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第24話 神が紡ぎ人が織りなす叙事詩

──立ち上がったのは、クロウ・ヴァンガードだった。  


 俺はもう、一歩も動けない。  

 大太刀を杖にしてでも立とうとしたが、力が入らない。全身が鉛のように重く、指一本さえも持ち上がらない。  


 だが、それはクロウも同じだった。  


 彼の体には無数の斬撃痕が刻まれ、呼吸は浅く、足元さえ覚束ない。それに袈裟斬りに切れた切り口から血が溢れてきている。

 それでもなお、彼は最後まで戦士として立っていた。  


「見事だった……ダンジョンのボスよ」  


 彼の声は、静かで、どこか誇らしげだった。  

 そして、その言葉を最後に──クロウ・ヴァンガードは、立ったままこと切れた。  


 彼の両手から大斧がすり落ち、地面に転がる──ことはなかった。  

 刹那、大斧は霧のように砕け、塵となって消えていった。  


 それはまるで、クロウの魂が空へと還っていくかのようだった。  




 勝ったはずなのに、胸の奥が妙に静かだった。  


 ──俺は、全力を尽くした。  

 ──クロウも、全力を尽くした。  


 そして、"勝者"としてこの場に残ったのは、俺だ。  


 だが──何だろう、この胸を締め付けるような感覚は。  


 クロウ・ヴァンガードという男は、"規格外"だった。  

 俺がどれだけ準備をしても、どれだけ罠を仕掛けても、彼はそれを乗り越え、立ち向かってきた。  


 「……最後まで、凄いヤツだったな」  


 呟いた声が、崩れゆく迷宮に吸い込まれていく。  




 その時、周囲の異変に気づく。  


 迷宮の壁が軋み、天井がひび割れ、  

 床が沈み込むように揺れ始めた。  


 崩壊が始まっている。  


 「……マズい、マズいぞ!」  


 今の俺は魔力が枯渇し、満身創痍の状態だ。  

 胸の珠玉──迷宮核ダンジョン・コアも、漆黒の輝きを失い、"灰色"に濁っている。  


 もしこのままここに留まれば、勝利したというのに、  

 生き埋めという最悪の結末を迎えることになる。  


 ──だが、逃げる術がない。  


 体が動かない。  

 魔力が残っていない。  

 迷宮の崩壊はすぐそこまで迫っている。  


 どうする?  

 どうすればいい?  




 「王よ! どこにおられますか!?」  

 「どこにいますか? 聞こえたら返事してください!」  

 「どこにいるのです?」  


 ──聞き慣れた声がした。  


 遠くから、必死に俺を呼ぶ声。  


 鬼童丸、夜叉、温羅──あいつらだ。  


「おおーい!! ここにいるぞー!!!」  


 俺が力を振り絞って叫ぶと、  

 すぐに3人の足音が近づいてきた。  


「絶対にご無事だと信じておりましたぞ!」  


 鬼童丸が涙を浮かべながら駆け寄ってくる。その横で夜叉が安堵したように大きく息を吐き、温羅がこっそりと目元を拭っているのが見えた。  


「……嘘つけ。めちゃくちゃ焦ってたくせに」  


 そう茶化すと、鬼童丸が"オロオロ"しながらしどろもどろになる。  


 ──ああ、いいな、この空気。  


 何もかもが終わった後の、このくだらない会話が、こんなにも愛おしく感じるなんて、俺も変わったものだ。  


 俺は、生きているんだ。勝ったんだ。  




 鬼童丸たちに肩を支えられながら、迷宮の外へと足を進める。  


 扉を超えた瞬間──  


 美しい夜空が広がっていた。  


 満天の星々が、静かに瞬いている。  

 蒼白の月が、穏やかに俺たちを照らしている。  


 それは、まるで勝利を祝福する光のようだった。  


 「……綺麗だな」  


 思わず、そう呟いた。  


 鬼童丸たちも、俺と同じように夜空を見上げる。  


 戦いの激しさが嘘のような、穏やかな夜。  

 風が優しく肌を撫で、静寂が心を満たす。  


 ──だが、ここまでだ。  


 俺の体は限界だった。  


 戦いの興奮が冷めると同時に、意識が急速に遠のいていく。  


 "勝った"という安堵。  

 "生きている"という実感。  

 "仲間の存在"が、心を満たしていく。  


「ああ……眠い……」  


 最後に見えたのは、満天の星空だった。  


 ──俺は、意識を手放した。  












『育成システムの完了を確認しました。ステータスが消失します。新たに人物譚ペルソナが与えられます。

 焔雷鬼王ヴォルトフェルノが条件を満たしました。

 神命・愚者フールが与えられました。それに準拠した【啓示】【権能】【神装】を獲得しました。

 これにより主要登場魂格アルカナが揃いました。

 神が紡ぎ人が織りなす叙事詩エピクル・デオルム開始スプレッドします。』






『さぁ……私を愉しませてくれ!!』


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