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第22話 魔神




魔神の城に近づくにつれ、空気が重苦しくなってくるのが分かる。

何か体にまとわりつくような嫌な感じだ。

魔神を恐れているのか、魔物も近づいて来ない。


重苦しい空気を断ち切るように、一歩一歩踏みしめるように、

僕らは魔神の城の前までやってきた。


近くで見ると、その威圧感に気圧(けお)されそうになる。

入口の扉は開け放たれていた。魔神の余裕だろうか?

そのまま、入口の中へと入っていくと、天井の高い廊下が延々と先まで続いていた。内側の壁も柱も床も天井も全て漆黒で、松明の炎だけが赤く鮮やかに燃えている。

僕らは、廊下をゆっくりと前に進んだ。


「薄気味悪い城だな。」

ゴラムが小声で言う。

「わらわの城に比べて悪趣味だな。」

「ミカは魔神のことは何も知らないのか?」

僕は魔王であるミカに聞いてみた。

「先々代の魔王の配下だったとしか聞いてないな。」

「そうか、ミカでも知らないか。」

廊下はいつ終わるかわからないほどに延々と続いている。

「この廊下、いつまで続くのかな?」

リリアが言う。

「そろそろ終わりそうだよ、ほら。」

キャスが前を指さした。

確かに、明るい光が見えて、段々近づいてくる。

「みんな、最初は僕が魔神と話す。手は出さないでくれ。」

「わかった。」

無理かもしれないが、交渉をしてみようと僕は考えていた。


廊下が終わり、大きな部屋にたどり着いた。

やはり、すべてが漆黒で統一されている。


目の前には玉座がある。

誰もいない様だ。

僕は玉座の方に向かって歩き出した。

その時、魔物の言葉が聞こえた。咄嗟に僕はスキルを発動した。


「みんな!魔神が現れた!最初は手を出さないでくれ!」

僕は後ろに控える仲間にそう話して、玉座の前まで進んだ。


玉座に黒いもやのような影が現れた。それは人型になり、目の部分だけが怪しく光っている。高さは2メートルほどだろうか?

踏ん張っていないと、圧倒されそうな負のオーラを感じる。


黒い影が話し始めた。

「人間よ。選ばれし者よ。この深淵の国によく来られた。」

歓迎されているのか?そうは思えないが。

「僕は、転生者のケンタ。魔神よ、僕はあなたと話し合うためにここに来た。」

「話し合い?何を話すことがあるというのだ?」

「魔物に人間を襲わせるのをやめてもらいたい。人間と魔物、共存する道を進まないか?」

「フハハハハ!面白い。人間と魔物、仲良く暮らせと申すのか?」

「そうだ。」

「それは無い!人間は滅びる定め。それを止めることは出来ぬ相談だ。」

「では、共存ではなく、お互いに干渉しないというのではだめなのか?」

「我々は、長い間、この深淵の国に囚われてきた。今度は我々が陽の光の下で生きる番だ。」

「人間はどうなる?」

「深淵の国で生きれば良かろう?それが嫌なら死あるのみだ。」

「魔物と人間で手を取り合ってともに生きるということは本当にできないのか?」

「くどい!人間は滅びるのだ。これからは魔物がこの世界の支配者となる!」

「・・・交渉決裂だな。」



僕は、魔神に背を向けた。

「みんな!戦闘態勢だ!」

「おう!」

ゴラムとキャスが素早く左右に分かれる。

「強化せよ!リインフォース!」

リリアの攻撃補助魔法で攻撃力が強化される。

「防御せよ!バリア!」

ミカの防御魔法は魔力が強い分、強力だ。しばらくは耐えられるだろう。

僕は走って、リリアたちに合流した。同時に魔神の思考を読もうと集中する。


ゴラムとキャスが、左右から攻撃を仕掛ける。

「炎よ、出でよ!インフェルノ!」

同時にハックの炎魔法が魔神に襲い掛かる。


バキッ!


キャスとゴラムが同時に壁に弾き飛ばされる。

炎魔法は、かき消されてしまった。


「なんの!炎よ、出でよ!インフェルノ!」

ハックがさらに魔力を込めて特大の炎魔法を繰り出す。


グググググッ


ウォーーー!


魔神は、少し圧されていたが、特大の炎をかき消してしまった。


「やるではないか、ジジイ。これは、どうだ!」

魔神の手から、真っ黒な波動が放たれる。


バリバリバリッ!


バリアで何とか耐えているけど、これは厳しそうだ。


うああ!


ゴラムとキャスにも黒い波動が襲い掛かる。壁に抑え付けられて、身動きが出来ない。

何とかしなければ。

僕は必死に魔神の思考を読もうと念を強くする。


!?


これは、なんだ?真っ黒で何も見えない。漆黒の闇だ。

頭の中で声がする。

「フハハハ!転生者よ、私の頭をのぞいても無駄だ。お前の方がダメージを受けるぞ。」

「うあーーーーーー!!」

僕は頭を抱えてうずくまった。頭が割れるように痛い。

「ケンタ!」

リリアが心配そうに声をかける。

僕は、頭の中をかき混ぜられるような痛みで、動けなくなっていた。


「皆、あきらめるな!インフェルノ!」

ハックが、魔法を連発する。が、ことごとくかき消される。

ゴラムとキャスは黒い波動の攻撃で身動きが取れない。

ミカはバリアの強化で手いっぱいだ。

すると、ついにバリアが切れてしまった。

「さ、さすがに、わらわも限界じゃ。。。」

「ミカ!私が代わりに!防御せよ!バリア!」

リリアがバリアを張るが、範囲が小さい。これではすぐに破られるだろう。


頭が割れるように痛い。くそっ、何とかしなければ。

「わしの魔力も尽きた。もう限界じゃ。」

ハックが倒れてしまった。

「ハック!」

リリアが叫ぶ。

僕らに勝ち目はないのか?このままやられるのか?


その時だった。


「魔神よ、私が来た。ここからは、私がお相手しよう!」

フードを被った人物が現れた。僕は、その男を知っている。

「お前は!」

「魔神教の教祖!」

リリアが驚いて叫んだ。

「死んだはずではなかったのか?」

ハックがかすれた声で言う。

「私は、しぶといのだよ。それから私の名前は、リュウだ。」

そういうと、リュウ=教祖は、魔神の正面に立った。


「教祖、いや、リュウよ。私に歯向かうのか?」

「私は、ケンタたちのお陰で間違いに気づいた。それを正しに来たのだ。」

「ならば、死ね!」

黒い波動が、リュウを襲う。

「ぐっ!こ、この程度か?私の命すべてをかけた攻撃を受けてみよ!」

「ほざけ!」

リュウは、明らかに苦しそうだが、目は何かを決意したかのような穏やかな表情をしている。

「魔神よ。私の生命力を喰らえ!ファイナル・デスティネーション!」

リュウの体が眩く光り、その光が帯になって魔神に向かって行く。


グヌヌヌヌ!

魔神は必死に耐えている。

しかし、リュウの放つ光の勢いはより増していく。


グヌヌヌヌヌ!!


「こんなバカな!!ウォーーーーー!」

魔神の体が中心からはじけ飛んで消えた。魔神は倒された。


バタッ。


リュウが前のめりに倒れた。

「リュウ!」

魔神が倒され頭の痛みが消えた僕は、リュウに駆け寄った。リリアたちも集まってくる。


「ケンタよ。ありがとう。私は最後に人に戻れた気がする。。。」

「リュウ、もう話すな。」

「恋人を大切にしろよ。」

「わかった。もちろん、大切にするよ。」

「ケンタとは、日本で会いたかった・・・。」

そういうと、リュウは目を閉じた。


突然、まぶしい光が頭上に現れた。それは、人、女性の形をしているようにも見える。

リュウの体がフワッと浮いた。光の中に吸い込まれていく。

一瞬、女性のような光が笑ったように見えた。この女性の顔は・・・ユイさん?

そして、リュウの体ごと光はスッと消えた。


・・・ありがとう。


光がそう言ったような気がした。



「終わったな。」

僕は呟いた。

「これで本当に終わったのね。」

リリアが安堵して言った。

「やったな、ケンタ。」

ゴラムとハイタッチをした。

「わらわは、疲れたぞ。」

ミカは疲れた顔をしているけど、きっと本心は違うのだろう。

「これでミルドランドに帰れるね。」

キャスも嬉しそうだ。

「ケンタ、本当に感謝しとる。」

ハック、感慨深いだろうな。


僕は、このメンバーで旅が出来て改めて良かったと思った。

「みんな、ありがとう。みんなのお陰だよ。」





その時、今度は、僕の体が光に包まれた。

「何だ?これは?」

ハックが重い口を開いた。

「残念じゃが、目的は達成された。お別れじゃ、ケンタ。」

「なにを言っているの?ハック?」

リリアが驚いて言う。

「内緒にしていて悪かったのう。転生者は、その目的が達成されたとき、元の世界に戻るのが定めなのじゃ。」

ハックが申し訳なさそうに言った。

「そんな!」

リリアが涙声になっている。


光に包まれた僕の体は、だんだん透けていって消えかかっている。

「リリア!」

僕は、リリアの手を掴んで抱き寄せた。

「ケンタ!愛してる!」

「知ってる。」

リリアと僕は最後の口づけをした。



そして、僕は、光と共にこの世界(エルドランド)から消えた。






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