無事に、予定数量のきびだんごの複製が完成した俺たちは、つかの間の休息を取っていた。
ガストンさんが「一服にはこれが一番だ」と勧めてきたのが、コーヒーという飲み物だった。
俺も飲んでみたのだが……なんだ⁉ この苦いだけの黒い液体は……。苦すぎて飲めたもんじゃない。
「まだまだ若造の桃くんには、ただの苦い水かもな。けど、大人になると、この苦さがたまらなくなるんだよな~。なっはっはー!」
本当に、そんな日が来るのだろうか? そう思いつつ、もう一口啜ってみる——やっぱり苦いだけだった。
そうこうしていると、レイラさんがやってきて、ガストンさんを呼びに来た。
そろそろ懇親会が始まるということで、冒険者たちの出迎え準備をするようにとのことだった。
俺もそろそろ、ララを起こしにいこう。
懇親会は、大広間で開かれた。
四つの大きな机が並べられ、その上には彩り豊かな料理が所狭しと並んでいる。
ただ、不自然に何も置かれていない空白部分が、それぞれの机にある。
不思議に思ったが、バイキングとは、このように配置するのが形式なのだろうと考え、あまり気には止めないでおくことにした。
目の前の美味しそうな料理の数々に、ララの口から、『じゅるり』という生唾を飲む音が聞こえてきた。絶対まだ食べちゃだめだかんなー!
参加者は、緊急クエストで招集された冒険者四十三名と、ギルドから派遣された救護係の二名を加えた、総勢四十五名。
全員が揃ったところで、ガストンさんが挨拶に立った。
「仲間同士の絆を深めるために懇親会を開かせてもらった。料理はどれも一級品だ。大いに楽しんでくれ。……と、その前に、紹介したい者がいる。この共闘作戦のリーダー、冒険者の桃太郎君だ!」
「……えっ⁉」
唐突に俺の名が呼ばれた。しかも、俺がこの作戦の……先導者(リーダー)だとぉ~⁉ 俺は慌ててガストンさんに詰め寄る。
「ちょ、ちょっと! 聞いてないですよ、そんな話! ど、どうするんですか⁉」
「細けぇことはいいから! ほれ、背筋伸ばして、バシッと挨拶してこい!」
そう言いながら、俺の背中を平手でバチンと叩く。
文字通り、背中を押された俺は、大広間の真ん中にポツンと放り出された。一斉に向けられる視線に、心臓が跳ねあがる。
「え……えっと~。お、俺は、桃太郎と、言います……」
緊張のあまり、声がいつものように出ない。それをからかうように、ヤジが飛んできた。
「おーい、ハエでも飛んでるのか~。せっかくの料理が台無しになっちまうぜ~」
数名の冒険者からの嘲笑が聞こえた。
すると、ララが俺の前に立ちふさがり、大声を張り上げた。
「いま大将のことを笑ったのはどいつですか⁉ ララがボッコボコにしてやります‼」
「お、おいララ! 落ち着いて」
怒ったララをなだめる。ララの目は、怒りの矛先を探し続けていた。
俺のために、ここまで感情を露わにしてくれるのは、とても嬉しかった。だがその反面、こんなことでララに庇われている自分が、とても情けなくも感じた。
このままじゃいけない……。
「んんっ。す、すみません。俺の仲間のララが取り乱しました。失礼いたしました。改めまして、俺は桃太郎と言います。この共闘作戦の……リ、リーダーをさせていただきます。よろしくおねがいします!」
これでよかっただろうかと、ちらりとガストンさんの顔を窺うと……にこっと笑って頷いてくれていた。
すると——
(パチ……パチパチパチ)
誰かが手を叩きはじめ、それがだんだんと広がっていく。
「よっ、期待してるぜ、兄ちゃん!」
「リーダー、頑張れよ!」
「心配すんなー。俺たちがついてるぜ!」
温かな拍手と声援が、大広間を包み込んだ。
拍手がやや落ち着いたころ、チャットさんが何かを抱えて会場に入ってきた。
「みなさま、今宵はお集まりいただきましてありがとうございます。ありがたいことに、僕の作るコレを、ご所望されている方がたくさんいらっしゃるということで、今日は特別にご用意させていただきました。ぜひ、お召し上がりください!」
運ばれてきたのは、円形の見慣れない料理だった。
「ねぇ、ララ? あれはなんだい?」
「あれは、ピッツァですね! 美味しそぉ~です~♪」
机の余白部に、ピッツァが次々と配膳されていく。なるほど、このために場所を開けていたのか!
チャットさんの特製ピッツァの登場に、冒険者たちからは、割れんばかりの拍手が轟いた。……俺のときよりも何倍も盛大な盛り上がり具合だな……はは。
「こ……これは、正しく、ピッツァチャットのマルガリータとフォルマッジョピッツァだ……。来てよかった……」
そう言って泣き出す者まで現れた。すごいな、チャットさん……‼
「さて、サプライズ料理も出揃ったところで、乾杯といこうか! んじゃ、クエストの成功を祈願して……かんぱーい‼」
「乾杯‼」