか。」

ゴラムが緊張しているのが分かる。久しぶりの師匠との対面だ。それは緊張するだろう。

「ゴラム、頑張って。私たちもついてる。」

リリアがゴラムを励ました。

「よし!行くぞ!」

一発気合を入れたゴラムが、玄関のドアをノックした。


トントン

「ガルム師匠。俺です。ゴラムです。」

すると、中から声がした。

「入りなさい。」

低いしわがれた声だ。

「師匠、失礼します。」

ゴラムを先頭に僕らは家の中に入った。

部屋の壁には、立派な剣が何本も飾られている。

棚の一番上には、ドラゴンの牙らしきものが飾られていて、その下の棚には、防具が並んでいた。

奥の椅子に一人のドワーフの老人がどっしりと座っている。顔中に髭を蓄え、恰幅のいい体格だ。

「ゴラム。久しぶりだな。」

「師匠、大変ご無沙汰しております。」

「今日は、何をしに来た?」

「修行を終わらせるために来ました。」

・・・修行を終わらせる?どういうことだ?

「修行を途中で止めたのは、お前だろう、ゴラム。」

「はい。私が間違っていました。今一度、修行をつけてください。」

「お前に教えることは、もう無い。私も年老いた。」

「師匠・・・本当に申し訳ございません。」

ゴラム・・・。

「ゴラムよ。ガルムは、もうお前に修行は必要ないと言っておる。あきらめるのじゃ。」

ハックが言った。

「・・・わかりました、師匠。長い間ありがとうございました。」

ゴラムは、そう言うと、うなだれて出て行ってしまった。


「ハックよ。久しぶりだな。」

「ガルム。すっかり年老いたな。」

え?ハックとガルムは知り合いだったのか?

「ハックとガルムさんは、お知り合いなの?」

リリアが驚いて言った。

「黙っていて悪かったの。私とガルムは、その昔一緒に旅をした仲じゃ。」

そうだったのか。

ガルムが懐かしそうに話した。

「そうだ。ハックとは腐れ縁でな。まさかゴラムと一緒だとは思わなかったが。」

「ゴラムは良い戦士に育っているぞ。ガルムよ。」

「ハックが見てくれてるのであればゴラムは大丈夫だな。使命も全う出来るだろう。」

「使命。ゴラムの使命って、何なんですか?」

僕はガルムに聞いた。

「ゴラムは、この世界を救う者を導く者だ。そういう宿命を背負っている。」

「それをゴラムは知ってるんですか?」

「もちろん。知っている。おそらくは、その重圧に耐え兼ねたのだろう。」

「そうだったんですね。」

「ゴラムは、良い仲間に恵まれた。これからもヤツをよろしく頼む。」

「わかりました。ゴラムのことは任せてください。」


僕らはガルムの家を後にした。


ゴラムはガルムの家の外に一人でいた。

「俺は弟子失格だ。」

ゴラムはひどく落ち込んでいる。

「ゴラム。ガルムはきっとそんなことは思っていない。誇れる弟子だと思ってるよ。」

「そうよ。ゴラムらしくない。元気出して。」

「わしが、お前を見てるから大丈夫じゃ。太鼓判を押そう。」

「みんな・・・ありがとう。」

ゴラムを元気づけられただろうか?


それから、僕らは宿に戻った。ゴラムは部屋に籠って出てこない。

僕らは3人で食事に行って、ゴラムの分を持って帰ってきた。

「ゴラム。部屋の前に食事を置いておくから、食べるんだぞ。」

ドアの前から声をかけたが、返事はない。





心配だったけど、ゴラムのことは、しばらく、そっとしておくことにした。






この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?