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第13話 共存の道

 ティガの活躍と金光の素晴らしい切れ味のおかげで、大量のリコリスとプラナリアを採取することができた。

 ララとティガは、これだけの量の薬草をどうやって街に運ぼうかと頭を悩ませている。

 そこで、俺は思いきってアイテムボックスの存在を明かすことにした。本来なら隠しておくべきかもしれないが、信頼すべき仲間にはきちんと伝えておくべきだと判断したのだ。


 ララが以前、アイテムボックスを盗もうとして謎の力で引き戻された件についても話した。

その時のことを思い出したのか、ララは恥ずかしそうにお尻をさすっていた。

 無事に薬草をすべてアイテムボックスに収納し、俺たちは街への帰路につくことになった。


「じゃあ、依頼達成ということで、テソーロに戻ろうか」

「旦那、それなんすけど……」

「どうした、ティガ?」

「おいら、人間どもからは嫌われてる存在っすよね? おいらが街に入ったら、大騒ぎになるんじゃないかと……」


 言われてみれば、たしかにその通りだ。コボルトは人々から魔獣と見なされ、討伐対象になっているくらいだ。いくら俺とララが意思疎通できるとはいえ、それはただの例外……。

「おいらは森で野宿してるっすから、旦那と姐さんは気にせず街に戻ってくださいっす」

「うーん、今はそうするしかないか。……なぁ、ティガ。コボルトって、本来は人間に敵意ないんだよな?」


「そうっすね」

「だったらさ、ギルドに掛け合ってみて、討伐とか物騒なこと止めてもらえるように説得できないのかな? ララはどう思う?」

「人間がコボルトさんを襲わなければ、争いは起きないです。お話し合いで解決するのが一番です!」


「だよな。俺もそう思う。共存できる道を模索するってのもありか……。というか、そうしたい!」

「旦那……。やっぱ、おいらは旦那に一生ついていくっす! 助けてもらった時からそう決めてたっすけど、今の言葉を聞いて、もっと決意が固まったっす! どうか、おいらを使ってくださいっす!」


 そう言うとティガは、犬が服従を示すように腹を見せてごろんと横たわった。これがコボルト流の忠誠表現なのだろうか?

「あー、分かった分かった。さっきもティガのおかげで依頼を完遂できたんだ。もう俺たちは仲間だよ! ほら、立ってくれ」


 こうして、ティガは正式に仲間となった。

 ただ一つ、ララの方が明らかに年下のはずなんだが、一日仲間になるのが早かったというだけで、ティガが彼女を『姐さん』と呼んでいるのが少し気になる……。 

 でも、当人たちがそれを受け入れているようだし、まぁいいか。

 とにかく今は、俺とララだけでテソーロに戻ることにした。

 ティガは西の森に残り、明日また落ち合う約束をして、しばしの別れを告げた。



 街に戻った俺たちは、そのままギルドへ直行し、依頼の報告をすることにした。

「あ、桃太郎さんにララちゃん、お帰りなさい!」

「ただいま戻りました、ベリアさん。これ、依頼された薬草です」

「まぁ、とても綺麗な状態ですね! これなら依頼主さんもきっと喜びますわ」


「それはよかったです」

「今日は南の森に行かれたのですか?」

「あ、あ~、まぁそうですねぇ……」

「え? 大将、今日は西の——」


 俺は、イケナイことを口走ろうとしたララの口を手で塞いだ。

 西の森に行ったなんて言ったら、ベリアさんに大目玉を喰らうのは目に見えている。

「南門から出て、西の方に行ったんだよな、ララ~」

「ん~? そうでしたっけ?」

「ラ、ララはちょっと方向音痴なのかなぁ~。あははは~」


「とにかく、依頼は無事に達成されましたので、こちらが報酬です。ここにサインをお願いします」

 ベリアさんから少し疑いの目を向けられたが、俺は平然を装いながら受領書に名前を記入し、報酬を受け取った。

 記念すべき初仕事の報酬は、一万ガルだった。


「ありがとうございました。あの、ベリアさん。ちょっとお聞きしてもいいですか?」

「ええ、もちろん。何でしょう?」

「魔獣……というのは、どういった存在なんでしょうか?」

「魔獣というのは、魔物とは違い、ある程度の知性と社会性を持った異種族のことを指します。群れを作り、仲間同士で生活する傾向があるようですが、詳しい生態は謎に包まれていますね」


「どうして詳しく分かっていないのですか?」

「やはり危険だからでしょう。魔物ほどではないにせよ、魔獣も凶暴です。命を懸けてまで調べようとする者は、そう多くありませんからね」

「なるほど……。そういえば、掲示板にコボルトの討伐依頼がありましたが、あれはなぜなんです?」


「今朝も少し触れましたが、西側での魔物発生が増えているんです。コボルトも、人間からすれば脅威と見なされますので……ギルドとしては、リスクを取り除きたいという判断ですね」

「でも、コボルトから人間を襲ってくるわけではないのでは?」


「どうなんでしょう。ただ、毎年のように冒険者がコボルトに襲われたという報告が発生している、というのは事実です」

(偶然出くわしてしまって、意思疎通もできないまま戦闘になってしまったんだろうな。きっと、今後も同じように無用な争いが起こってしまうよなぁ)


「……ベリアさん。そのコボルト討伐依頼、俺が受けることはできますか?」

「えっ、正気ですか⁉」

「いや、普通のやり方とは違うかもしれませんが、俺なりの考えがありまして」


「はぁ……。でも、桃太郎さんは冒険者としてまだ新人ですし——」

「無理はしません。命を最優先にします。ちょっと試したいことがあって……それが無理だと判断したら、すぐ撤退します。なので、受けさせてください!」

「ララからもお願いしますです!」


 二人して頭を下げると、ベリアさんはため息混じりに言う。

「分かりました……。必ず、必ず無事に戻ってくることを約束してください! その上で、今回は特別に受理します」

「あ、ありがとうございますっ!」


 ベリアさんは渋々といった様子で、依頼書を掲示板から剥がし、受理手続きを進めてくれた。

「では、これで桃太郎さんのコボルト討伐依頼の受理完了です。……どうか、お気をつけて!」

 その言葉に、俺は「はい!」と大きく返事をし、ギルドを後にした。

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