少し時を飛ばして、アレクセイは十歳になっている。
なろう系小説では一定数、幼少期をがっつり描く作品がある。
生まれた瞬間から魔力を錬ったり努力している、あるいは幼児にあるまじき落ち着きや能力で周囲が驚愕するという演出のためであろうことは想像に難くないが、同時にポンと与えられたチート能力で無双するだけのテンプレ展開との差別化という側面もあるのだろう。
中には我慢できなくなったのか、幼児のまま物語を進行し大活躍させるという、絵面的にそれはどうなのという作品も見受けられる(それはそれで面白いが)。
一方の我らがアレクセイ君はといえば、あまりに代わり映えのない日常を過ごしている。
以前紹介した魔力鍛錬のルーティンをこなしつつ、冒険者としての勉強や訓練に励みながら、近所のアレクセイ大好きメスガキことリュドミーラの相手をしたりして過ごしている。
とはいえ、変わったこともある。
未だに子どもと呼べる外見をしているが、手足がスラッと伸びて顔つきも大人びて来ている。
あと数年もすれば日本人的な感覚からすると十分大人に見える顔つきに変わるであろう。
まあ、それは外国人と触れ合う機会の少ない日本人特有の感覚なのかもしれないが。
閑話休題。
ともあれ、パッと見では身長の低めな中学生、もしくは高校生と言われても納得するくらいには成長しているのだ。
今まで機会に恵まれず後回しにしていたが、この辺りでアレクセイの容姿について描写しようと思う。
まず全体的に色素が薄い。
わかりすく言えばスラブ系の顔つきではあるが、アングロサクソンのように肌の色素が薄いのだ。
髪は割合珍しいが、特筆すべきほどではない黒髪である。
だが、そこに白に近い銀髪が入り混じる。
瞳の色は青と赤が混ざりあった遊色、体内の魔力により若干揺らめくように色を変える不思議な瞳だ。
そして瞳孔はまるで一等星のように爛々と輝いている。
この世界では、髪色や瞳の色などに魔力の影響が顕れることがある。
中には
髪色が奇抜な程度であれば、『ああ魔力があるのかな』程度に認識され、それに瞳や紋様が加われば、『魔法使いかな』と思われることもある。
ついでにリュドミーラはといえば、典型的なスラブ系である。
肌は基本的に白いが、毎日アレクセイを目当てに外に出て日に焼けている。
髪も濃い目の金髪であるが、瞳は透けるようなブルーである。
この世界でも女子の方がやや成長が早いようで、身長や体型は年上のアレクセイと変わらない。
今日はゴルラヴェツから見て北西方向にある都市から商隊がやってくる日であった。
商人たちは最近開発されたという最新式の魔導車──見た目としてはトラック、正確にはトレーラー車であるが、サイズ的には大分かわいい感じで精々準中型トラックくらいのサイズ感である──に乗ってやってきた。
車両本体こそ中央から流れてくるものの、大型車を運用するためには道の整備が必須であり、こんな辺境までは開発の手が伸びていなかった。
村の広場に停められた複数台の車両からは、いくつもの商品とともに、いかにも冒険者でございといった風貌の男女が吐き出されている。
それを村の人々が期待を込めた瞳で取り囲んでいる。
アレクセイはその人々をかき分けて前に出る。
「こんにちは、パーヴェルさん」
「おお、アレクセイくん! 元気かね!」
「このとおりです」
そうしてアレクセイが話しかけたのは、この隊商を率いる商人であった。
随分と儲かっている様な恰幅の良さであるが、それにも増して縦に大きい男性であった。
「君の言うとおりにして大分儲けさせてもらったわい! お礼じゃないが、しっかりとお望みの品を揃えてきたからな、ゆっくりと見てくれ!」
身体に見合った声の大きさだがアレクセイは気にした様子もなく、今もパーヴェルの部下が並べていく商品を順に眺めていく。
パーヴェルが語ったのは、アレクセイが前世の知識を活用して商機を生み出したという話だが、大したことではないので──せいぜいなろう読者を喜ばせる程度のオレツエーと主人公マンセーなので割愛しておこう。
特段優れた知性を発揮したわけでもなく、単に最近の人間は知らない知識を活用しただけで、ある意味では年寄りの知恵袋的な活躍であるとだけ付記しておこう。
閑話休題。
そうしてアレクセイが眺めている商品は、基本的に冒険者向けの商品である。
対モンスター向けで、業物というよりは頑丈で長持ちする冒険者仕様の武具。
近年、魔術と科学により猛烈な勢いで発展している紡績技術によって生み出された製品に、撥水加工などを施された生地や、それを使って生産された服や野営道具等、明らかに定住者の普段使いではない品々である。
つまり、通常であればこんな辺鄙な農村には持ち込まれない商品であった。
当然そんなものは周囲の目を引き、アレクセイに「村を出るのか?」などといった質問が飛んでくる。
それにおざなりに答えている様子は、前世で研究に夢中になっていた頃と変わらなかったが、この場でそれに気付ける人間がいるはずもなかった。
「まったくアリョーシュカったら困っちゃう❤︎いつまで経っても冒険冒険って子どもっぽいんだから❤︎」
同時にアレクセイも、妻気取りで周囲に受け答えするリュドミーラに気付いていなかった。