アビフ様一行は今夜、集落へ戻ることになった。
「儂らは作戦の日に備えて、一度集落に戻ることにする。人族を迎える準備もあるしのぉ」
「助かるぜ、アビフ殿。まぁ、屋敷にずっと幽閉しておくわけにもいかねぇしな」
「ここの居心地は最高なんじゃがな。何といっても……あのコレクション!」
「だろぉ!」
盛り上がってきた二人に、アテナさんが咳払いをする。
「んんっ! お二人とも、ご静粛に」
「お、おう……」
「……すまん」
バツが悪そうにしながら、アビフ様が話を本題に戻す。
「な、なにか、こちらで用意しておくべきものはあるか?」
「お気遣い感謝しますが、雨風をしのげる寝床があれば、それだけで十分ですぞ!」
「では、簡易にはなるが、宿舎を急ぎ用意しておこう」
「ありがとうございます!」
アビフ様は、ふとティガに視線を向けた。
「おい、ティガはどうする?」
「どうするっ……て? おいらは追い出された身、ですから……」
「どうせ、行くあてなどないのじゃろ?」
「いやまぁ、そうっすけど……。でも、テソーロで旦那にお世話になり続けるのもアレっすよね~」
アビフ様は腕を組んで、ぼそりと呟く。
「……なら、帰るぞ」
「へ? どこへっすか?」
「お前の帰る場所など、集落以外にどこがある?」
「ええっ⁉︎ い、いいんすか⁉︎」
「ここまで事が進んだのも、お前の働きが少なからずあった。……それで、お咎めなしとしてやる」
「マジっすか⁉︎ あっ、ありがとうございますっ!」
照れ隠しのようにそっぽを向いたアビフ様の頬は、ほんのり赤くなっていた。
「ふん、礼なら桃太郎君に言いなさい」
「はい、そうするっす!」
嬉しそうに答えたティガに、アビフ様がふと真顔で問いかけた。
「ところで今さらじゃが、なぜあんな馬鹿な真似をしたんじゃ?」
「なぜって……あの日の夕方、アテナさんが俺に向かって、ニャンコのポーズでウインクしてきたんすよ! それで、てっきり誘われてるのかと……ね、アテナさん⁉︎」
「そうなのか、アテナ?」
「えぇっ⁉︎ わ、私、そんな恥ずかしいことするわけないじゃないですか!」
「えーっ、マジっすか!? あの日ですよ、風がビューッて吹いたときっす! 覚えてないっすか?」
「……ああ、確かにあのときティガさん近くにいましたね。風で目にゴミが入って……顔をこうして——」
「それっす! そのポーズっすよ! いやぁ~やっぱ可愛いっすね〜アテナさんは! またそれを見れるなんて幸せだなぁ〜」
「ティガ……やはりお前は永久追放だ」
「えっー⁉︎ なんでっすかぁ~⁉︎」
広間には、皆の明るい笑い声が響いた。