目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第17話

「エリー! そっちに行ったぞ!」


「はい」


エリザヴェータが行動をともにしている、大陸西部から中部にかけて活動する超大型冒険者クラン・ヴェインサーブル。

その中でも上位寄りの実力者集団であるシルヴェリア小隊という固定パーティがいる。

この場にいるのは、パーティリーダーのセラフィナ・カリステ、サブリーダーのマルヴァン・トレシエ、ジュリオ・ヴァスケス、アメリア・ボランの四人である。

彼らは龍種を討伐するにあたってクランの副マスターであるマクシム・ヴァルネーから紹介された人物である。

彼らと合流してから数週間ほど、連携を確かめながら目的地へと向かっているところだ。

今もパーティとして狩りを終えたところである。




「ふーむ。相変わらず見事なもんだねえ」


「本当だよね、大きな傷も付けずに一発だもんね!」


狩った魔物から素材を剥ぎ取り、簡易な防腐処理などを施しつつセラフィナとアメリアが話しかけている。

セラフィナは男性と比べても長身の女性で、無骨な長剣と弓を装備している。

その内面は豪胆でありながら理知的で、統率力にも優れており仲間内からは「姐さん」などと呼ばれて信頼を寄せられるパーティリーダーである。

もう一方のアメリアは、パーティ内最年少で冒険者とは縁遠そうな雰囲気の女性である。

表情がコロコロと変わる愛嬌の良い娘で、どこかの店の看板娘だと紹介された方がよっぽど信じられる風情がある。

身にまとうローブと魔術発動具である杖──指揮棒よりは太く長く、棍棒よりは細く短いくらい──を装備しているため、かたぎには見えないが。

そんな彼女たちに対するエリザヴェータは、話を聞いているのかいないのか、ぼんやりと佇んでいる。

周辺警戒と言えば聞こえは良いが、彼女の不器用ぶりを見てこうした後処理には関わらせないようにされているだけである。

本来、オートマタとしての機能をフルに発揮している状態であれば、人間などよりもよほど精密作業に向く彼女ではあるが、残念な思考回路と同じように今はその真価が発揮される様子はなかった。


「おうい。終わったかあ?」


「周辺は異常なしだぜー」


森の木立の間からそう声をかけて来るのは、パーティ内最年長でありサブリーダーでもあるマルヴァンである。

筋骨隆々の巨漢で、いかにも冒険者でございといった風情であるが、その性格は温和で実直。

リーダーのセラフィナがパーティの精神的支柱であるとするならば、彼は実務面からパーティを支える縁の下の力持ちといったところである。

その後ろについて来たのは、はしっこそうな雰囲気を持つ青年だ。

年齢的にはセラフィナとアメリアの間くらいで、身長的にもそれくらいだ。

腰に二本の短剣を差し、スリングや小物入れなどの道具類を吊ったベルトと、比較的軽装といえる装備が特徴といえる。

冒険者パーティの役割的には、セラフィナが指揮役兼遊撃、マルヴァンが盾役、ジュリオが斥候兼遊撃、アメリアが後方支援兼魔術によるダメージディーラーといったところである。

そこにエリザヴェータが最前線で徒手格闘による物理ダメージディーラーとして仮加入している形である。

他にもいくつかのパーティと、それを支えるバックオフィスを抱えた小規模クランであったシルヴェリア小隊が、ヴェインサーブルに吸収され今に至る。

人員の流動性が増したり、バックオフィスが一元化されたりと色々な変化はあったが、パーティとしては割と形を残している方であり、それらの変化を込みでこの大型クランに加入するメリットの方が大きかったのだ。




…………




「さて来週には目的地に到着するわけだが、改めまして作戦会議といこうかね」


焚き火を囲んでシルヴェリア小隊の面々プラスおまけのオートマタが話し合っている。

まあエリザヴェータは常のごとく黙りこくって聞いている(推定)だけだが。


「ここまでの戦闘も込みで、エリーの戦闘力は測れた。いや、測れないことがわかった」


余裕を残しながらも真剣な顔つきでセラフィナが語るのに合わせて、他のメンバーもエリザヴェータに視線を向ける。


「まあ、何が来てもワンパンだったからな……」


マルヴァンが苦笑気味に同調する。

それで多少空気が弛緩したのか、ジュリオやアメリアも笑いながら追従する。


「わけわかんねーよな、こんなに細っこいのに」


「本当だよ、私よりもちっちゃいのに~」


ついでにアメリアは隣に座ったエリザヴェータの頭を撫でている。

良くて平均身長程度の彼女からすれば、150センチメートル程度のエリザヴェータは、冒険者となって以来むくつけき男どもに囲まれていたことで知らず知らずの内に蓄積していたストレスを緩和してくれる癒やし枠となっていた。

現在のエリザヴェータは、経年劣化や整備性の問題から多くの機能が使用不可となっている。

そのため機構がシンプルで、内蔵された魔導エンジンの出力がそのまま火力に繋がる徒手格闘を主武装として戦っていた。


「まあとにかく、まずはエリーの一撃を最高の形で叩き込む形だ。あっちの索敵範囲にもよるが、気付かれずに近寄れるようならそのまま殴り飛ばせば良いし、それがだめならアタシたちで隙を作ってからってだけだ」


「今までどおりってことだな」


(龍種討伐を成し遂げればマスターの元まで名前が届くでしょうか)


聞いているのかいないのか、相変わらずぼんやりとしているように見えるオートマタに、周囲も笑い混じりに視線を交わす。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?