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第12話 ティガとの出逢い

「ガ……ガルルルァー⁉(な……なんじゃこりゃー⁉)」

 さっきまでの激痛が、嘘みたいに消えたようだ。戸惑うのも無理はない。

 正直、ここまで効くとは思ってなかった……さすがイーリス様と言ったところか。 


 でも、これがオマケとかヤバくね⁉ もう何本かもらっておくべきだったかも……。

「怪我、治ってきたみたいだな。よかった。これ、食えるか?」


 俺は無意識のうちに、アイテムボックスからきびだんごを取り出して魔獣に差し出していた。

「ガ……ガルルルゥ? ガルッ!(え……くれるんすか? 助かるっす!)」


 魔獣はきびだんごを一口で平らげた。慌てて食ったもんだから、案の定、喉に詰まってゲホゲホ咳き込んでいる。ララが慌てて背中をさすってやっていた。

「魔獣さん、大丈夫ですか⁉」


「ゲホッゲホッ。ふぅ~助かった。てか、なんだよこの食いもん……めっちゃウメェじゃねーか!」

「は……はひょー‼」


 昨日ぶりに、ララの奇天烈な叫び声を聞いた。

 けど俺には、彼女が何に突然驚いたのか、まるで見当がつかなかった。

「ララ、急にどうしたんだ?」


「ま……魔獣さんが……喋ってる⁉」

 俺には加護の力によって、先ほどからこの魔獣の言っていることが分かっていた。

 その力がないララには、当然魔獣の言葉は分からない……はずだが?


「助けてくれてありがとっす。恩に着るっす」

 魔獣が丁寧に頭を下げて礼を言ってきた瞬間、今度は俺が驚かされる。

 え⁉︎ なんか、めっちゃ礼儀正しいんだけど!


「あのさ……。魔獣って、もっとこう……ガオー! とか、グワーッ! とか言って、暴れ回っちゃう系かと思ってたんだけど……」


「なんすか、その偏見? あ、おいらティガって言うっす。人間どもは、おいらたちのことを魔物とか魔獣とかと呼びやすが、決してそんな物騒な連中じゃないっすよ。基本的には人を襲ったりはしねぇっす。たまに向こうから襲いかかってきやがるもんで、そん時は容赦なくボコボコにしてやるっすけどね! あははは!」


「ティガか、初めまして。俺は桃太郎、よろしくな。怪我の具合はどうだ?」

 俺が様子を聞くと、ティガはピョンピョンと軽快に跳ねてみせた。痛みはまったくないらしい。


 マジですげぇな、エリクサー……。あんな傷だらけだったのに、もう完全回復してる。

「本当にありがとうっす、桃の旦那!」


 ティガとの会話を、横で見ていたララが、俺の袖をちチョイチョイっと引っ張ってきた。

「ねぇ大将……なんでなんです?」


「なんでって、何が?」

「いやその~……なんで魔獣さんと普通にお喋りしてるんです?」

 その質問を聞き、ララの『はひょー』の意味をやっと理解した。


 何故だか分からないが、ララもティガの言葉が分かるようになっているのだ。

「ララ、ティガの言葉が分かるようになったの、いつからだ?」

「えっと……怪我して倒れてた時は『ガルル~』だったのが、元気になってから……普通にお喋りし出したような……」


 エリクサーの効果? いや、きびだんごか……? うーん、どっちかと言うと、きびだんごっぽいなぁ〜。ちょっと試してみるか。

「なぁ、ララ。あの木の枝に止まって鳴いてる鳥、なんて言ってるか分かるか?」


「チュンチュン言ってますけど、なに言ってるかは分からないです」

「ティガはどうだ?」

「いやー、他の種族の言葉は分からないっすね……って、待って待って⁉ なんでおいら人間と普通に喋ってんすか⁉」


 いまさら〜。

 やはり、どんな生物とも会話できるのは俺だけのようだ。

 となると……俺がきびだんごを与えた相手同士なら、種族を越えて会話できるようになるって可能性が一番高いな……。


 改めて思うが、母ちゃんのきびだんご、スゴすぎだろ!

「どうやら、俺がきびだんごを与えた者同士は、喋れるようになるっぽい。理由は分からないけどね」


 大事な部分は秘密にしながらも、二人に事情を説明すると、拍子抜けするほどすんなり受け入れてくれた。

 気づけばララとティガは、とても楽しそうに言葉を交わし、手を取り合いながら談笑している。


「桃の旦那、おいらも旦那に付いて行っちゃあダメっすか?」

「ティガたちコボルトは、群れを作って暮らしてるって聞いたけど、他の仲間はどうしたんだ?」

「それが——」


 ティガの話を要約すると、群れの長の娘に手を出そうとしたのがバレてしまい、長と、その手下にボッコボコにされた上、集落を追放されたらしい。

 ……自業自得だな。


「なぜ、そんなことをしたんだ?」と尋ねると、ティガは「あの娘が、おいらに色目使ってきたんで、つい……ね?」などとほざいていた。

 はぁ~、なんとも情けない話だ。


 そう思ったが、自分の過去が脳裏をよぎる。 

 待てよ……俺も似たようなもんじゃないのか……と。

 鬼退治なんてやりたくなかった俺は、族長の娘にほだされ、鼻息荒く意気揚々と鬼退治に出立。結果、呆気なく鬼に喰われて今に至る……。


 一体、ティガと何が違うと言うんだ……いや、全然違わねぇ! こんな事実、言えるわけねぇ~!

「ま、まぁ〜、男なんてそんなもんだよなぁ~、あははは~」


 自分で言って惨めになった。すると——

「男って最低ですね」

(グファッ‼)

 ララの口撃は、痛恨の一撃となり、俺の心をエグった!


「そ、そうだぞ、ティガ。勝手に他人の大事なものに手を出しちゃダメなんだからな!」

「うわぁ〜、大将……。女性を『もの』扱いするとか、ドン引きです……」

(プギャー‼)


 その言葉が、トドメの一撃となった!

 もう無理……俺もエリクサー、飲んでいいっすか?

「そ、そうだねララ。ごめん、言い方が悪かったよ。濫りに女性に唾を付けたらいけないんだよ、ティガ君」


「おいらはメスに唾なんか付けねぇっすよ。旦那……見かけによらず、下衆野郎っすね?」

(ンァベシッ‼)


 もう、何も言うまいて……。何を言っても墓穴を掘るだけだ……。今は墓穴なんか掘っている場合じゃないんだ。俺は薬草採取に必要な穴が掘りたいんだよっ!

 ——って、あぁそうだった!!


 ここで、当初の目的を遅まきながらも思い出した。

「そうだ、そうだった。薬草だよ、薬草! 早く薬草を伐採……じゃなくて、採取して帰ろ。俺はなんだか疲れたよ(主に精神的に)」


「でも大将、パーラがないと土が掘れないって——」

「ん? お二人は、穴掘りしたいんっすか?」

「ああ、向こうにある薬草を採りたいんだけど、道具がなくてさ……」

「だったら、おいらのスキルの出番っすね!」


 スキルという聞き慣れない言葉を耳にし、何のことかと質問する。

「なぁ、ティガ。スキルって何?」

「旦那、スキル知らないんすか? スキルってのは、生まれつき神様から一つだけ与えられる特別な力のことっす。たまに二つ持ってる奴もいるみたいですが、そいつぁ王様とか特別な存在っすね。おいらのスキルはズバリ『穴掘り』っす!」


 ティガの説明はとても分かり易かった。

 神というのは、イーリス様のような存在なのだろうか?

 そして、スキルは一人一つなのか——


 いや、俺三つ持ってね⁉ 絶対黙っておこう……。

「ティガ、説明ありがとう。君は穴掘りが得意ってことだね」

「その通りっす! あの時も、長の家の裏から穴を掘って侵入したっす!」


 ……うん、その情報要らなかったね。だって、それ失敗したんでしょ?

「そ、そっかぁ。じゃあさ、ちょっとこっちに来て、リコリスとプラナリアの根っこを採るのを手伝ってくれないかな?」

「任せてくださいっす!」



 先ほど見つけた薬草の群生地に戻ると、ティガに根を傷つけないように、慎重に土を掘り起こしてもらった。

「こんな感じでどうっすか、旦那?」

「おぉ~、スキルってすごいな!」


 ティガは、指示通り全く根を傷つけることなく、周囲を掘り起こしてくれた。

 リコリスとプラナリアの根が剥き出しになったので、俺はそれを刈る準備をすべく、二人から少し距離を取った。金光と交信する為だ。


「あの~、金光さん……聞こえますか?」

『アァ。ドウシタ?』

「土堀りはアレですが……薬草の根を切るのは、大丈夫……でしょうか?」


『……ソレクライハモンダイナイ。スキニツカエ』

「ありがとうございます!」

『キルコトイガイニ、ワレヲツカウコトハ、コンゴモユルサンゾ』


「畏まりましたっ!!」

 少し離れた場所で、頭をペコペコ下げている俺を見て、不思議そうな顔でララが近づき「大将、どうしました?」と質問してきた。

 俺は「何でもないよー」とだけ応え、金光片手に薬草採取に取りかかった。

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