「試験開始!!」
ミーアの声が響き渡ると同時に、ゴブリンが突っ込んできた。
──遅い。
クロウ・ヴァンガードとの死闘を経験した俺の目には、その動きが驚くほど鈍く映る。
無防備な姿勢のまま、一直線に俺へと突進してくるゴブリン。
愚直すぎる。まるで自ら死にに来ているようなものだ。
(……これ、戦いって言えるのか?)
軽く息を吐き、大太刀を抜く。
その瞬間──一閃
シュバッ!!
音すら置き去りにする超速の抜刀。
大太刀が閃光のように走り、ゴブリンの首を刎ねる。
──が、ゴブリンはまだ気づいていない。
切り落とされたことを理解できないまま、数歩駆け続け──
膝から崩れ落ちるように、地面へと沈んだ。
「……な、な、なにが起こった……?」
「おいおい、お前見えたか!?」
「いや……気づいたらゴブリンが倒れていた……」
訓練場に驚愕のざわめきが広がる。
冒険者たちは目の前の光景が信じられないらしく、呆然と俺と倒れたゴブリンを見比べていた。
(どうやら俺の実力は、このギルドの基準では相当高い部類らしい)
まあ、当然か。
元S級の猛者とやり合ったんだ。並の冒険者より強いのは明らかだろう。
「倒したけど、次は?」
俺は何事もなかったかのように、大太刀を鞘に納めながら尋ねる。
「えっ? な、なにが……?」
ミーアの声が戸惑いに満ちている。
どうやら何が起きたのか、まだ完全に理解できていないらしい。
(ふーん……ミーアさん、そこまで強くはないな)
前世では、受付嬢がボスをソロ討伐するケースもあったが、どうやら彼女はそういう部類ではなさそうだ。
俺の剣筋をまるで捉えられていなかった。
「いや、普通にゴブリン倒したから次の相手を出してほしいです」
「わ、分かりました……」
驚きつつも、流石は大都市の受付嬢。
動揺を抑えつつ、すぐに次の準備に取り掛かる。
「それでは、E級のモンスターを討伐したので、正式に冒険者としての資格は得られました。
ここで試験を終えることもできますが……まだ続けますか?」
「続けたらどうなるんですか?」
「次はD級のモンスターを召喚します。このモンスターに勝てば、E級冒険者として認められます。」
なるほど、倒したモンスターより一つ下のランクで登録される仕組みか。
なら、ここで終わる理由はない。
「続けます。」
「分かりました。では、召喚を開始します。」
ミーアは再び深紅の宝玉を掲げ、詠唱を開始する。
「──《召喚せよ、具現の宝玉。記憶の中より形を成せ》」
今度は先ほどよりも濃い魔力の波動を感じる。
魔法陣が赤く脈動し、空間が震え始める。
地面が小刻みに揺れ、熱を帯びた風が吹き抜けた。
次の瞬間、地響きを立てながら、魔法陣の中心から巨大な獣の影が現れた。
──ドスン!!
四足の巨躯、分厚い筋肉に覆われた身体。
赤黒い毛皮は鋼のように硬く、牙を剥いた獰猛な顔には、無数の古傷が刻まれている。
「《バーサル・ボア》、召喚完了!」
ミーアがその名を告げる。
バーサル・ボア
D級モンスターに分類されバーサル・ボアるこの魔獣は、
猪のような姿を持ち、その突進は鋼鉄すらも砕くと言われている。
「この魔獣の最大の特徴は、強靭な突進と耐久力です。真正面から受け止めるのは危険なので、うまく対処してくださいね……?」
忠告をくれるミーアだが、その瞳は少し俺を疑っているようにも見える。
(……ふむ、つまり頑丈な突進特化型か)
ゴブリンより強くなっているが、苦戦する程ではないだろう。
「……では、試験再開です!」
ミーアの合図と同時に──
バーサル・ボアが咆哮し、地を蹴った。
凄まじい土煙を巻き上げ、轟音と共に突進してくる!!
「ふっ……いいね。さっきよりは楽しめそうだ。」
俺はニヤリと笑い、大太刀を構え直した。
バーサル・ボアが突進してくる。
殺意の塊と化した巨体が、地を砕くような勢いで迫ってくる。
俺は軽く身をひねり、その突進を紙一重で回避する。
駄目だな、ただ斬るだけじゃつまらない。
クロウとの死闘を経た今、ただの力任せの一撃なんて芸がなさすぎる。
だったら、ちょっと"派手"にいこうか。
「──燃え上がれ。」
『炎初級魔法──炎狼』
指先から燃え盛る狼の炎が生まれ、そのままバーサル・ボアに飛びかかる。
「ブギャァァァァッ!?」
クラッシュボアは悲鳴を上げながら暴れ回る。獣の皮膚に絡みついた炎の牙が、肉を焼き切る。のたうち回りながら、バーサル・ボアの巨体が徐々に動きを鈍らせ──
やがて、最後の足掻きも虚しく崩れ落ちた。
──静寂。
「な、なにが起きた……?」
「……今の炎魔法、初級魔法の発動速度じゃなかったぞ!?」
「剣術に加えて魔法まで……こいつ、何者だ!?」
冒険者たちが驚愕の声を上げる。
ああ、やっぱりこういう反応はいいな。
自分の力を"証明"できた瞬間ほど、気持ちがいいものはない。
俺は軽く肩を回し、目の前で固まっているミーアに声をかけた。
「次のモンスターを出してくれ。」
「……えっ?あ、はい!?」
戸惑いながらも、ミーアは再び《具現の宝玉》を掲げ、詠唱を始める。
──そして、それから先は……
圧倒的な流れだった。
D級、C級、B級、A級のモンスターを一撃で討伐し続け、ミーアや冒険者たちは"驚愕"を通り越して"沈黙"するしかなかった。
誰もが理解したのだ。
──こいつも自分達とは違う"規格外"だと。
「試験はここまでです……」
ミーアは震える声で言いながら、俺を見上げた。
「……ラグナさんを、B級冒険者に認定します。」
その言葉を聞いた瞬間、周囲の冒険者がどよめく。
「おい、マジかよ……!?」
「試験受けたばかりでB級になったやつなんて聞いたことねぇぞ……!」
「ていうか、こいつ本当に子供なのか?」
ああ、そういう反応も悪くない。
「そういえば、冒険者のランクってどこまであるんですか?」
俺の問いに、ミーアは少し落ち着きを取り戻しながら答えた。
「はい、基本的にはA級までです。その上にS級、さらにその上にSS級というランクがあります。」
へぇ~、S級の上があるのか。
「SS級ってのは?」
「人の限界を超えた者に与えられる称号です。現在、世界に5人しかいません。」
ほう、つまりそれが冒険者最強ってことか?
「なるほど。じゃあ、A級になるにはどうすれば?」
「A級は、他の冒険者を率いる立場につくことが多いため、それに見合う"実績"を積む必要があります。ギルドの高難易度依頼を達成していけば、A級昇格の試験を受けることができます。」
なるほどね。普通に冒険者を続けていればA級には到達できる、ということか。
でも──
「冒険者やるなら、S級以上になりたいな。」
俺の呟きに、ミーアは目を見開いた。
「S級以上……?」
「なるにはどうすればいいですか?」
「それは……高難易度すぎて誰も手を付けられない依頼を達成したり、討伐難易度・
ふむふむ、
でも、ちょっとイメージが湧きにくいな。
「具体的にはどんな案件がある?」
「そうですね……最近で言うと──」
ミーアは一瞬、苦い顔をしてから続けた。
「大遠征を返り討ちにした
……ほう?
大遠征を返り討ちにした魔物、剣魔ね…
それって──
俺じゃん。