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第13話

アレクセイがミチザネの依頼を請けてから数日が経過している。




「ではそのように」




「はい」




現在は倉庫にて作業中だ。


ミチザネが在庫の帳簿をつけている間に、アレクセイは物品を整理整頓している。




「『牛要らずの魔法』」




いくら鍛えているとはいえ12歳のアレクセイには、言葉のとおり荷が重すぎるわけだが、魔法によって対応している。


渡された分類表と木箱に示されている内容物を照らし合わせながら順次整理していった。




「器用なものだな」




そんなアレクセイに話しかけてきたのは、ミチザネの護衛であるウラベであった。


書き物をしているミチザネと、作業中のアレクセイの間になるよう立ち位置を変えながらも、隙のない佇まいでアレクセイを見つめている。




「両親直伝の便利魔法です」




「なるほどな」




アレクセイは別に魔法を隠すつもりはないが、かといって見せびらかすつもりもない。


オレツエーをしたいのであれば別であるが、彼はそれほど悪趣味ではない。


なのでこうしたその場しのぎの言い訳はいくつか用意していたのである。


ちなみに、他には「師匠が〇〇魔術を極めていたので」等、多少強力な魔法を使ってもごまかせる──少なくとも他者が簡単には追求し得ないような内容のものがある。




「ワヨウの方ではあまり魔法を使う方が居ないのですか?」




「そういうわけではないのだがな」




ワヨウというのはこの世界で言う日本風の国家だ。


大陸東端のこの地域から、更に東へ海を渡った先にある島国である。


ミチザネたちはそこから来て商売をしているというわけであった。




「我が国では、一定以上の才能のある魔法使いは、一律で国家へと召し上げられるのだ」




「ほうほう。召し上げられてからはどうしてるんですか?」




「一概には言えんが、本人の適正によって軍人になったり研究者になったりだな」




「どの道、市井にまでその技術が降りてくることは少ないと」




「そういうことだな。まあこちらでも使われている生活魔法のようなものは、昔からの知恵として皆使えるし、逆に地方の奥まった集落では時に中央でも驚くような技術が発見されるということもあるらしいが」




「閉じた環境での独自進化ですか……面白そうですね!」




そんなことを話しながらも作業を進めていると、ミチザネから声がかかる。




「午前はこんなものでしょう。昼食にしましょうか」




「はい」




「午後からは一旦港に行きましょう。今日はおそらく面白いものが見られると思いますよ」




「面白いもの?」




「はい。見てからのお楽しみです」








…………








ところ変わって宿に戻ってきた一行。


この宿はミチザネの商会が運営するワヨウ風の宿屋となっている。


いわゆる日本の旅館風の造りで、畳や障子もある。


当初は靴を脱いで上がる建物に面食らった様子のアレクセイであったが、今ではその快適さがやみつきになっているようだ。




「今日は刺し身ですか? 味噌汁ありますか? トンカツも美味しかったなあ……」




食事もワヨウ風となっており、材料はこちらで仕入れた新鮮なものだが、味噌や醤油などを使いワヨウの技術で作られた料理は、もし日本からの転生者でもいたのなら感涙ものであろう出来になっている。


ちなみに、ワヨウには当然ながら仏教などの影響はないので、肉食を禁忌とする価値観はない。




「さてどうでしょう。ですが味噌汁は毎食付きますのでご安心ください」




今にもよだれを垂らさんばかりのその様子を微笑ましいもののように眺めながらミチザネが答える。


ウラベはそんなふたりの一歩後ろを黙って歩いている。


主人が話している時に口を差し挟むことはない。




「良ければ、醤油や味噌・米など、保存が効くものであれば融通しましょうか?」




「ほんとですか!? それはありがたいなあ。出発までに板さんから色々と勉強させてもらわないと」




アレクセイはこの仕事が終わり次第、次の目的地に向け出発しようと考えている。


ミチザネからの報酬は十分であるし、仕事に慣れたかはともかく、ランク昇格も出来そうであるということも鑑みて決めたことだ。

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