――――魔法都市ゼラストラ
王国でも屈指の規模を誇る都市であり、魔法研究の中心地として知られるこの街には、日々多くの魔法使いや学者、冒険者が集まり、活気に満ち溢れていた。
街の中心にそびえるのは、壮麗な冒険者ギルドのゼラストラ支部。
重厚な石造りの建物は、まるで要塞のような堂々たる佇まいを見せ、ギルドの象徴たる巨大な大鷲の旗が風にはためいている。
そのギルドの最上階。
冒険者ギルドの支部長が集う大会議室で、今、一つの決断が下されようとしていた。
──ゼラストラ支部 ギルド会議室
「全員、集まったようだね。」
静かながらも通る声が響き渡る。
円形の広間、その中央には巨大な円卓が置かれ、ゼラストラを含む近隣の都市のギルド長たちそしてギルド本部の本部長までもが席に着いていた。
会議の進行を務めるのは、この都市のギルド長──
シルヴァリエン・アル=ゼラストラだ。
かつてはA級冒険者として名を馳せ、
その実力と冷静な判断力で支部長に就任した男。
その姿は一見すると幼さすら感じさせる。
身長は低く、端正な顔立ちにはどこか無邪気さが残る。
しかし、鋭い瞳と長い耳が示すように、
彼はハーフエルフ──それも、エルフの血が色濃く表れた存在だった。
「では、会議を始めよう。」
彼の一言とともに、室内に緊張が走った。
「さて、議題については理解してもらえたかな?」
シルヴァリエンが卓上の地図を指し示す。
そこには、新たに発見されたダンジョンの位置が記されていた。
「今回の議題は、新しく出現したダンジョンに対し、
彼の言葉に、一瞬の静寂が生まれた後、
低く力強い男の声が会議室に響いた。
「……そのダンジョン、本当にそこまでする必要があるのか?」
腕を組みながら呟いたのは、ヴォルフェノンのギルド長・フェーラーリウス。
この男は、鍛冶と炎の都市ヴォルヘェノンのギルドを治めるギルド長であり、
たくましい筋肉と豪快な髭を持つ、いかにも戦士然とした人物だった。
「いくら難易度が高いとはいえ、所詮は新しくできたダンジョン。冒険者たちに任せておけば勝手に攻略するだろう。わざわざ大規模遠征なんてする必要があるのか?」
「……甘いね。」
シルヴァリエンは静かに呟いた。
「これまで何組もの冒険者が攻略に向かったが、誰一人生還していない。それに、うちのギルド職員──ルミナとアイザックが行方不明になっている。」
その名が出た瞬間、会議室の空気が変わった。
「……あの狂戦姫と炎滅がか。」
フェーラーリウスが、低く呻く。
──ルミナは"狂戦姫"の異名を持つ女剣士でアイザックは"炎滅"と呼ばれた凄腕の魔法使いだ。どちらもソロで何個ものダンジョンを攻略している。
二人とも、一流のB級冒険者であり、
ゼラストラでは名の知れた実力者だった。
その二人ですら、消息を絶ったのだ。
「このダンジョンは、既にレベルⅢと推定されている。だが、成長速度を考えれば、"
「ふーん……。確かに厄介な話ね。」
妖艶な微笑を浮かべながら、商業都市リューンのギルド長・エレナが口を開いた。
「でもね、シルヴァリエン。
「……それは僕も理解している。」
シルヴァリエンは頷き、言葉を続けた。
「だから、人員はゼラストラ支部で緊急依頼を出して招集する。他のギルドには、遠征の報酬を支払うための資金援助と、物資の供給を頼みたい。」
「なるほどねぇ。」
エレナは軽く笑い、扇子で口元を隠した。
「筋は通ってるし、意外と現実的な計画じゃない?」
肯定的な意見より反対意見が飛び交う中、
今まで一度も口を開かなかった男が、ゆっくりと前に身を乗り出した。
「……ギルドの役割は、民の救済だ。」
一言発するだけで会議室の空気が、一瞬で張り詰める。
この男こそが、ギルド本部の最高責任者──
ヴォルター・グライアス、本部長だ。
「これは、自由を保障されている冒険者たちの唯一の責務だと言っていい。このダンジョンが民の脅威となる可能性があるならば……
迷う理由はない。遠征は決行されるべきだ。」
その言葉に、反対派だったフェーラーリウスも、深く頷いた。
「……ならば、やるか。」
「ありがとうございます、本部長。」
シルヴァリエンが頭を下げる。
だが、本部長は厳しい視線をシルヴァリエンに向ける。
「ただし、失敗は許されんぞ。」
「分かっております。」
シルヴァリエンは微笑み、
最後に、とっておきの情報を明かした。
「今、
静まっていた会議室がまたざわつき出す。
「……ほう今、勇者の師をしている"あやつ"か。」
ヴォルターが口元を歪めた。
「なるほど、あやつなら、問題児ばかりの高ランク冒険者たちをまとめることができるだろう。ならば、憂いはなくなった。これより、
──こうして、
魔法都市ゼラストラが主導する、"
その戦いの幕が、今、切って落とされた──。