イストリア城。王の間。
国王に古代遺跡での出来事を報告した。
「では、そのフードの男が恐らく魔神であろうな。」
「私も、そう思います。」
「それにしても、手がかりは何もなしか。残念だったな。」
「国王陛下、魔神に繋がりそうな話はご存じないでしょうか?」
「うむ。無いことは無いが。。。」
「どんな些細な話でも構いません。教えてください。」
「最近、城下で勢力を広げている宗教集団があるらしい。」
「宗教集団?」
「人間の支配する世界を終わらせ、神の世を復活させようというのが教義のようなのだ。」
「神というのは?」
「魔物の神だ。」
「!?」
「以前は気にもしていなかったのだが、今回の件で、そうも言ってられなくなってきてな。」
「では、その宗教集団を調べてみます。」
「宜しく頼む。」
「畏まりました。失礼します。」
国王との謁見を終えた僕らは、ミカの部屋で作戦会議をすることにした。
「魔物の神を信仰する宗教か。」
ミカが腕組みをして考えている。
「ミカは、何か知らないのか?」
「人間のすることに興味が無いからな。」
「魔王でもわからないか。」
「教会にでも行って聞いてみたらどうだ?」
「そうだな。地道な聞き込みから始めるか。」
僕らは、街で聞き込みをすることにした。
まる一日、聞き込みをした結果、2日後の夜に、その宗教集団の会合が開かれることがわかった。
僕らは、その会合に紛れ込んで情報を集めることにした。
2日後。
僕、ゴラム、ミカの3人は、謎の宗教集団の礼拝堂がある建物に来ていた。
黒いフードを被り、変装をして礼拝堂に潜り込む。
礼拝堂の中にはすでにたくさんの信者たちが集まっていた。
正面には、悪魔の形をしたレリーフがあって、祭壇が作られている。
教祖らしき男が、真ん中に立ち、信者たちに手を挙げて応えている。
「教祖から魔物の匂いがするな。」
ミカが耳打ちする。教祖は人間ではなく魔物なのだろうか?
僕らは、出来るだけ教祖の近くに行こうと、前に進んだ。
「みなさん、静粛に!」
教祖が話し出す。
「皆さん、ご存じの通り、魔神の力が蘇りつつあります。」
ウワー!
信者たちが歓声を上げる。
「魔物の治める世界が実現するのも、あと少しです!」
「私たちの理想を叶えるために、頑張りましょう!」
ウオー!
信者たちは熱狂している。
教祖は、演説を終えると、祭壇の横の扉から出ていった。
その後を、幹部らしき数人の人物が付いていく。
僕らは、信者たちにばれないように慎重に後をついていった。
扉の奥は、階段になっていて、地下室があるようだ。
ゆっくりと音を立てないように階段を下りていくと、大きな空間に出た。
僕らは、物陰に身を隠して、様子を伺う。
部屋の中心には魔法陣が描かれ、その周りに教祖と幹部たちが並んでいる。
教祖が呪文のようなものを唱えている。
「これは、魔神を呼び出そうとしているのか?」
ミカが魔法陣をみて言った。
教祖が呪文を言い終わると、魔法陣が妖しく光りだした。そして、魔法陣の中心に黒いもやのような何かが現れた。
「このままでは、マズイ!大量の魔物が押し寄せるぞ!」
ミカが叫ぶと同時に、僕とゴラムは物陰から飛び出した。
「!? 何者だ!」
教祖が驚いて言う。
「この続きはやらせない!」
ゴラムが次々と幹部を切りつけていく。
僕は、ドリアードに強化してもらった、テレパシースキルを発動して、教祖の考えを読もうとした。
「私の頭の中に入って来るな!」
教祖は、思考を読まれまいと必死に耐えている。僕は、さらに力を込めて思考を読んだ。
何かのイメージが頭に浮かんだ。これは深淵の国だろうか?暗い、谷底にいるようだ。黒い大きな影が立っている。影はこちらを振り向き、歩いてくる。影が僕の体に触ると、闇が広がると同時に、力が溢れてくる。
「ワレを失望させるなよ。お前の力に掛かっている。」
影はそう言うと、手を放し、消えていった。
「ケンタ!しっかりしろ!」
僕は、我に返った。
「一時撤退だ!引き上げるぞ!」
ゴラムに言われて、僕は走った。
「これは、まずいことになったぞ。」
ミカが言う。
「ゴラム、すまない。ありがとう。」
「大丈夫か?ケンタ。話はあとだ。今は逃げよう。」
僕らは礼拝堂を脱出した。いつの間にか信者たちは居なくなっていた。
「やつら、魔神を呼び出してしまったようだ。」
ミカがため息交じりに言った。
「魔神を呼び出して、世界を征服するつもりか。」
ゴラムが息を切らせながら言う。
「とにかくイストリア国王に報告しよう。」
僕らは礼拝堂を後にした。
イストリア国王に礼拝堂での顛末を報告すると、国王は僕たちに宗教集団の影響がどれだけ広がっているか調査して欲しいと言った。
僕らは秘密裏にイストリア城内で、宗教集団の調査をした。これには、僕のスキルがかなり役立った。
調査の結果は驚くべきものだった。国王や僕たちが思っていたよりも、宗教集団の影響は大きく、イストリア国以外にも、その勢力は広がっているようだった。
調査結果を踏まえ、国王は古代遺跡の再調査を僕らに命じた。
「城内にも宗教集団の信者がいると分かった以上、これからは、慎重に動かないといけない。」
ミカの部屋に集まったみんなに僕は言った。
「古代遺跡をもう一度調べると言っても、崩れてしまったからなぁ。」
ゴラムが真剣な顔で言う。
「何か見落としがあるかもしれないから、とにかくもう一度行きましょう。」
リリアのいう通りだ。
僕らは、古代遺跡に向かった。
遺跡の入り口は、崩れてしまっていた。
僕らは、遺跡の周りに何かないか、もう一度調べてみた。
すると、割れた石板の隙間から通路らしきものが見つかった。
石板を慎重にどかすと、人ひとりが通れるくらいの通路が現れた。
「奥に行ってみよう。」
僕を先頭に通路を進んでいく。その先に小部屋があった。
古代文字が書かれた石板や、古い書物、金の装飾品など、さまざまなものが見つかった。
その中の、古い書物には、古代の文字でびっしりと何かが書いてある。
僕はスキルを発動して、たくさんある本の中から、魔神に関係ありそうなものをピックアップしていく。
その中の一冊には、魔神と深淵の国についての記載があった。
魔神は、この世界が出来た時から存在している。魔物の神であり、魔物を統べる者。深淵の国に住み、統治している。
人間が、深淵の国に行くためには、深淵の鍵が必要。深淵の鍵によって深淵の国への扉が開かれる。
「深淵の鍵か。」
恐らく、宗教集団も深淵の鍵を捜しているのだろう。もしかしたら、すでに持っているのかもしれない。
とにかく、宗教集団のことをもっと調べないといけないのは確かだ。
僕らは、小部屋にあるものを積めるだけ馬車に積んで、イストリア城に戻った。
それから、ミカの部屋で、僕の翻訳スキルとリリアの古代語の知識をフル活用して、本や石板を解読していった。
魔神や深淵の国、魔神を呼び出す儀式等、色々なことが分かってきた。
そして、魔神を信仰する宗教についての記述もあった。
魔神を崇拝する魔物や人間が現れ、宗教を作った。その宗教は「魔神教」と呼ばれ、教祖は魔法陣を使うことで魔神と話をすることが出来た。魔神教の教祖は、魔神から「魔物を統べるもの」の能力を引継ぎ、この世界に魔神教を布教し、魔物の世界にすることを目的としている。
魔神教の教祖は代々、魔物の中でも最も力のあるものが受け継いできている。
「魔神教。今の教祖は何者なのか、どこに潜んでいるのか、調べる必要があるな。」
僕はつぶやいた。
「わらわの部下にも探らせよう。」
さすが、ミカは魔王だけのことはある。こういう時には頼りになる。
それから数日後。
魔神教の集会があるという情報を掴んだ僕らは、再び、彼らの集会に潜入することにした。今回は、リリア、キャス、ハックも加わり、フルメンバーだ。
そして、深淵の国に行くための深淵の鍵を魔神教が持っているという情報も手に入れた。
今回の潜入で一気に片を付けるつもりでいった方が良さそうだ。
イストリアの街外れ、一見、民家のように見えるその場所で集会が行われるようだ。離れたところから監視していると、一人、また一人と、人が吸い込まれていく。僕らも、怪しまれないように、一人ずつバラバラに潜入することにした。ハック、ゴラム、キャス、リリア、ミカ、そして最後に僕。
民家のように見えたその場所は、中に入ると、地下への長い階段があった。
階段を下りていくと、その先には巨大な空間が広がっていた。
たくさんの信者が集まっていて、すごい熱気だ。
教祖と幹部が現れた。信者の熱気も最高潮になる。
「先日、我々は異教徒の襲撃を受けた。残念ながら、同志の何名かが命を失った。しかし、我々は、決して屈しない。魔神が蘇る日は近い!」
ウワーッ!!
歓声が巻き起こる。
「信徒の皆よ。その日はまもなくやってくる。もう少しの辛抱だ。」
「魔神様、万歳!」
「魔神様、万歳!」
満場の拍手とともに会合は終わった。
僕らは、物陰に隠れて合流した。
しばらくすると、教祖と幹部が残って、儀式が始まった。
魔法陣が現れて、それを取り囲むように、教祖と幹部が並ぶ。
僕らは臨戦態勢で観察を続けた。
教祖が呪文を唱え始め、魔法陣が妖しく輝きだす。魔法陣の中心には、黒いもやが現れ、少しずつ人のような形になっていく。
「よし!行くぞ!」
僕の合図とともに全員が飛び出した。
ゴラムとキャスが幹部を攻撃し、ハックは炎の魔法で畳みかける。
リリアは、攻撃補助魔法でサポートする。
僕とミカは教祖の相手だ。
「また、お前たちか!」
「今度は逃がさないぞ。深淵の鍵は、どこだ!」
「深淵の鍵は、私が持っている。欲しければ、力ずくで奪うんだな。」
「なら、そうさせてもらう。」
僕は、教祖の考えを読もうと集中した。
今回は、簡単に教祖の頭の中に侵入できた。
目の前には、黒い大きな体の魔神らしき魔物がいる。装飾が施された鍵を受け取り、お辞儀をした。
また、別の場面。
草原で、こちらに向かって楽しそうに微笑みかける女性の姿だ、女性は、この世界の服装ではなく、僕がいた世界の服装をしている。
また、別の場面。
先ほどの女性が血まみれでぐったりしている。視界がぼやけている。これは、泣いているのだろうか。血まみれの女性を抱きしめたところで、ビジョンが切れた。
僕は、我に返った。教祖に話しかける。
「お前は、人間だったのか?」
「お前には関係なかろう!私は魔の物だ。」
「大事な人を失ったビジョンが見えた。しかも、僕の故郷、日本のような風景だった。もしかして、お前は。。。」
「それ以上は、言うな!」
教祖の手から炎が放たれる。
「防御せよ、バリア!」
間一髪、ミカの防御魔法で防ぐことが出来た。
「お前は、転生者なんだな!」
僕は叫んだ。
「だから、なんだ!今の私は魔物だ!過去など振り返らない!」
再び炎の魔法が襲ってくる。教祖は明らかに動揺している。
「人間のお前が、なぜ、魔物になったんだ。」
「私は、人間に愛想が尽きたのだ。」
「大事な人を失ったからか?」
「彼女は、、、私の全てだった。。。あんなことになるなんて。。。」
「その彼女の為にも、考え直さないか?」
「彼女は、ユイは、人間の手で命を奪われたのだ!人間など生きるに値しない!」
炎の力がさらに増してきた。これ以上は持たないかもしれない。
「ミカ!一旦、退くぞ!」
「わかった!ケンタ!」
僕とミカは教祖の隙をついて走った。
「みんな、ここは一旦退こう!」
ゴラムたちに向かって叫ぶと、全員が出口に走り出した。
僕は、教祖の方をもう一度振り返った。
教祖は泣いていた。周囲にはゴラムとキャスが倒した幹部たちが倒れている。
その幹部たちには目もくれず、教祖は僕の方をジッと睨みつけた後、振り返って去っていった。
僕は、みんなの後を追って礼拝堂から出た。
教祖は、人間の転生者だった。しかも、日本人。
大事な人を失った悲しみから、魔神と取引して魔物に身を堕としたのか。
僕は、複雑な気持ちになった。