1枚目の壁は粉砕された。
残るは、あと2枚。
だが──
(あの攻撃をもう一度やられたら……ヤバい!!)
全身が警鐘を鳴らしている。
【守護部屋の主】の力をもってしても、この壁は無敵じゃない。
クロウ・ヴァンガードという異常な存在にかかれば、砂上の砦に過ぎないのだ。
そして──
「さて……"第二幕"といこうか?」
斧を肩に担ぎ、悠然と歩み寄る《猛斧の修羅》。
彼の後ろには、1枚目の壁を突破して向かってくる冒険者たち。
その顔には、もはや恐れなど微塵もない。
──完全に"勢い"を持っていかれた。
ここで主導権を奪い返さなければ、詰む!!
「鬼童丸、温羅、夜叉!! 総攻撃だ!!!」
「御意!!」
「分かりました!!」
「やってやるのです……!」
「鬼童丸は、後衛部隊の指揮官を、夜叉は前衛部隊を、温羅は遊撃を任せた。」
「分かりました。王はどうするのですか?」
「決まっているだろ。あのクソジジイを張り倒してくる。」
「王、それはあまりにも危険すぎます。」
「仕方ないだろ、このままでは全滅だ。大丈夫だ、俺は死なねぇ」
心配そうだったが俺の号令とともに、3体のゴブリン・ジェネラルが一斉に動き出す!!
『術式起動──雷風二重奏魔法・天雷!!!』
術式付与された雷の嵐が再び炸裂する!!
雷鳴が轟き、風が唸る。
イカヅチが地面を走り、冒険者たちに直撃する!!
──が。
「──ッ!? 何で!? 」
"効かない"。
何人かは怯んだが、主力は意に介さず前進してくる!!
(耐性持ちか!? それとも気合いで耐えてんのか!?)
そんな俺の思考をぶった斬るように、
クロウの咆哮が響いた。
「前衛隊、突撃!!! 遠距離は支援に回れ!!」
──ドドドドドドドッ!!
粉砕された壁の裂け目から、鋼鉄の塊のごとき前衛部隊が雪崩れ込む!!
剣士、盾兵、槍使い、格闘家──各々が最適な陣形をとり、一切の隙なく進軍してくる。
(……ハッ、まるで軍隊だな)
即席の寄せ集め部隊じゃねえ。
まるで長年訓練された精鋭部隊のような動きだ。
──これが、クロウ・ヴァンガードの"戦闘指揮"か!!
「温羅!! 右から回り込んで撹乱しろ!!」
「分かりました!!」
温羅が旋風のように駆け抜ける!!
巨大な戦斧を振りかざし、前衛の盾兵へと襲いかかる!!
──ガァンッ!!!
盾兵が衝撃を吸収するが、温羅の膂力はそれを押し切る!!
吹き飛ばされた盾兵が後方の弓兵に激突する!!
「そのまま畳み掛けろ!!!」
続けて夜叉が雷撃を纏った金棒を振るう!!
雷鳴が響き、爆風が巻き起こる!!
……だが、その攻撃が"届く前"に、
「甘いぞ!!!」
──ズドォン!!!
夜叉の動きが突如止まった。
「……え?」
視線を落とすと、腹部に巨大な拳がめり込んでいる。
目の前には、岩のような巨漢。
「A級冒険者、《鉄壁の砲拳》グラッツォだ。 よろしくな……!!」
ニヤリと笑った瞬間、夜叉の身体が"吹き飛ぶ"!!
「──夜叉!!!」
温羅が助けに向かおうとするも、
「どこ見てんだ!!」
温羅の背後から剣士が襲いかかる!!
咄嗟に反転し、斧で防ぐ!!
──ガキィンッ!!!
火花が散り、刃と刃が噛み合う。
剣圧が重いのだろう──!!温羅が押されている。
温羅の前には、一人の男。
長身痩躯、銀髪の剣士。
その背には、二振りの"曲刀"。
「A級冒険者、《双刃の疾風》カーティスだよ」
二人を助けに行きたい、けれどこのジジイを止めることが出来るのは俺だけだ。
勝算はない。
それでも俺は、突っ込んだ。
全身の細胞が悲鳴を上げる。
本能が死を回避しろと叫ぶ。
それでも俺は、覚悟を決めた。
ここで動かなければ、全滅する。
俺のダンジョンを、好き勝手させるわけにはいかねぇんだ。
「術式発動──土炎二重奏魔法・超巨大自律型防護壁・
──ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
壁が歪み、変形する。
まるで大地そのものが意思を持ったかのように、巨大な腕が床からせり上がる!!
無機質な石壁だったはずのそれが、巨人へと姿を変えた。
無表情の石の王が、敵の進軍を遮るように両腕を広げる。
俺は、"一瞬"だけ振り返る。
──鬼童丸が、後衛へ向かって駆ける。
──夜叉が、前衛を蹴散らすべく飛び込む。
──温羅が、戦場をかき乱すように動き回る。
(頼んだぞ、お前ら……!)
そして俺は──
あのジジイの元へ、一直線に突っ込んだ!!
「ダンジョンボス直々に来てくれるとは……光栄だな」
ジジイが愉快そうに笑う。
それと同時に──
斬撃を叩き込む!!
ガギィィィンッ!!!
俺の渾身の一撃を、ジジイは片腕で受け止めた。
(わかってた……わかってたさ……!!)
俺の一撃が、まともに通じるとは思ってねぇ。
だったら──
さらに距離を詰める!!
大斧の間合いのさらに内側!!
そこに俺の勝機がある!!
──刃と拳の交錯
──ジジイの細腕からは想像つかない豪快な打撃が振るわれる。
それを紙一重で避け、さらに肉薄する。
「シッ……!!」
俺の間合いに入ると、すぐさま短刀に持ち替えた。
刻み込まれた術式が光を帯びる。
刃が、加速する。
今度こそ急所を貫く──!!
「甘いな!!!」
──バギィンッ!!!
「ッ!? ぐぉッ……!!」
拳で、刃を弾かれた。
(なんで……!?)
肉を裂く感触すらない。
ジジイの拳の硬度が、俺の刃を完全に上回っている!!
けれど止まるわけにはいかない。さらに加速するように攻撃をつなげていく。ジジイもそれに応戦するようにどんどんスピードが上がっていく。俺の周りで無数の火花が飛び散る。
戦いに夢中になってしまい周りを見ることが出来ていなかった。
気づくと周りには冒険者がおらず、3枚目の壁近くに来てしまっていた。
このやり取りの中で、俺は誘導されていた……!?
気づけば、戦場の端。
──これは、罠だ!!!
──修羅の斬撃、回避不能
察した瞬間には、もう遅い。
──クロウ・ヴァンガードの"大斧"が、振り上げられていた。
(止めるしかねぇ!!)
俺は、賭けに出た。
全身の筋肉を極限まで駆使し、
首筋へ短刀を突き上げる!!
──刃が、薄皮一枚斬る。
(イケる!! ここから深く突き込めば──!!)
──ズシッ。
「……なっ……!?」
刃が、"止まった"。
──まるで、岩を斬ろうとしているかのような感触。
(バカな……!? 皮膚が、硬すぎる!?)
動揺が、一瞬、俺の動きを止めた。
そして──
ジジイの蹴りが炸裂する。
ゴッッッ!!!!
「がぁッ……!!?」
──理解するよりも先に、体が吹き飛んでいた。
視界がブレる。
脳が衝撃に追いつかない。
壁に向かって、一直線。叩きつけられる。
そして、その目の前には──
クロウ・ヴァンガードの鬼のごとき斧撃が待ち構えていた。
「まぁまぁ強かったぞ、ゴブリンの王よ。」
振り下ろされた大斧が、視界いっぱいに広がる。
膨張したと錯覚を起こすほどの圧。
風圧だけで、地面が抉れる。
──これは猛斧の斬撃。
「猛斧戦技──"鬼哭滅斧"!!!!」
空間が裂ける。
世界が揺らぐ。
絶対的な死が迫る。
冒険者残り 106/170名
現在のレベル―――ゴブリンキングLv69