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第20話 ダンジョンVS冒険者 その3

1枚目の壁は粉砕された。


 残るは、あと2枚。


 だが──


(あの攻撃をもう一度やられたら……ヤバい!!)


 全身が警鐘を鳴らしている。


 【守護部屋の主】の力をもってしても、この壁は無敵じゃない。

 クロウ・ヴァンガードという異常な存在にかかれば、砂上の砦に過ぎないのだ。


 そして──


「さて……"第二幕"といこうか?」


 斧を肩に担ぎ、悠然と歩み寄る《猛斧の修羅》。


 彼の後ろには、1枚目の壁を突破して向かってくる冒険者たち。

 その顔には、もはや恐れなど微塵もない。


 ──完全に"勢い"を持っていかれた。


 ここで主導権を奪い返さなければ、詰む!!


「鬼童丸、温羅、夜叉!! 総攻撃だ!!!」

「御意!!」

「分かりました!!」

「やってやるのです……!」


「鬼童丸は、後衛部隊の指揮官を、夜叉は前衛部隊を、温羅は遊撃を任せた。」

「分かりました。王はどうするのですか?」

「決まっているだろ。あのクソジジイを張り倒してくる。」

「王、それはあまりにも危険すぎます。」

「仕方ないだろ、このままでは全滅だ。大丈夫だ、俺は死なねぇ」



 心配そうだったが俺の号令とともに、3体のゴブリン・ジェネラルが一斉に動き出す!!


 『術式起動──雷風二重奏魔法・天雷!!!』


 術式付与された雷の嵐が再び炸裂する!!

 雷鳴が轟き、風が唸る。


 イカヅチが地面を走り、冒険者たちに直撃する!!


 ──が。


「──ッ!? 何で!? 」


 "効かない"。


 何人かは怯んだが、主力は意に介さず前進してくる!!


 (耐性持ちか!? それとも気合いで耐えてんのか!?)


 そんな俺の思考をぶった斬るように、


 クロウの咆哮が響いた。


「前衛隊、突撃!!! 遠距離は支援に回れ!!」


 ──ドドドドドドドッ!!


 粉砕された壁の裂け目から、鋼鉄の塊のごとき前衛部隊が雪崩れ込む!!


 剣士、盾兵、槍使い、格闘家──各々が最適な陣形をとり、一切の隙なく進軍してくる。


 (……ハッ、まるで軍隊だな)


 即席の寄せ集め部隊じゃねえ。


 まるで長年訓練された精鋭部隊のような動きだ。


 ──これが、クロウ・ヴァンガードの"戦闘指揮"か!!



 「温羅!! 右から回り込んで撹乱しろ!!」


 「分かりました!!」


 温羅が旋風のように駆け抜ける!!

 巨大な戦斧を振りかざし、前衛の盾兵へと襲いかかる!!


 ──ガァンッ!!!


 盾兵が衝撃を吸収するが、温羅の膂力はそれを押し切る!!

 吹き飛ばされた盾兵が後方の弓兵に激突する!!


 「そのまま畳み掛けろ!!!」


 続けて夜叉が雷撃を纏った金棒を振るう!!

 雷鳴が響き、爆風が巻き起こる!!


 ……だが、その攻撃が"届く前"に、


「甘いぞ!!!」


 ──ズドォン!!!


 夜叉の動きが突如止まった。


「……え?」


 視線を落とすと、腹部に巨大な拳がめり込んでいる。


 目の前には、岩のような巨漢。


「A級冒険者、《鉄壁の砲拳》グラッツォだ。 よろしくな……!!」


 ニヤリと笑った瞬間、夜叉の身体が"吹き飛ぶ"!!


「──夜叉!!!」


 温羅が助けに向かおうとするも、


「どこ見てんだ!!」


 温羅の背後から剣士が襲いかかる!!


 咄嗟に反転し、斧で防ぐ!!


 ──ガキィンッ!!!


 火花が散り、刃と刃が噛み合う。


 剣圧が重いのだろう──!!温羅が押されている。


 温羅の前には、一人の男。


 長身痩躯、銀髪の剣士。


 その背には、二振りの"曲刀"。


「A級冒険者、《双刃の疾風》カーティスだよ」


 二人を助けに行きたい、けれどこのジジイを止めることが出来るのは俺だけだ。


 勝算はない。

 それでも俺は、突っ込んだ。


 全身の細胞が悲鳴を上げる。

 本能が死を回避しろと叫ぶ。


 それでも俺は、覚悟を決めた。


 ここで動かなければ、全滅する。

 俺のダンジョンを、好き勝手させるわけにはいかねぇんだ。



「術式発動──土炎二重奏魔法・超巨大自律型防護壁・大地の巨兵テラ・タイタン!!」


 ──ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!


 壁が歪み、変形する。


 まるで大地そのものが意思を持ったかのように、巨大な腕が床からせり上がる!!


 無機質な石壁だったはずのそれが、巨人へと姿を変えた。


 無表情の石の王が、敵の進軍を遮るように両腕を広げる。


 俺は、"一瞬"だけ振り返る。


 ──鬼童丸が、後衛へ向かって駆ける。

 ──夜叉が、前衛を蹴散らすべく飛び込む。

 ──温羅が、戦場をかき乱すように動き回る。


(頼んだぞ、お前ら……!)


 そして俺は──


 あのジジイの元へ、一直線に突っ込んだ!!



「ダンジョンボス直々に来てくれるとは……光栄だな」


 ジジイが愉快そうに笑う。

 それと同時に──


 斬撃を叩き込む!!


 ガギィィィンッ!!!


 俺の渾身の一撃を、ジジイは片腕で受け止めた。


(わかってた……わかってたさ……!!)


 俺の一撃が、まともに通じるとは思ってねぇ。

 だったら──


 さらに距離を詰める!!


 大斧の間合いのさらに内側!!

 そこに俺の勝機がある!!


 ──刃と拳の交錯

 ──ジジイの細腕からは想像つかない豪快な打撃が振るわれる。


 それを紙一重で避け、さらに肉薄する。


「シッ……!!」


 俺の間合いに入ると、すぐさま短刀に持ち替えた。


 刻み込まれた術式が光を帯びる。

 刃が、加速する。


 今度こそ急所を貫く──!!


「甘いな!!!」


 ──バギィンッ!!!


「ッ!? ぐぉッ……!!」


 拳で、刃を弾かれた。


(なんで……!?)


 肉を裂く感触すらない。

 ジジイの拳の硬度が、俺の刃を完全に上回っている!!


 けれど止まるわけにはいかない。さらに加速するように攻撃をつなげていく。ジジイもそれに応戦するようにどんどんスピードが上がっていく。俺の周りで無数の火花が飛び散る。


 戦いに夢中になってしまい周りを見ることが出来ていなかった。


 気づくと周りには冒険者がおらず、3枚目の壁近くに来てしまっていた。


 このやり取りの中で、俺は誘導されていた……!?


 気づけば、戦場の端。


 ──これは、罠だ!!!


 ──修羅の斬撃、回避不能

 察した瞬間には、もう遅い。


 ──クロウ・ヴァンガードの"大斧"が、振り上げられていた。


(止めるしかねぇ!!)


 俺は、賭けに出た。


 全身の筋肉を極限まで駆使し、

 首筋へ短刀を突き上げる!!


 ──刃が、薄皮一枚斬る。


(イケる!! ここから深く突き込めば──!!)


 ──ズシッ。


「……なっ……!?」


 刃が、"止まった"。


 ──まるで、岩を斬ろうとしているかのような感触。


(バカな……!? 皮膚が、硬すぎる!?)


 動揺が、一瞬、俺の動きを止めた。


 そして──


ジジイの蹴りが炸裂する。


ゴッッッ!!!!


「がぁッ……!!?」


 ──理解するよりも先に、体が吹き飛んでいた。


 視界がブレる。

 脳が衝撃に追いつかない。


 壁に向かって、一直線。叩きつけられる。


 そして、その目の前には──


 クロウ・ヴァンガードの鬼のごとき斧撃が待ち構えていた。


「まぁまぁ強かったぞ、ゴブリンの王よ。」


 振り下ろされた大斧が、視界いっぱいに広がる。


 膨張したと錯覚を起こすほどの圧。

 風圧だけで、地面が抉れる。


 ──これは猛斧の斬撃。


「猛斧戦技──"鬼哭滅斧"!!!!」


 空間が裂ける。

 世界が揺らぐ。

 絶対的な死が迫る。



冒険者残り 106/170名

現在のレベル―――ゴブリンキングLv69


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