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第25話 男子三日会わなければ刮目してみよ


 目を覚ますと、青空が広がっていた。  


 濃密な魔力に満ちた迷宮の天井ではない。  

 死闘の果てに崩れゆく暗闇でもない。  

 ただ静かに、穏やかに、雲が流れていく。  


 柔らかな風が頬を撫で、草葉の擦れる音が耳をくすぐる。  

 周囲には木々が生い茂り、陽光が木漏れ日となって大地に降り注いでいた。  


 ──ああ、俺は生きている。  


 そんな安堵と共に身を起こそうとした瞬間、胸のあたりで違和感があった。  


 「……ん?」  


 手を添えてみると、そこに"何か"がある。  


 ひんやりとした感触。  

 そして、本のような硬さ。  


 胸元から、漆黒の装丁をしたが浮かび上がっていた。  

 まるで俺の体の一部だったものが切り離されたかのように、  

 ゆっくりと空中へと現れる。  


「──コレナンダ?」  


 未知の現象に思考が追いつかず、ただ本を見つめた。  




 書物の表紙には、"銀色の文字"が刻まれている。  


人物譚ペルソナ』  


 興味に駆られてページを開くと、そこには詳細なステータスみたいなものが記されていた。  



人物譚ペルソナ

 名前:ラグナ・オラトリア  

 種族:焔雷鬼王ヴォルトフェルノ  

 階位:第Ⅹ階位  

 神命:愚者フール  

 啓示:《運命に縛られず自由を求めよ》  

 権能:【不羈奔放】  

    ・運命の影響を受けず未来視や予

     言、支配系の能力を無効化する。  

    ・一度だけ現実を書き換えることが

     出来る。  

 能力:【鬼王剣術 序】  

    ・鬼の王が使うとされている剣術。

     序は武の始まりにすぎない。  

    【鬼王剣技 序】  

    ・鬼の王に代々伝わる剣技。序は武

     の始まりにすぎない。  

    【眷属支配】  

    ・鬼系統の魔物を統べることが出来

     る力。  

    【炎雷支配】  

    ・炎と雷を自由に操ることが出来る

     力。  

 神装:万装珠玉ジョーカーズ・エッジ  

    ・どんな物にも形を変えることが出

     来る。           』  



 書かれている文字の意味は理解できる。  

 だが、その内容があまりにも別次元すぎて、俺はしばらく思考が停止していた。  




 まず、"名前"について考える。  


 ラグナ・オラトリア  


 この名前には覚えがある。  

 前世でゲームのキャラクター名を考える時、よく使っていたものだ。  

 ラグナはドイツ語で湖、オラトリアは聖曲を意味する。  

 特に深い意味はなく、ただカッコいいからという理由でつけていた。  


「……なんでこの名前になってるんだ?」  


 俺がこの世界に来る前、  

 誰かが俺の記憶を覗き込んだのか?  


 そういえば、ダンジョン内でレベルアップの通知をしていた"声"があった。  

 もしや、あれが俺の記憶を読んだのか?不気味な存在だが、今の俺にはどうにもできない。  


 だが、ラグナ・オラトリアは響きが良いし、自分でつけたものだから愛着もある。  


 ──まぁ、カッコいいからよしとしよう。  



 次に目を向けるのは種族だ。  


 焔雷鬼王ヴォルトフェルノ  


 明らかに、普通のモンスターとは一線を画す響きだった。  


 俺はゴブリンキングから進化したはずなのに、ここにゴブリンらしさを残す文字は一切ない。  


 ……いや、これは進化というより、  

 完全に別の存在へと生まれ変わったと考えるべきか。  


 思い返せば、戦闘中に俺が望んだ姿になった。  

 緑色の肌に筋肉隆々のまさにモンスターな姿が、陶器のような白い肌の美少年へと変わっていた。  


 服装も変わり、漆黒のローブのようなものが自然と身にまとわりついている。額に黒い角があるが、  


 ──見つかったら即討伐される"魔物"から、  

 ──変質者だと思われる程度にはグレードアップしたな。


 能力は引き継いだ物や格が上がったものなどある。鬼王剣術と鬼王剣技は小鬼王剣術から派生したやつだと思う。

 クロウ・ヴァンガードとの戦闘中無意識に使っていたが格段と威力が上がっていた。


 眷属支配はそのまま引き継いだものだろう。


 炎雷支配は焔雷鬼王ヴォルトフェルノになったことで新しく手に入れた能力だろう。戦闘中、自由自在に炎魔法や雷魔法を使えていたのはこれのおかげだと思う。


 他にも魔力増強や、水初級魔法などの汎用スキルの欄があったのに無くなっている。なんで無くなったのか分からないが、使おうと思えば前と同じように使うことができる。

 ただ表記しなくなっただけみたいだ。  



 階位、神命、啓示、権能  


 これは──何がなんやら、さっぱりだ。  


 意識を失いそうな時に、  

 確かに"声"が聞こえた気はする。  


 だが、まともに聞き取る余裕なんてなかった。  


 ただ、啓示の部分だけは分かりやすい。  


《運命に縛られず自由を求めよ》  


 つまり、"好きに生きろ"ということだろ?  


 そんなの、言われなくても分かっている。  

 俺は"俺が生きたいように生きる"。  


 この世界に来た時から、そう決めていたんだ。


 神装は多分だが、この迷宮核のことを言っているのだろう。これ以外にそれっぽいものがないしこれを指してると見て間違いなさそうだ。


 今は魔力が空っぽだからそこまでの力がないがここに魔力が溜まれば迷宮さえも作ることが出来るのだろう。

 迷宮のボス部屋は回復効果や成長速度の増加など恩恵が並外れて良かった。



 今後は鬼王剣術と鬼王剣技の熟練度上げや、神装にコツコツ魔力を溜まることを中心的にやるか。  




 一旦情報を整理した俺は人物譚ペルソナのページを閉じた。


 書物のページを閉じると、それは光となって俺の胸に吸い込まれていった。  


 どうやら、これは俺の体の中を出たり入ったりするらしい。


 そうこうしていると、俺が起きたことに気づいた鬼童丸達がこちらにかけ寄ってくる。

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