「……まずは、眷属でも召喚してみるか。」
ボス部屋が進化した今、最大3体のゴブリン・ジェネラルを召喚できるらしい。
「よし、それじゃあ──眷属召喚!」
──ゴゴゴゴ……ッ!!
ボス部屋の床がムクムクと膨れ上がり、
まるで地面から生まれるかのように、3体のゴブリンが現れた。
「王よ。召喚していただき、恐悦至極でございます。」
「あの……ありがとうございます。」
「よろしくなのです!」
……おお?
意思疎通が可能なのか。
3体とも鎧を纏い、それぞれ異なる武器を持っている。刀を構える者、斧を握る者、金棒を担ぐ者、様々だ。
俺自身が3m弱の巨体だから、こいつらは2m半くらいか。たった3体とはいえ、戦力としては十分に強力な助っ人になりそうだ。
「……ふむ、それにしても三者三様、個性があって面白いな。」
今までずっと一人で戦ってきたから、こうして仲間ができるのはなんだか嬉しい。
「よし、せっかく眷属になったんだ。呼びやすいように名前をつけてあげよう。」
俺がそう言うと、3体のゴブリン・ジェネラルたちは一斉に顔を上げた。
「おお……! 名を授けていただけるのですか!?」
「ああ、当たり前だろ。王として当然の責務だ。」
全員嬉しそうに喜んでいる。
──フフフ、なんだか"王"っぽくなってきたな。
それぞれの特徴を考えながら、俺は名前を決めていく。
まずは一人目──刀使いの冷静な武人のようなやつだ。 堅苦しい口調で礼儀正しいコイツには、武士のような名が合う。
「お前は鬼童丸だ。」
「……鬼童丸……! はっ! 名に恥じぬ戦士となる所存!」
二人目──内気で控えめな斧使い、もじもじした性格のコイツは、少し優しめの名前がいいか。……そうだ、昔話の鬼の名前をもじってつけよう。
「お前は温羅だ。」
「……温羅……! ぼ、僕にこんな立派な名前を……! ありがとうございます!」
三人目──最後は、やたら元気で好戦的なコイツ。金棒を持っていたやつだ。好戦的で血気盛んな性格に合わせて名付ける。
「お前は夜叉だ。」
「おおーっ! カッコいい名前なのです!! 王に感謝するのです!」
──こうして、俺は【眷属支配】の力を通しそれぞれに名前をつけてより深く繋がりを感じるようになった。
「よし、お前たち。これから俺の配下として鍛錬を重ね、最強の軍団を作るぞ!」
「おおお!!」
俺は3体と一緒に、部屋の隅で鍛錬しだした。
「よし、じゃあ一緒に実戦形式で戦うか。」
ただ召喚しただけで終わりではない。
こいつらが本当に戦力になるのか、実際に試してみる必要がある。
──俺がそう告げると、3体のゴブリン・ジェネラルたちは驚いた表情を浮かべた。
「全員、全力でだぞ。」
この部屋では、敵がいない間はどれだけ怪我をしてもすぐに回復する。
つまり、死ぬ心配をする必要はない。
すると、鬼童丸がおずおずと口を開いた。
「本当に……私たちが王と戦うのですか?」
「当然だ。これから一緒に戦う以上、どれほどの力があるのか確認しないといけない。
それに、実戦は何よりの鍛錬だ。」
鬼童丸は、少し考えた後、静かに刀を抜き、鋭い眼光をこちらに向けた。
「……なるほど。王自ら、我らの力を試してくれるというわけですね。」
温羅はやや戸惑いながらも、大斧を両手で構え、
夜叉は金棒を肩に担ぎながら、にやりと笑っている。
「いやー、これは燃えるのです! 王に全力でぶつかれるなんて最高なのです!」
「その心意気だ。」
「やったー! それなら遠慮なく行くのです!!」
そう叫ぶと、最初に夜叉が思い切り地面を蹴り飛びかかってきた。
──ドンッ!!!
その勢いで、床がひび割れるほどの衝撃が走る。
「ハアアアアア!!!」
夜叉は、金棒を振り下ろしながら突っ込んでくる。
──しかし、直線的すぎる。
俺は大太刀を構え、真正面からその一撃を受け止めた。
──ガキィン!!
金属音が響き、衝撃が腕に伝わる。
夜叉は驚いた様子で目を見開き、一瞬手が止まった。
「……甘い!」
俺はその隙を逃さず、思い切り夜叉を蹴り飛ばした。
「うわぁぁぁぁ!!?」
──ボールのように吹っ飛び、壁に叩きつけられる夜叉。
その影から、鬼童丸が低く身を屈めながら接近してきていた。
鬼童丸は、俺の一瞬の隙を突き、刀で鋭い一閃を繰り出す。
──だが、見切った。
俺は身を捻り、その刃を回避すると同時に、逆に距離を詰める。
大太刀ではなく、短刀での応戦だ。
間合いをさらに狭め、鬼童丸の懐に潜り込む。
「……ッ!!」
鬼童丸の体勢が崩れた。
一拍遅れる、その一瞬の間に、俺は短剣を振るう。
──スパァッ!!
鬼童丸の片腕が宙を舞った。
「ぐっ……!」
そのまま、拳を叩き込む。
──ドゴォ!!
鬼童丸の体が弾けるように吹っ飛ぶ。
しかし、ここで周りを気にしていなかったのが迂闊だった。
「……っ!!」
気がついたときには、温羅の気配が消えていた。
──はっ!?
俺は背後を振り返る。
──そこには、大斧を振りかざす温羅の姿があった。
「……なるほど、お前が一番戦闘センスがいいな。」
ドォン!!
間一髪で頭をかち割られるのを避けたが、
顔を大きく斬られ、血が吹き出す。
しかし、そんなことを気にしている暇はない。
すぐさま距離を詰め、大太刀の柄で温羅の腹を突いた。
「ぐっ……!」
温羅は踏ん張りきれず、弾き飛ばされる。
──だが、その隙を見逃さない夜叉が突っ込んできた。
「うおおおおお!!!」
夜叉の金棒が唸りを上げる。
俺はそれを受け流しながら、大剣で応戦するが……
「……っ!」
夜叉が徐々に押され始める。
夜叉の力は強力だが、純粋なパワーだけで比べても俺のほうが強い。
──しかし、ここで温羅が動いた。
「王よ……これならどうですか?」
遠くから、温羅が大斧を投げ飛ばしてきた。
──これは、食らったらまずい。
俺は咄嗟に夜叉から距離を取る。
すると、すかさず3体の眷属たちが集まる形になった。
「……ふむ、なるほどな。」
こうして見ると、夜叉は猪突猛進タイプ。
鬼童丸は器用に何でもこなすオールラウンダー。
そして、温羅が一番戦闘センスに優れている。
3体が一斉に飛びかかってくる。
だが、俺の魔力はすでに練り上がっていた。
「……これで終わりだ!」
『炎初級魔法──噴炎!!!』
俺は大きく距離を取りながら、魔法を発動。
──ゴォォォォォ!!!
俺が元いた場所から、巨大な火柱が吹き上がる。
「なっ……!?」
「うおおおおお!?」
突っ込んできた3体は、回避する間もなく火に包まれた。
俺は、大太刀を肩に担ぎながら、ゆっくりと息を整えた。
「……なるほどな。お前たちは、思った以上に強いな。」
火柱が消えた後、眷属たちは全身焦げながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。
「……王、流石です。」
「はぁはぁ……ま、負けたのです……!」
「でもでも! すごく楽しかったのです!!」
俺はそんな3体を見下ろしながら、満足そうに頷いた。
「よし、今後も鍛錬を続けていくぞ。俺たちは、もっと強くなる。」
眷属たちが、誇らしげに頷く。
──これが、俺たちの"最強の軍団"への第一歩だった。