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第10話 初めてのお仕事

 翌日。朝食をとりながら、俺とララは今日の予定を話していた。

「大将、昨日は気持ち良かったですね!」

(ブーッ!)

 思わず水を吹き出してしまった。

「な、何言ってんだ⁉」


「はぇ? ベッドがフカフカで気持ち良かったですねって話ですよ?」

「へ? あ、そうか、そうだったな。あは、あははは」

(ハァ〜。朝から変に疲れるわ〜。ララの天然爆弾発言、少しは慣れないと……)


「ララ、今日はギルドで依頼を受けてみようと思う。ベリアさんとも約束したしな」

「はいです! 大将ならどんな依頼もチョチョイのチョイです!」

「いやいや、俺まだ駆け出し冒険者だから。なんにもできないよ」

「大丈夫です! ララもお手伝いしますです!」

「うん、ありがと」



 朝食を終え、俺たちはギルドへと向かった。

 朝からギルドは人で賑わっていた。人混みをかき分け、昨日ベリアさんに教えられた依頼掲示板の前へと辿り着いた。

「結構いろいろな依頼があるんだなぁ。雑草除去に側溝清掃、引越しの手伝いまで……冒険者って、いわゆる便利屋的なもんなのか?」


「です。冒険者さんは、この街で色んななお仕事をしてくれているです。大将には……コレなんかどうでしょう?」

 ララが指差した依頼書には『コボルトの集落殲滅』と書かれていた。

「コボルトって……魔物だよな?」


「そうです。正確には魔獣、ですね。野犬が魔物化した奴らだそうです。凶暴な性格をしているので、群れで襲われると大変危険です」

「じゃあ、ダメじゃん。危険じゃん」

「大丈夫です! 大将ならチョチョイです♪」


「チョチョイと襲われて喰われる、の間違いだろ」

「ダークウルフを真っ二つにした大将なら、コボルトなんて朝飯前です! あっ、朝ごはんもう食べちゃったですね」

「そこはどーでもいいわ! むしろ俺らが朝飯にされるわ!」


 そんな会話をしていると、ベリアさんがこちらに気づき、咳払いした。

「んんっ! ギルド内ではご静粛にお願いします」

「あ、すんません……」

「おはようございます。桃太郎さんとララさん、でしたね」


「おはようございます、ベリアさん。約束通り、依頼を見に来たのですが、どれを受注したらいいか迷ってまして……」

「そんなことだと思いました。声を掛けて下されば、アドバイスできましたのに」


「手間をかけるのも悪いかと思いまして……。初心者でもできそうな依頼、あったりしますか?」

「気を遣わなくても、それが私の仕事ですから。では、初めての依頼ということで、これなどはいかがでしょう?」


 ベリアさんが、掲示板から一枚の依頼書を剥がし、俺に渡してくれた。薬草採取の依頼だった。

「なるほど、初心者にはちょうど良さそうですね」

「この辺りの地理を覚えるのにも役立ちますし、危険な場所へ行く必要もありませんから」


「ララ、薬草見つけるの得意です!」

「へぇ。そんな特技があったのか」

「はいです! お小遣い稼ぎに、よく森や草むらで採ってるです!」

「じゃあ、昨日会った時も薬草探してたのか?」


 そう尋ねると、ララはモジモジしながら「いえ……違いますです」と小さく答えた。

「じゃあ、あんなとこで何してたんだ?」

「えっと……そのぉ……。お腹が空いていたので、小鳥さんでも狩って食べようかと……」

(ワァオ! なんて野生的……。ん? 待てよ。昨日小鳥たちが急に飛び立ったのって、もしかしてダークウルフじゃなく、ララの……? いや、詮索はやめとこう)


「と、とにかく! ララの薬草採取の特技も活かせるし、俺もこの辺りを散策するのにもちょうど良さそうだし、この依頼を受けようか」

「はいです、大将!」

「かしこまりました。では、あちらのカウンターで手続きを行いますね」


 俺たちは受付で正式に初仕事を受理した。

「これで手続き終了です。依頼が完了しましたら、またこちらへお越しください。……あ、そうそう。最近、西の森で魔物の発生報告が増えています。南側は安全ですが、西の森の奥には絶対に入らないように! 万が一、魔物に遭遇したら、討伐よりも命を守ることを優先してくださいね!」

(なんか最後に不安なことを言われたが、危ない場所に行かなければ大丈夫だろう……)


 依頼された薬草は、リコリスとプエラリア。イーリス様の加護によって、日本でいう甘草かんぞう葛根かっこんだと理解できた。

 葛根と聞いて、ふと母のことを思い出す。風邪を引いたとき、よく葛湯くずゆを作ってくれたっけか。この世界でも、そんな使われ方するのかな?

 なんにせよ、馴染みのあるものが目的物なのはありがたい。ララの腕前も、お手並み拝見ってとこだ。


「じゃあ、安全だって言ってた南側へ——」

「薬草は西側の森にたくさんあるです! そこに行きましょう!」

(えっ⁉ ララさん、話聞いてた? そっちは危ないからダメだよ〜って、さっきベリアさん言ってたよね⁉)

「ララ、西側は絶対行っちゃダメってベリアさんが——」

「大丈夫です! ララは逃げ足なら誰にも負けませんし、大将は強いですから!」


(あぁ……そんなキラッキラの目で俺を見ないで〜。怖いからそっちには行きたくないって言えなくなるよぅ)

「さぁー、西の森へ薬草伐採に行きましょー!」

(採取な。伐採って、森ごと刈り取るつもりですか、お嬢さん?)


「やっぱり初めは南側へ——」と言いかけた俺の手を、ララはがっしり掴む。そしてそのまま、全速力で駆け出した。

 俺は抗う余地もなく、ほとんど宙を舞いながら引っ張られていくのだった。



 ララのおかげで、爆速で西側の森の前へと辿り着いた。

 だが、俺の体力は既に尽きかけていた。あんな速さで走ったことがなかったのでね……。

「ララ……ハァハァ……、速すぎる……っ! 走るの……はぁ、もう限界……」

「大将、どうしたです? お水飲むですか?」

「ハァハァ……あ、ありがとう。もらう……」


 水筒を受け取って、一気に飲み干す。

「くぅ〜、冷たくてうめぇ!」

「テソーロは水がたくさんある街です! お水もバーニョも有名なのです!」

「へぇ。水資源が豊富なのは有難いことだね。この水があれば、美味いもんも作れそうだ」

「大将、お料理できるですか?」


「料理ってほどじゃないけど、親が店やってたから手伝いはしてたよ。だからある程度なら」

「すごいです! ララ、大将の手料理食べてみたいです!」

「そうだな。依頼が終わったら、宿でなんか作ってみるか」

「そうとなれば、ちょっぱやで依頼を終わらせなきゃですね! もっと奥に行けば、たくさん生えてる場所があるです!」


(奥ぅ~⁉ ちょ、待っ——奥は危ないって言われたばっかだよ⁉ だからここら辺で……って、やっぱダメかぁぁぁーーー‼)

 案の定、俺はララに腕を引っ張られ、再び爆走させられる。うん、予想通りの展開だ。

 そんでもってこのあと、魔物に遭遇しちゃう未来しか見えないのが嫌になるぜ……。

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