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第38話 一鬼闘戦

魔物たちは、俺が降り立った瞬間に気づいたらしい。  


「ギィィィ……!」「グオオオオ!」  


 咆哮とともに、一斉に俺へと襲いかかってくる。  


 だが──引く気はサラサラない。  


 俺はそのまま速度を緩めることなく、真正面から魔物の群れに突っ込んだ。  


「──万装珠玉ジョーカーズ・エッジ 変型アクス《針千本》」  


 地面に広げていた万装珠玉ジョーカーズ・エッジが、一瞬で形を変える。  


 無数の細く鋭い針が、俺の周囲2メートルの地点に一斉に出現。  


 ズバァァァ!!  


 前方に殺到していた魔物たちは、避ける間もなく串刺しになった。  


 この針は極限まで細く、鋭く、そして長く伸ばしてある。  

 魔物たちの皮膚や筋肉など意味をなさず、脳天まで突き抜ける。  


 その瞬間──  


 ドクン……ドクン……  


 死んだ魔物から吸収された生命力が、万装珠玉に流れ込み、紅く脈動する。  


 ──だが、こんなのはまだ序の口。  


 遠くにいた魔物たちも、俺という異物の存在を察知し、四方から殺到してくる。  


 ならば、次はコイツで迎え撃つ。  


万装珠玉ジョーカーズ・エッジ 変型グランツ《鬼刀・紅燈》」  


 俺の胸元に埋め込まれた万装珠玉ジョーカーズ・エッジから、一本の刀の柄が現れる。  


 俺は迷いなくそれを握り、引き抜いた。  


 ──シュゥゥ……ン……  


 それは俺の背丈の倍ほどある異形の刀。  


 刀身は妖しく紅く輝き、まるで血を欲しているかのように波打つような光を放っている。  


 俺はその鬼刀を頭上に構え、魔力を全開にする。  


『炎雷支配 炎魔法──陽炎幻刃、気炎万丈』  

『炎雷支配 雷魔法──紫電瞬閃、雷雷雷火』  


 四重の強化魔法が発動。  


 俺の周囲の大気が軋み、炎と雷が剣を包む。  


 万装珠玉の脈動がさらに激しさを増し、刃の光が膨れ上がっていく。  


 ──これは、今の俺が放てる最強の剣技。  


『纏い鬼王剣技 弐ノ型 黎明』 


 俺は、一気に振り下ろした。  


 ドォォォン!!  


 紅蓮と紫電をまとった斬撃が、目の前の魔物たちを根こそぎ消し去った。  


 ……いや、『消し飛ばした』と言った方が正しい。  


 魔物の群れがいた場所には、何も残っていない。  


 焦げた大地だけが、戦場にぽっかりと空いた空間を語っていた。  


「……はは、やっぱり威力がヤバすぎるな」  


 全身から立ち上る炎と雷の余韻を感じながら、俺は息を整える。  


 ──が、その瞬間。  


 ズズ……ズズズ……  


 ──いや、終わっていなかった。  


 俺が消し飛ばしたはずの戦場のさらに奥。  


 その闇の中から、圧倒的な殺気が滲み出してくる。  


 俺はゆっくりと視線を向けた。  


 そこには、先ほどとは桁違いの魔力を放つ存在がいた。  


 巨大な影が何体もこちらを見下ろしている。  


 その眼光は、まるで王が玉座から獲物を見下すかのような冷徹な光を宿していた。 


 ──このエリアの、本当の強者。  


「……へぇ、面白くなってきたじゃねぇか」  


 俺は、鬼刀をゆっくりと構え直す。  


 第二ラウンド、開始だ。





 ──闇の中から、それは現れた。  


 形容しがたい異形。  

 まるで無理やり継ぎ接ぎされたかのような存在。  


 腕は猿、頭は鷲、体は熊、足は兎。  


 骨格も筋肉の付き方も不自然だが、それぞれの部位が異常なまでに発達している。  

 鷲の鋭い眼光がこちらを睨み、熊の巨体が大地を揺らすように踏みしめる。  


 ──これは、ただの魔物ではない。  


 この空間に適応するために強力に進化した、いわば適応者だ。  


 俺は、口元を吊り上げる。  


「……こっからが本番ってわけか」  


『炎雷支配・炎雷重式──二重奏』  


 ゴオオオオオ……!!  


 炎と雷が俺の全身を包み込む。  


 魔力を二重に纏わせることで、さらに強固な装甲と推進力を確保する。  


 続けて、地面に電撃を流し込む。  


『炎雷支配 雷魔法──雷雷雷火』


 バチバチバチィィ!!  


 大地が紫電に包まれ、雷のフィールドと化す。  

 同時に、俺の足にも正の電荷を帯びさせる。  


 ──準備完了。  


「行くぞ──!!」  


 俺は、思いっきり一歩を踏み出した。  


 ──ドンッ!!  


 その瞬間。  


 帯電した地面が電磁加速装置エレクトロ・アクセラレーションと化し、俺の体を弾丸のように弾き飛ばす。  


 ──加速。  


 さらに、一歩。  


 ──加速。  


 また一歩。  


 音の壁が、砕けた。  


 バキィィィィィィィン!!!  


 空間が歪むほどのスピードで、俺は魔物たちの群れへと突っ込んだ。  


 鵺もどきの奴らも対応しようとするが──間に合わない。  


 ―遅ぇよ―  


 すれ違いざまに、俺の鬼刀・紅燈が閃いた。  


 ザシュッ──!!  


 一本目。  


 魔物の鋼のような皮膚が切り裂かれ、鮮血が噴き出す。  


 さらに、一歩。  


 帯電した足の電荷を負に切り替え、急制動。  

 反発力で生じる強烈な慣性を刃に乗せる。  


 ―斬撃強度、増し増しってな!―  


 刃先が振るわれる。  


 ──二本目。  


 切り裂くだけだった一撃が、魔物の腕を両断する。  


 さらに、一歩。  


 加速、斬撃、加速、斬撃。  


 速度≒威力。  


 踏み込むたび、斬るたび、俺はさらに加速する。  


 三匹目、五匹目、十匹目──。  


 気づけば、俺は光の残像と化していた。  


 ──轟音。  


 ──雷光。  


 ──烈火。  


 まるで戦場そのものが、俺の剣技に焼き尽くされるように。  


 そして、数分後。  


 俺はゆっくりと減速し、足を止めた。  


 静寂。  


 辺りを見渡すと、そこには──  


 何十匹もの鵺もどきの死骸。  


 全て、息絶えていた。  


 俺は、鬼刀を軽く振って返り血を飛ばす。  


「……ふぅ、これで全部か?」  


 だが。  


 ──ズズ……ズズズ……  


 奥の闇が、また蠢いた。  


「……はは、マジかよ」  


 口元が、笑う。  


 戦いはまだ終わらない。  


 ──なら、もっと楽しませてもらおうじゃねぇか。  



 俺は、再び刀を構えた。  



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