目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第9話 勇者と魔王の封印




その日の夜。

僕らは「エルフの酒場」で食事をしていた。


「ハック。何で先に教えてくれなかったんだ?もう、驚くことばっかりだよ。」

僕は、ハックに突っかかった。

「ケンタ、悪かったと思っておる。ちゃんと全部話しておくべきじゃった。」

「それにしたって、知らないことが多すぎるよ。」

「まあまあ、ケンタ、落ち着けよ。俺なんか、緊張して何も言えなかったんだから。」

ゴラムになだめられた。

「でも、ケンタが怒るのも分かるわ。私も初めて聞くことばっかりだったし。」

リリアも怒っている。

「わかった。改めて、ちゃんと話をしよう。わしの知っていることを全部。」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





今から30年ほど前。


勇者エル、戦士ガルム、魔法使いハック、ヒーラーのアンの4人のパーティは、国王の命を受けて魔王を倒すための旅に出た。

長い旅の末にエルドランド王国の辺境にある魔王の城にたどり着いた。

魔王との激しい戦い。最後は、魔王をその力が及ばないように封印することに成功した。こうして、魔王に勝利した王の息子であり勇者であったエルは、その後、王位を継いだ。ガルム、ハック、アンは、それぞれの旅に出た。


それから、約30年。


魔王の封印が解かれようとしている兆しが現れた。魔物の動きが活発になってきている。エルドランド国王は、魔王の城の監視を強化する指示を出した。

同じころ、魔王復活の兆しを察知した魔法使いハックは、『世界の全ての言葉を理解し、魔物とも通じることが出来るスキル』を持つという選ばれし者を異世界から召喚した。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「その『選ばれし者』が【魔物の考えが読める】ケンタじゃ。」

「僕が、選ばれし者だって?そうだったのか。」

僕は、あまりのことに身震いした。

「そして、その選ばれし者を導く者が【戦士ガルムに見込まれた男】ゴラムじゃ。」

「俺が、選ばれし者を導く者。その重圧に負けた時期もあったが、今は違うぜ。」

ゴラムは神妙な顔をしている。

「魔王を封印するためには、古代の魔法が必要になる。それを使えるのは古代人の末裔。リリアじゃ。」

「私が?そうだったのね。」

リリアも運命に導かれた者だったということか。何という偶然。

「もっと早くに話しておくべきじゃったが、重圧になっても困ると思っての。時が来るまで黙っておこうと思ったのじゃ。」

「・・・・・。」

僕もリリアもゴラムも黙ってしまった。

「そんなに考えんでも良い。大魔法使いであるわしが皆を支えるからの。」

「僕らに魔王を封印するなんてできるかな。自信がないよ。」

「でも、やるしかないんだよね。私たちで。」

「そうとなれば、俺はやるぜ。師匠を超えて見せる!」

リリアとゴラムは強いな。僕は、そこまで強くはなれない。

「さあ、わしら4人。最強パーティの壮行会じゃ!」

「よし。やるぞ!」

「やりましょう!」

「そうだね。やろう。」

4人でビールで乾杯した。


宿に戻って一人になると、改めて重圧に押しつぶされそうになる。

期末テストや受験や部活の試合とは、全然違うプレッシャー。

しかも、最悪の場合は命を失うかもしれない。

本当に、僕にできるんだろうか?

こんな、ただの大学生の僕に。

考えれば考えるほど、不安と重圧でいたたまれなくなる。


トントン。

誰かがドアをノックした。

「ケンタ、いる?」

リリアだ。

「開いてるよ。」

リリアが部屋に入ってきた。

窓の方に向かってベットに座っている僕の隣にリリアは座った。

「昨日からいろんなことがあったね。もう大変だったわ。」

リリアが明るい声で言う。その声だけで僕は癒される。

「そうだね。王女様に会ったり、牢屋で一晩過ごしたり、王様に謁見したり。」

「もう、頭がぐちゃぐちゃになりそう。」

「本当だよ。」

2人で同時に笑った。

「急に、魔王を倒せって言われても困るよね。」

「うん。」

「・・・私、怖くて仕方ないの。」

「僕もだよ。」

「でもね。ハックやゴラムやケンタがいれば、やれそうな気がするの。」

「うん。」


「ねえ。この街の夜空もきれいだね。」

「本当だ。こうして、リリアと星空を見るのは何回目だろう?」

「ケンタは、別の世界からハックに呼ばれてこの世界に来たんでしょ?」

「うん、そうだね。」

「元の世界に帰りたいって思う?」

「今は、思わないかな。帰っても僕を待ってる人もいないし。」

「私ね、ケンタに元の世界に、帰って欲しくないな。」

「えっ?」

それって、どういう意味・・・?

「ご、ごめんね。困らせるようなこと言っちゃって。」

「そ、そんなことないよ。」

「とにかく、元気出して行きましょう!」

「はは。そうだね。」

「じゃあ、私、部屋に戻るね。おやすみ。」

「うん、おやすみ。」

リリアは、部屋に戻っていった。

なんだか、気持ちが楽になったな。


その日は、リリアのおかげで、穏やかな気持ちで眠りにつくことができた。



翌日。

ハックの提案でみんなで王立図書館に行くことになった。魔王のことや古代の魔法のことについて、文献を調べれば、何か分かるかもしれない。僕とハックは魔王のこと、リリアとゴラムは古代の魔法のことを手分けして調べることにした。


ハックが先導して、図書館の膨大な本棚の間を歩いていく。

「わしの記憶が正しければ、図書館の一番奥に古い書物があるはずじゃ。」

ハックのいう通り、図書館の一番奥の壁際に、年代物の古い書架が並んでいた。収まっている本や書物も古そうだ。

「ここからが魔王に関する書物。向こう側が、古代の文明に関する書物じゃな。」

「じゃあ、手分けして調べよう。もしわからない言葉があれば僕が翻訳するから聞いてくれ。」

それから、二手に分かれて、ひたすら古い本を読んでいく。地道な作業だ。


魔王については、魔族を統べる王であり、数百年に渡って人間と対立しているということ、エルドランドの辺境の地に城を構えていること、かつて、数回、人間の勇者によって封印され、その封印を破っていること、魔王を封印するためには古代から伝わる封印魔法が必要であること、などが判った。

魔王を封印することはできても、倒したという記述はない。ということは倒すことは出来ないのだろうか?


「リリア、そっちは何かわかったか?」

リリアに聞いてみた。

「古代文字で書かれた本も少しは読めたけど、文字が古すぎて擦れててわからない部分が多かったの。でも半分くらいは読めたわ。」

「それで、何か判った?」

「古代の魔法の使い方、魔王を封印する方法、魔王の城に行くための試練。かなり、いろいろわかった。」

「すごいじゃないか!」

「古代の魔法のいくつかは練習すれば使えるようになると思う。魔王を封印するにはいくつか道具が必要になる、その道具を集めるのが試練ね。」

「必要な道具って?」

「賢者の石、賢者の杖、賢者の楯の3つ。それぞれを守る魔物がいるみたい。」

「じゃあ、その3つの道具を集めることが当面の目標ってことだね。」

ひとまず、最低限必要な本を借りて、宿に戻った。


僕らは、今日までに分かった情報を整理した。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



エルドランドの辺境に魔王の城はある。そこにいる魔王は数百年に渡って、人間と対立している。魔王を封印するためには「賢者の石、賢者の杖、賢者の楯」の3つの道具と古代の封印魔法が必要。3つの道具は魔物に守られているが、場所など詳細は不明。封印魔法は、本を入手したので、リリアが使用可能だ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「となると、やっぱり、3つの道具を探さないといけないってことだね。」

だけど、現時点で分かっていることは少ない。

「まずは、3つの道具の手がかりを探さないとな。」

ゴラムが言う通り、わずかでも手掛かりになるものを探そう。

「エルドランド王に聞いてみたら?魔王を一度封印してるんでしょ?」

確かにリリアのいう通りだ。王様に聞けば早いかもしれない。

「いや、3つの道具の場所までは知らんと思うぞ。」

ハックが言う。

「魔王を封印したとき、3つの道具は、どこかに消えてしまったんじゃ。元の場所に戻ったかどうかまでは判らん。」

「でも、何かヒントが有るかもしれない。王様に一度話を聞いてみよう。」

僕は、ハックに同意を求めた。

「わかった。エルと謁見できるよう、わしが手配しよう。」

「ありがとう。ハック。」


こうして、僕らは、再びエルドランド王と謁見することになった。



2日後。

僕らは王の間にやってきた。


僕はエルドランド国王に一礼して話し出した。

「この度は、お時間を頂き、ありがとうございます。国王陛下。」

「うむ。魔王について聞きたいということだな。」

「はい。魔王について、国王陛下がご存じのことを教えていただけないでしょうか?」

「魔王についての、何が知りたいのだ?」

「はい。魔王の封印のときに使う3つの道具の在りかについて、何かご存じではないでしょうか?」

「賢者の石、賢者の杖、賢者の楯の3つだな。賢者の石なら、知っておる。」

「それでは、賢者の石の場所を教えて頂けませんか?」

「賢者の石は、この城の地下にある。ただ、簡単には渡せぬ決まりだ。」

「何をしたら、賢者の石を渡して頂けますか?」

「この町から西に行くと王家の谷と呼ばれる谷がある。そこにいる魔物を倒し、その証を持ち帰るのだ。そうすれば、賢者の石を渡そう。」

「西にある王家の谷ですね。わかりました。」

「強力な魔物だ。心して行くのだぞ。」

「はい。国王陛下、ありがとうございます。」

僕らは一礼して、王の間を後にした。




僕らは賢者の石を手に入れるため、王家の谷を目指すことになった。






この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?