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第61話 混沌なる狂宴 その14

「私の計画がァァァッ! こんな所で終わってたまるものかァアアアアッ!!」


 ……うっせぇなぁ。鼓膜が破れるかと思ったわ。


 クソガキとの精神会話を終えた俺が外の戦場に意識を戻すと、シャルノバがまるで発狂したように喚いていた。顔を歪ませ、全身から魔力を吹き出しながら、何かに必死で抗ってる。


 ――あぁ、そうか。  

 中の本体が危機感を感じてやがるんだな。


 クソガキが目を覚まして、箱の中にいるシャルノバの本体を倒そうとしている。  

 それが、外にいるシャルノバにも伝わってんだ。精神と魔力が繋がってるなら、そりゃ焦るよな。 


 「けどな――遅ぇよ、全部」


 俺が抱えている箱。  

 俺の魔力で紅色を纏っていた具現ノ玉手箱デモニック・パンドラが、突如として漆黒に輝いた。


 ズズズズ……ッ!


 中から、どす黒い影が溢れ出してくる。  

 贋零屍人――あの呪われた兵器の群れだ。  

 数は、ざっと数えて……いや、数えるのもアホらしいほど、無数。


 けど、俺は動じない。  

 だって――


 「今さらこんなんで俺の相手をできるとでも思ったかよ?」


 右手を軽く振る。


万装珠玉ジョーカーズ・エッジ 変型アクス―――針千本』


 刹那、万装珠玉ジョーカーズ・エッジが地中から飛び出し無数に枝分かれする変形する。  

 無数の針が空中に散開し、全方位に向けて発射され――


 ズドォンッ! ガギギッ! グシャッ!!


 目にも留まらぬ速度で、贋零屍人たちを次々と貫いていく。  

 貫通し、爆ぜ、再起不能にして、廃棄物へと変えていく。  

 まるでそれが当然のように。


 「はぁ……魔力の減りもまだ誤差の範囲内か。やれやれ、拍子抜けだな」


 背後で倒れた贋零屍人が、もはや山となって積み重なっている。  

 でも俺はまだ一歩も動いてない。手足に力を入れる必要すらない。


 「後は……クソガキ次第ってところか」


 正直、任せるのは不安だ。  

 あいつの根性は豆腐より脆いし、言い訳だけは一人前だ。


 けど、俺はあの箱の中には入れない。  

 内側からシャルノバの本体を倒すことはあいつだけにしかできない。


 だったら――


 「背中くらいは預けてやるよ、カイン・アスベルト」



 さぁ、見せてみろよ。  

 お前の、自分の為の戦いを。



 ――――



 空間が、真っ白に染まっていた。


 上下左右の概念すら曖昧になるような、白の海。霧のように視界を覆うその色に、思考すらもぼやけそうになる。


 ……ここは多分、僕が吸い込まれた箱の内側なのだろう。


「……僕以外に、六人」


 目を凝らす。彼らはまるで眠るように、倒れていた。僕と同じで虚ろな夢の中で現実を拒み、自分の願いに浸る者たち。その中に、シャルノバ本人らしき存在は見えない。


「……でも、念のため、一人ずつ調べよう」


 覚悟を決めて、もっとも近くにいた男に近づいた。


 それは、傷ついた鎧を纏った一人の冒険者。浅く寝息を立てていて、その表情はまるで子供のように安らかだった。きっと、彼も――自分の理想の世界に囚われている。


 詳しく調べようとして冒険者の肩に手を伸ばした。


 ――次の瞬間、意識が溶けるように沈んでいった。






 次に目を開けた時、そこには壮大な風景が広がっていた。


 一面の草原。その空には、数え切れないほどの龍が舞っている。だがその光景に、どこか違和感を覚えた。


「……あれは……」


 先頭を飛ぶ金色の巨龍。その背には、一人の男――さっきの冒険者が、確かに立っていた。彼は空を統べ、龍たちに命じて地上の魔物を蹂躙している。


 その顔は、勝利に酔いしれ、支配に満たされた王のようだった。


「これが……彼の、願いの世界」


 あまりに現実離れした世界。それでも、彼にとっては“真実”なのだろう。


 ――僕の言葉じゃ、きっと届かない。


 けれど、ラグナさんが僕にしてくれたように衝撃を与えれば……!


「彼を目覚めさせるには、戦うしかない……!」


 草原を駆け抜け、龍の群れへと突っ込む。魔力を足に集中させ、空へ跳躍したその時。


「なぜ勇者様がここに?」


 その声は、真上から降ってきた。


 次の瞬間、金色の龍が空気を裂いて尾を振るい、カインを打ち落とす。


「ぐっ……!!」


 地面へと叩きつけられる。土煙が舞い、肺に入り、視界が揺れる。


「龍の力を操る俺は最強だ……!俺の邪魔をするなら勇者様であっても容赦しない!」


 その声には、高揚と侮蔑が混じっていた。


「違う……あなたは操られてるんだ! シャルノバの魔法で!」


「何を言っている!シャルノバ?操られている?わけの分からんことを言って気を引こうとしてもどうしょうもないですよ?!」


 龍が咆哮をあげる。雷のような怒号が大気を切り裂き、火球が雨のように降り注いだ。


 夢の中で彼は無敵だ。この空間では、彼の“理想”が世界のルールそのものになっている。


「くっ、でも……! 僕はもう逃げない……!」


『聖剣召喚――集え 聖剣デュランダル』


 光が集い、手の中に聖剣が現れる。


 ……夢の中であろうと僕は人を傷つけようとして武器を持っている。


 手が震える。それでも――握りしめた。


『聖剣解放――光刃展開』


 聖剣にはそれぞれに固有の能力があってそれを発動するのが聖剣解放だ。

 デュランダルの能力は収束と分散、聖剣解放を発動すると、デュランダルの刀身が聖なる光に包まれ無数の光刃に分裂する。


 光刃がまるでレーザーのように飛んでいき龍の炎と衝突する。火花が散るように、光刃と龍の炎がぶつかり合った。


 これで止められるとははなから思っていない。攻撃の衝突によって出来た爆煙を突っ切るように飛びかかる。


「聖閃突き 光輝閃々!!」


 分裂していた光刃を収束させて、さらに聖光魔法をデュランダルに纏わせる。


 そしてその勢いのまま、瞬速の突きを繰り出した。


 それは龍の横腹を突き抜ける一閃。一瞬の隙。その隙を、見逃さなかった。


「やめろぉぉぉ!!」


 叫ぶ声が響く中、剣がそのまま冒険者の胸元に届いた。


 刹那、空間が揺れた。


 空が砕け、大地が割れ、龍たちが霧のように消えていく。


「うっ……ああああああああッ!!」


 彼の絶叫が空に吸い込まれ――そして、僕は現実の白い空間へと戻ってきた。


 冒険者も側に倒れている。

 夢から覚めたばかりのようで、頭がボーとしているのだろう、苦しげな顔をしている。


「……よかった。まず一人」


 聖剣を握り直す。

 そして、シャルノバ探しを再開した。

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