夕食もご馳走になることになり、俺は広間へと戻った。
チャットさんによると、今夜は『フルコース』とやらを振る舞ってくれるらしい。一体どんな料理が出てくるのか、期待で胸が高鳴る。
広間の扉を開けると、皆すでに席についていた。どうやら、最後になってしまったようだ。
「ただいま戻りました」
「おぉ、桃くん。遅かったな。食事の準備はもう整っておるぞ」
「遅れてすみません。ちょっと、だんご作りに手こずりまして」
「やはり、慣れない場所では勝手が違ったか」
「いえ、それでも何とか……それなりには仕上がったと思います! ……まぁ、ほとんどチャットさんの助けがあってこそですけどね」
「アイツは器用で、頭も切れるし、ついでに顔もいい。うちの自慢の料理長だ!」
「ですよね! 本当にそう思います!」
「お、おう……」
チャットさんへの賛辞に共感しすぎて、つい前のめりになってしまった。ガストンさんに、ちょっと引かれた……かもしれない。
「ねぇ大将、なんかいいことでもあったですか?」
「え? どうして?」
「さっきから、ずーっとニヤニヤしてるです」
(……おっーといけねぇ。チャットさんとのだんご作りがめちゃくちゃ楽しかったもんで、顔が緩みっぱなしだったわ。引き締めないと……)
「お、美味しいだんごができたから、あとでみんなに食べてもらうのが楽しみだなぁ~って思って……ね!」
「ホントですか⁉ 大将の手料理、早く食べたいです~! 食べ物ないのに、お皿ばっかり並んでるの邪魔なんで、さっさとどかしておだんご食べましょー‼」
その言葉に、隣にいたレイラさんがピクリと眉を上げた。ララに鋭い視線を向ける。
「ララ様。そのような言葉遣いは、いかがなものかと存じます。さきほど、礼儀作法についてお勉強したばかりでしょう? それに……姿勢!」
ララはビクッとして、慌てて背筋を伸ばした。
「はっ、はいです! も、申し訳ございません……であります」
ぎこちない敬語で謝るララの姿に、つい吹き出してしまった。
「レイラさん、ご指導ありがとうございます。……ところで、なんでこんなにたくさん食器が並んでるんですか?」
「フルコースとは、前菜・スープ・魚料理・ソルベ・肉料理・デザートという順にお出しするコース料理でございます。それぞれの料理に合ったカトラリーをご使用いただきますので、このように多くなるのです。使用する順番も決まっておりますので、後ほどご説明いたします」
「むむぅ……なんか、面倒くさいです……」
「んんっ! お口を慎み下さい、ララ様!」
「は、はいですっ!」
またもや背筋をピーンと伸ばすララだった。
(ララ、ごめん。怒られそうだから言えないけど……同感だよ、俺も!)