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第52話 混沌なる狂宴 その5

ゼラストラ中心部、崩れた大広場。


 辺りには無数の贋零屍人の残骸と、焦げた石畳。  

 その中心に、俺の完全なる模倣者が立っていた。


「どうです? 驚きましたか?」


 俺と同じ姿、声、気配。  

 俺の魔力量、俺の詠唱速度、俺の鍛えた体技――すべてがそこにあった。


「これが、《嫉妬ノ腕輪》の力。羨望という感情が生んだ、最も純粋な模倣の顕現です」


 喋り方すら俺に似せてきてるのが、本当に腹が立つ。


「……なるほど、そっくりだな」


 ラグナ=オラトリアの名を騙ったその偽物に、俺は冷ややかに笑った。


 俺の強みは、単なる力や速さじゃない。  

 ――俺は、誰よりも自由に創造する者だ。


「その程度の猿真似で、俺を倒せると思うなよ」


「そうでしょうか?」


 偽ラグナは微笑んだまま、一歩踏み込む。


万装珠玉ジョーカーズ・エッジ 変型グランツ――鬼刀・紅燈〙


 俺と同じ動作、同じ詠唱、同じ間合い。


 ――ドシュッ!


 振り下ろされた一撃を、俺はギリギリの体捌きで躱す。


「ふぅ……」


 すぐに飛び退き、距離をとる。  

 だが、次の瞬間。


万装珠玉ジョーカーズ・エッジ 変型アクス――針千本〙」


 空中でバラけた刀が無数の針に変化し、俺の背後を穿つ。



 皮膚を裂く感触。血の香りが鼻をつく。


 だが、ここで下がれば奴の土俵だ。  

 俺は地面を蹴って逆に踏み込んだ――


〘炎雷支配 炎魔法――豪火噴煙〙


 しかし偽ラグナはさらに先手を打っていた。


 地面が裂け、大量の高温蒸気が噴き出す。  

 肌が焼ける前に、俺は偽ラグナの魔法に合わせるように魔法を発動する。


『炎雷支配・炎魔法――海炎蒼堕』


 燃え盛る青い渦が、蒸気を包み込み、さらに強く爆ぜる。


 回旋する炎が偽ラグナの魔法を呑み込み俺の周りで燃え上がる。


「その程度か?」


 一息つくように俺から距離をとった偽ラグナを煽るように尋ねる。


「その程度とは? 追い詰められているのに気づいていないのですか?」


 偽ラグナは肩をすくめ、愉悦の表情で言う。


「フフ、貴方の戦いを完璧に再現し、さらに上回るまで。もうすぐ、私は本物を超えるのですよ」


「……あぁ、そっちがそのつもりなら、そろそろ教えてやるよ」


 俺は静かに言い返す。


「勘違いしてるようだが、俺の最大の武器はな――万装珠玉ジョーカーズ・エッジでも、炎雷支配でもない」


 ギュウゥゥン……


 空気が震え、炎の渦が舞う。


「俺の力は、“想像力”だ。創造する意思こそが、力に意味を与える。模倣しかできねぇお前には、一生理解できねぇよ」


 俺は手をかざし、炎に風の回旋を加え始める。


「……! 風圧で酸素を調整して、火力を――ッ」


「察しは早ぇな。だが遅ぇ」


万装珠玉ジョーカーズ・エッジ 変型グランツオ――鬼刀・紅燈』



 万装珠玉ジョーカーズ・エッジを刀に変型させる。さらに地面に張り巡らせた万装珠玉ジョーカーズ・エッジを用い鬼刀・紅鬼を複製し無数の刀身を生やす。


 偽ラグナは身の危険を感じたのか俺の攻撃を防ごうと向かってくるがそれを蒼炎で軽く防ぐ。


 そして、蒼炎の回旋を大きくして刀身に纏わせる。  


「さらに――《蒼炎融合》」


 炎の渦が刀に纏い付き、旋風を伴う。


「ここからが本物だ。偽物」


 蒼炎で燃え盛る無数の刀身が偽ラグナを取り囲むように刀身を絡め合わせていく。

 刀身が剣牢とかし、逃げ場をなくすように張り巡らせていく。


 そして、俺が手に持つ刀を振り下ろしたのと同時に無数の刀身も偽ラグナ向かって振り下ろされる。



『纏い鬼王剣術――参ノ型 薄明かり』



 ズババババッ!!


 一瞬にして、広場全体が蒼い光に包まれる。


 蒼炎の刀が暴風を纏いながら、あらゆる方向から斬りかかる。


 斬撃が交差し、軌跡が空を焦がし、地を焼き、まるで――夜明け前の空が青く染まるように、あたり一面を彩った。


「ッが……ァア!!」


 偽ラグナは万装珠玉ジョーカーズ・エッジを堅牢な盾にしてなんとか自分の周りを囲うが、無数の刀身による燃え上がるような蒼き斬撃が盾を削っていく。


 数瞬の後、偽ラグナの身体から、腕輪がバキィと砕け落ちた。


「――な……ぜ……っ」


「答えは単純。お前の元になった俺の知識はこの世界だけのもんじゃねぇ」


 俺は、一歩、また一歩と近づく。


「俺は前世の知識――現代日本の科学、構造、理論、すべてを引っ提げてきた」


「……は?前世?」


 シャルノバは俺が何を言っているのか理解が出来ないようだ。まぁ前世などこの世界にはない考え方なのかもしれない。


「空気の流れも、温度と酸素の相関も、プラズマの原理も、電磁加速砲の理屈も、お前には理解できねぇ」


「ぐっ……ぅ、く……そ……っ!」


 偽ラグナの姿が崩れていく。  

 魔力の制御が破綻し、身体が元の姿へと戻った。


「見た目は俺、声も俺、力も俺。けどな――知識がねぇんだよ、お前には」


 ズバ――ズッ……


 体に力が入らず倒れているシャルノバの首を跳ね飛ばした。


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人物譚ペルソナ

 名前:シャルノバ

 種族:混血魔人ハーフ・デビル  

 階位:第Ⅷ階位  

 神命:悪魔デビル  

 啓示:《世界に混沌を》  

 権能:【強制契約インフェルナル・バインド】  

    ・相手の願いを聞くことで強制的に

     契約を結ぶ。  

    ・相手の願いを叶えるとその相手に

     どんな代償でも背負わせることが

     できる。 

    ・一度結んだ契約を破棄するとお互

     いに命を失う。  

 能力:【思考誘導】  

    ・相手の思考を自分の有利な方に誘

     導することができる。心が弱い者

     や、心に傷を負っている者に対し

     て発動すると自分の思い通りに操

     ることができる。

    【存在隠匿】  

    ・自身の気配を極限まで消すことが

     できる。  

    【儀式魔法】  

    ・何百人がかりで発動する魔法を単

     独で発動することができる。ただ

     し、発動する魔法の規模に比例し

     必要な魔力の量が増える。   

 神装:具現ノ玉手箱デモニック・パンドラ  

    ・願いをその願いにそった武器、

     顕願武装オプタティ・ソプタノムスとして七つまでスト

     ックすることができる。            




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