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第12話

それから各種手続きを終え、冒険者として必要な注意事項等の伝達を済ませ、冒険者証であるカードを支給された段階で、また声をかける人物が現れた。




「こんにちは、少しお時間よろしいでしょうか?」




「おや、ミチザネさん」




「お世話になっております。少々彼とお話しさせていただいても?」




「青田買いですか? 私も立ち会わせていただきましょうか」




「ええ。その方が安心していただけるでしょうし、是非」




声をかけてきたのは、アレクセイと同じくこの冒険者ギルド内では少々浮いた見た目の人物であった。


ゆったりとした衣服をまとってわかりづらいが体格は細身で冒険者には見えず、佇まいは落ち着いている。


歳の頃は30代から40代といったところで、中年と呼ぶには若々しい見た目である。


それらだけでも冒険者ギルドにあってはやや異質ではあるが、柔和そうだがどこか油断がならない雰囲気もある顔つきは大陸風ではなかった。


有り体に言えば、日本人風の人物であった。


後ろには腰に帯刀した護衛と思しき人物が無言で付き従っている。




「どうもはじめまして。私はワヨウで商いをしております、ミチザネと申します」




「はじめまして。Gランク冒険者のアレクセイです」




お互いに軽く会釈をし、握手を交わしてから椅子に座る。


カウンターの向こうの職員も入れて三角形を作るように向き合う。




「単刀直入に申しましょう。仕事の依頼です。我々はこの街に数週間ほど滞在予定ですが、その間の雑用を任せる人員を求めているのです」




「ミチザネさんは真っ当な商売をされている方です。そこはギルド職員として保証しましょう」




「具体的な業務についてはその都度申し付ける形になりますが、概ね契約としてはこのような形です」




そう言って懐から出した紙を机の上に置く。


アレクセイと受付職員がその内容を黙読する。




「報酬はGランクとしては妥当かと。むしろ食事と宿付きであることを考えれば破格と言っても良いでしょう。また、この内容であれば依頼達成時にFランクに昇格させることも可能となります」




「なるほど。お話しはわかりました。しかし、なぜ僕に?」




「単純な興味です」




「興味?」




「ええ。お若く見えるのにそこまで強力な魔力を宿しておいでで、しかも冒険者としては初心者だという。もちろん仕事も大切ですが、顔つなぎと思っていただいても構いませんよ」




この世界において魔力保有者は少なくない。


むしろ保有だけならほぼすべての人間が保有しているといえる。


だからこそ、魔力保有者であれば一定の効果を発揮する魔術具が隆盛し、世界の文明を押し上げる一因ともなっているのだ。


しかし、アレクセイのように瞳にまで魔力の影響が顕れるほどのものはそう多くないし、もしいても冒険者として活動するものは更に少ない。


とはいえその言葉には多分にお世辞が含まれてはいるが。




「我が国には『奇貨居きかおくべし』なんて言葉がありましてな、要するに珍しいものはそれだけで利益を生むことがあるということです」




「なるほど。まあこちらとしては助かりますが、あまり期待されても困りますよ」




そんなことを言いつつ、トントン拍子に話は進み、契約締結完了した。




「では仕事の前に宿に向かいましょう。荷物を置いたら早速仕事になります」




アレクセイは背嚢を担いでミチザネの後を追う。


最後に振り返ってギルド職員に頭を下げる。




「どうもありがとうございました」




「いえ。良き冒険者ライフを」

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