目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第33話 チョンってすなよ

 水を飲み干し、火照った体が落ち着いたところで、団子作りを再開した。

「なかなか難しいなぁ。太郎、もう一回だ!」

「はい、お願いします! ……あっ、そうだ、忘れてた!」

「ん? 何をだい?」


「試してみたかった材料がもう一つあったんです。これも加えてみてください」

 俺は、いつか使おうと思って持っていた葛粉を取り出した。

「この白い粉はなんだい?」

「葛粉です。リコリスの根から取れるデンプンで、これを入れると、いい感じのとろみが出ると思います」


「デンプン……なるほど、スターチってやつか。ああ、わかった! これで粘り気を出そうってわけだな?」

「その通りです、さすがチャットさん!」


「にしても、大事な材料のことを忘れてるなんて、太郎は本当におっちょこちょいだな~、あははは」

 チャットさんは笑いながら、また俺の額をチョンとつついてきた。

(……だから、チョンってすなってば~)


 葛粉を加えて、何度か試作を繰り返すうちに、ついに理想の粘り気にたどり着いた。

「おおっ、太郎! 今までで一番それらしくなったんじゃないか⁉」

「ですね! 鍋を火から下してください」


「オーケー。う~ん、ほのかに甘くていい香りがするな。次はどうしたらいい?」

「まな板にアロス粉をふってください」

「……あぁ、打ち粉ってやつだな。生地がくっつかないようにするための粉だね」

「さすがは料理長! 若くしてその腕前ありって感じですね!」


「なんだよ太郎~、そんなに褒めても何も出ねえーぜ? おっ、そうだ! これが終わったら、とっておきのワインがあるから、それで最高のサングリアを振る舞ってやるよ!」


 頭の自動翻訳機能が、ワイン=果実酒と教えてくれた。

「ワインって……お酒ってことですよね。俺、まだ十七なんですけど」

「うん、それがどうした?」

「いや、どうしたって……まだ二十歳になってないから、お酒は——」


「テソーロじゃ、十六になったらみんな酒を飲んでいいんだぜ、兄弟! ってことで決まり! 美味い団子が完成したら、最高のサングリアで乾杯しよう!」

「は、はい! (郷に入っては郷に従え……だな)」



 粗熱が取れて、手で触れられるくらいの温度になったところで、いよいよ俺の出番だ。

得意中の得意——団子を丸める作業だ!

「チャットさん、ちょっと見ててください。この作業には自信があるんです!」


「どれどれ、お手並み拝見といこうか!」

 生地を一口サイズに切り分け、手のひらで優しく転がし、きれいに丸く整えていく。

「おぉ~、上手いもんだな太郎! 僕にもやらせてくれよ」


「はい、どうぞ!」

 初めての団子の成形に挑戦するチャットさんだったが——

「こ、こんな感じか……? あれ、意外と難しいな……」

柔らかくてつるつるした生地に、かなり手こずっているようだ。


「手は『ニャンコの手』にしてください。こう、軽く丸める感じで……」

「なるほど、こうか! うーん、思ったより繊細なんだな……。なぁ太郎。ちょっと俺の後ろに来て、手取り足取り教えてくれないか?」

(は、はふぁ〜⁉ て、手取り足取り……⁉)


「どうした、太郎? 早くしないと固くなっちゃうぞ?」

「えっ、あ、そ、そうですね! じゃ、じゃあ……お邪魔します——」

背後からそっと手を添え、チャットさんの手を包み込む。

「こう、力を抜いて優しく……はい、いい感じです!」


「おぉ〜、ほんとだ。これならうまくできそうだ。ありがとな、太郎!」

「い、いえいえ……」

礼を言われただけなのに、なぜか顔が熱くなる。

「あれ? 太郎、また顔が赤くなってきて——」

「だだだ、大丈夫です! 全然、全く! ささ、続けましょう!」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?