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第17話 未来への一閃

「まさか、毛利も同じことを考えていたとはな」


「彼も大義名分が義元さんにあると知っていれば、こんなことはしなかったでしょう。タイミングが悪いとしか言いようがないです」


 毛利元就は家臣想いだったという逸話があったはず。状況を知っていれば、無駄な戦を避けたに違いない。


「その通り。可能ならば、血を流したくはないが……。もし、我らが負ければ、大義名分があろうと長宗我部、島津に大友が不満を抱くかもしれぬ」


 何が何でも勝たねばならない。理想的な未来のために。


「どう戦いますか? コンビニの商品、これしかありませんよ?」


 手元にあるのは胸ポケットにしまってあったライトとカレンダーだけ。これで、犠牲者を最小限に抑えられるのか?


「健、ライトは一つだけか?」


「ええ。一つでは点滅を使った連絡には使えません」


 義元は思考の海に深く沈んでいるらしい。俺がいることも忘れていそうだ。


「……そのライト、預からせてもらう」


「使い道を思いつきましたか?」


「まあな。時が来れば分かる」


 義元の目には強い意志が宿っているように見える。


「今回の戦は持久戦になる。毛利も名将だからな」


 あたりを風が吹き抜ける。それは、まるで戦の始まりを告げるかのようだった。





「毛利軍に動きが見られない。奴ら、何か企んでいるな」


「もしかして、夜戦に持ち込む気では?」


 知将の毛利元就なら、夜戦に持ち込み奇襲するという作戦を立てているかもしれない。こちらが高所に布陣していて毛利元就は不利なのだから。


「望むところだ。こちらにも策はある」


 義元はロープを一本、毛利陣を縦断するように仕掛けた。もちろん、敵陣を大きく迂回して。これが策なのか?


「我らに大義名分があるという情報を毛利陣に流し始めている。さすがに、それだけでは信じないだろうが。日も暮れてきた。そろそろ、戦を始めようではないか」


 義元は懐からライトを取り出すと、提げ紐をロープに通す。手を離れたライトは高さによって徐々にロープをくだっていく。そして、勢いづいたライトは凄まじい速度で毛利陣を縦断する。


 そうか! ライトをロープウェイのようにすることで、敵の目くらましをするのが狙いか!


「みなのもの、かかれ! 雷の如く攻めるのだ!」


 敵軍が混乱している今ならいける!


「もし、毛利を見つけたなら、捕らえるだけにとどめよ」


 そう言うと義元も刀を持ち、駆け出す。


 大将自ら出陣すれば士気が高まる。いや、それだけじゃない。おそらく、この戦にかける想いがそうさせるのだろう。





「ここが毛利軍の本陣のはずだが……」


 敵陣を突っ切ったものの、陣地の幕の中には人の気配がない。


 まさか、逃げ出したのか? あの毛利元就が?


「ふ、その程度か。がっかりしたぞ、今川!」


 次の瞬間、幕が取り払われると、そこには毛利元就と敵兵の姿があった。


 陣に乗り込まれることを予想して、潜伏していたのか!


「上洛の邪魔をしたんだ。それなりの覚悟はあるんだろうな、今川よ」


「毛利さん、違うんです。先に義元さんが上洛していたんです!」


「小童は黙ってろ。偽の情報に惑わされるほど間抜けではない」


 くそ、何とかして信じさせることはできないのか?


「毛利よ、情報は偽りではない。これこそが証拠だ」


 義元は「勅命」と書かれた書状を見せつける。


 いつの間に!?


「勅命……? まさか、天皇陛下がお前を征夷大将軍として認めたのか?」


「その通りよ。今回の戦は勅命を知らなかったのだから無理もない。だが、このまま交戦すれば逆賊になってしまうぞ」


 毛利元就の自信が揺らぐ。


「今だ、かかれ!」


 一瞬の隙をつき、兵が毛利元就を地面に押しつける。


「抵抗するな。命を奪うつもりはない」


 毛利元就は「東国で一人も殺さなかったから、説得力があるな」とつぶやくと、大人しくなる。


「油断したところを奇襲する。危うく策にはまり、命を落とすところだった。毛利よ、敵ながらあっぱれ」


「それは、こちらのセリフだ。その書状、偽物だろう? 短時間で勅命を得るのは困難。隙をつくるために用意した。違うか?」


 まさか、ブラフだったのか!?


「そこまでお見通しか。その知力、我がこの国を治めるのに活かしたい」


 義元は手を伸ばすと、毛利元就を立ち上がらせる。


「ふふ、よかろう。力を貸すことを誓う」


 夕日が二人を照らし出す。


「殿! 一大事です! 明智が都にて挙兵いたしました!」


 明智光秀が挙兵……?


「毛利よ、この場は任せた。我は急ぎ都に戻る!」


 明智光秀は何のために挙兵したのか。それを確かめなくてはならない。今度こそ、戦国の世を終わらせるために。

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