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第35話 クソガキ育成日記 「放任主義」

「……ふぅ。」  


 訓練場を後にし、静かな路地裏で息をつく。  

 クソガキ――カインに現実を叩き込んだが、俺が構っていられるほど暇じゃない。  


 この世界のことを全く知らないくせに自分が最強だと自惚れるほど俺はアホじゃない。  


 クロウを倒したのは事実だ。  

 だが、世界にはまだ未知の強者がいる可能性がある。  

 ならば――俺が今すべきことは、己の力を知り、鍛え上げること。  


 まずは、進化後の能力を把握しなきゃならない。  


「さて……権能ってやつを調べてみるか。」  


 ──不羈奔放。  


 俺に与えられたこの力の意味は、運命の影響を受けず、未来視や予言、支配系能力を無効化する……とある。  

 説明だけ見れば、俺に対する妨害を完全に弾く、対支配特化の防御系スキルといったところか。  


 だが――発動しようとしても、どうにも手応えがない。  


「……そりゃそうか。」  


 そもそも、デバフや支配系の影響を受けなきゃ発動する状況がないってことだ。  

 試しに誰かに操られてみるか?いや、そんな間抜けなことしてる暇はないな。  


「次は……現実を書き換える能力か。」  


 一度だけ、現実を改変できる。  


 これだけ聞くと、ほぼ神の力に等しい。  


 俺の思うままに、この世界の法則すら捻じ曲げることができるなら――それはまさに、最強の力だ。  


 だが、問題は一度きりしか使えないこと。  


 こんな切り札、軽々しく試せるもんじゃねぇ。  


「……クソ、気になるが、温存しておくしかないか。」  


 次は神装――万装珠玉ジョーカーズ・エッジ。  


 こいつは元迷宮核さんであり、今の俺の力の根幹でもある。  

 武器としての役割はもちろんだが――どうやら魔力タンクとしての機能も兼ね備えているようだ。  


「この魔力……溜め方が鍵だな。」  


 思い返せば、冒険者試験の最中、魔物を倒すたびに生命力のような何かを吸収していた。  

 それが迷宮核時代と同じなら、俺はこの万装珠玉ジョーカーズ・エッジに魔力を溜めさえすれば、新たな迷宮すら生み出せる力を扱えるはずだ。  


 つまり――強くなるためには、魔物を狩り、魔力を溜めることが必要ってことだ。  


「……決まりだな。」  


 今後の方針は明確になった。  


 魔法と剣術を鍛え、魔物を倒し、万装珠玉ジョーカーズ・エッジに魔力を蓄える。  


 この力を極めれば、確実に強くなれる。  


「さて――狩りに行くとするか。」  


 夜の街を抜け、ゼラストラの近くの森まで魔物を倒しに行った。



 夜の帳が都市を包み、街灯の淡い光が石畳を照らしている。  

 空を見上げれば、満天の星が瞬き、冷たい風が頬を撫でた。  


 魔物狩り。  


 この世界で強くなるための、最も単純で確実な方法だ。  

 俺の万装珠玉ジョーカーズ・エッジは、魔物を狩ることで魔力を蓄積できる。  

 ならば、やるべきことは一つ――  


 この世界の魔物を、喰らい尽くす。  


 ギルドの掲示板で見つけた情報によると、都市の外れにある"黒狼の森"は低級から中級の魔物が生息する狩場らしい。  

 初手には悪くない。  


「さて――行くか。」  



 都市の門を抜けると、一面に広がるのは漆黒の森林だった。  


 月明かりの下、木々がざわめき、不気味な気配が漂っている。  

 空気は冷え込み、風の音に混じって何かの息遣いが聞こえた。  


「……来るな。」  


 獣の瞳が闇の中で光る。  


 次の瞬間、それは飛びかかってきた。  


「ガルルル……!!」  


 黒い影が疾駆し、爪が煌めく。  

 牙を剥き、殺意を滲ませながら俺に襲いかかる――  


 黒狼ブラックファング。  


 この森に生息する、最もポピュラーな魔物の一種。  

 単体の脅威度はE級相当だが、群れで行動するため油断はできない。  


「ふん……悪くねぇ。」  


 俺は剣を構えることなく、そのまま迎え撃つ。  


 ――瞬間、黒狼の爪が俺の喉元を裂かんと振り下ろされる。  


 だが、  


「――遅ぇよ。」  


 鬼王剣技・序


 万装珠玉ジョーカーズ・エッジが形を変え、黒刃の太刀が俺の手に生まれた。  

 刹那、俺の体が消える。  


 ──ザシュッ!  


 黒狼の頭が宙を舞った。  


「おっと、流石に一撃か。」  


 地面に転がる首なしの魔物。  

 そして、倒れた黒狼の体から蒼白い光が滲み出し、万装珠玉ジョーカーズ・エッジへと吸収されていく。  


 これが俺の神装の能力の一つ魔力収奪シーフ……悪くない。  


 しかし――  


「……チッ、囲まれたか。」  


 闇の中から、さらに無数の光が瞬く。  

 黒狼の仲間たちが、俺を包囲していた。  


 その数、十以上――  


 低級魔物とはいえ、囲まれれば厄介だ。  


「お前ら、一匹ずつ来るのか? それとも――」  


 俺はニヤリと笑い、黒刃を軽く振る。  


「まとめて、かかってくるか?」  


 黒狼たちが一斉に飛びかかった。  



 夜闇の中で、銀の軌跡が舞う。  


 黒狼の爪が肉を裂く前に、俺の太刀がそれを断つ。  

 音すらも置き去りにする速度で、魔物たちを斬り伏せていく。  


「ハッ、スピードだけは悪くねぇな。」  


 しかし、黒狼の群れも伊達じゃない。  

 連携を取り、俺の動きを封じるように巧みに立ち回る。  


 だが――  


「残念だったな。動きを封じるのは、俺のほうだ。」  


『炎雷支配 炎魔法――炎纏い焔鎧』  


 俺の体を炎が包む。

 血の巡りともに魔力の巡りも速くなり身体能力が向上するのが感じられる。  


 黒狼が飛びかかる――だが、俺の炎がその体を焼き切る。  


「――遅ぇんだよ。」  


 俺の両目から雷の閃光が迸る。  


『炎雷支配 雷魔法――紫電ノ見切り』


 視神経が強化され、俺の目は黒狼の動きを"完全に捕捉"する。  


 もはや、奴らの速度は俺にとって止まっているも同然だ。  


「終わりだ。」  


『炎雷支配 炎雷二重奏魔法――雷火の瞬き』


 刹那――  


 炎と雷の嵐が、黒狼の群れを蹂躙した。 




「……終わったか。」  


 辺りに散らばる黒狼の死骸。  

 その全てから魔力が吸収され、万装珠玉が紅く脈動する。  


 魔力の蓄積は順調だ。 


 だが――  


「まだまだ足りねぇな。」  


 これじゃ、俺の求める最強には届かない。  


 ならば、もっと狩るだけだ。  


「次の獲物は――どこだ?」  


 闇の森を歩みながら、俺はさらなる強敵を求めて進んだ。





あれ?何か忘れてるっけ……まぁいいか!!





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