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第20話

ムグリースタエを旅立って数日、アレクセイは山道を歩いている。

この山を超えて更にいくつかの町村を経由した先に、現在の目的地であるリェンヤンは存在している。

ふと振り返ると、遠目にムグリースタエの街が見える。

北の方にはゴルラヴェツも見えるが、流石にストリェチェヴォ村までは見えない。

自らが歩いてきた道のりを思ってか、しばしそうして景色を眺めていたが、ぐうというお腹の音が鳴って我に返る。


「ご飯にしよっと」


いわゆる信玄椅子のような小型で軽量の椅子に腰掛け、食事の準備を始める。

準備といっても食料庫、もといアイテムボックスから順番に素材を取り出すだけであるのだが。

朝、宿で持たせてもらった握り飯に、漬物、鍋に入れてもらった味噌汁をマグカップで掬う。

味噌汁は鍋ごと保管しているのだ。

アイテムボックス内は時間経過がかなり遅く設定されているようで、味噌汁から湯気が立ち上る。

それに合わせて嗅覚を刺激する奥深い出汁の香りを楽しみながらまずは一口。


「うーん!」


次に握り飯を一口。


「うん! うん!」


握り飯はシンプルな塩むすびであったが、今手を付けているのとは別のものに味噌を塗る。

味噌は細かく刻んだネギを練り込んだネギ味噌で、すりおろした生姜とちょっとたらしたごま油の香りがたまらない。

それを用意していた網に乗せ、魔法で熱していく。

直火ではなく熱だけを発生させているあたり、芸が細かい。

まるで炭火で焼いたかのように、芳ばしい匂いが広がる。

いつの間にか漬物と塩むすびを片付けていたアレクセイが、焼きおにぎりを手に取る。


「あちっあちっ」


軽くお手玉をしながらも口に運ぶ。

冷ますために口から空気を吸い、鼻から吐くことで香気が脳髄へと抜けていく。

熱せられたことにより主張が強まったかつお節が小憎い。


「ん~~~~!」


握り飯3つをぺろりと平らげ、最後に味噌汁をゆっくりと飲み干す。


「ふう……」


満足そうに何度も頷き、最後に両手を合わせて一言。


「ごちそうさまでした!」


その後、使った道具類と口の中を魔法で手早く洗浄し片付けると、重くなった腹を抱えて立ち上がる。

これから待ち受ける食材への期待に輝く瞳、もといアルカトラを目指す眼差しを進行方向に向け、再び歩き出すのであった。


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