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第47話 サプライズ料理

 無事に、予定数量のきびだんごの複製が完成した俺たちは、つかの間の休息を取っていた。

 ガストンさんが「一服にはこれが一番だ」と勧めてきたのが、コーヒーという飲み物だった。


 俺も飲んでみたのだが……なんだ⁉ この苦いだけの黒い液体は……。苦すぎて飲めたもんじゃない。

「まだまだ若造の桃くんには、ただの苦い水かもな。けど、大人になると、この苦さがたまらなくなるんだよな~。なっはっはー!」


 本当に、そんな日が来るのだろうか? そう思いつつ、もう一口啜ってみる——やっぱり苦いだけだった。

 そうこうしていると、レイラさんがやってきて、ガストンさんを呼びに来た。


 そろそろ懇親会が始まるということで、冒険者たちの出迎え準備をするようにとのことだった。

 俺もそろそろ、ララを起こしにいこう。



 懇親会は、大広間で開かれた。

 四つの大きな机が並べられ、その上には彩り豊かな料理が所狭しと並んでいる。

 ただ、不自然に何も置かれていない空白部分が、それぞれの机にある。


 不思議に思ったが、バイキングとは、このように配置するのが形式なのだろうと考え、あまり気には止めないでおくことにした。

 目の前の美味しそうな料理の数々に、ララの口から、『じゅるり』という生唾を飲む音が聞こえてきた。絶対まだ食べちゃだめだかんなー!


 参加者は、緊急クエストで招集された冒険者四十三名と、ギルドから派遣された救護係の二名を加えた、総勢四十五名。

 全員が揃ったところで、ガストンさんが挨拶に立った。


「仲間同士の絆を深めるために懇親会を開かせてもらった。料理はどれも一級品だ。大いに楽しんでくれ。……と、その前に、紹介したい者がいる。この共闘作戦のリーダー、冒険者の桃太郎君だ!」


「……えっ⁉」

 唐突に俺の名が呼ばれた。しかも、俺がこの作戦の……先導者(リーダー)だとぉ~⁉ 俺は慌ててガストンさんに詰め寄る。


「ちょ、ちょっと! 聞いてないですよ、そんな話! ど、どうするんですか⁉」

「細けぇことはいいから! ほれ、背筋伸ばして、バシッと挨拶してこい!」

 そう言いながら、俺の背中を平手でバチンと叩く。


 文字通り、背中を押された俺は、大広間の真ん中にポツンと放り出された。一斉に向けられる視線に、心臓が跳ねあがる。

「え……えっと~。お、俺は、桃太郎と、言います……」


 緊張のあまり、声がいつものように出ない。それをからかうように、ヤジが飛んできた。

「おーい、ハエでも飛んでるのか~。せっかくの料理が台無しになっちまうぜ~」


 数名の冒険者からの嘲笑が聞こえた。

 すると、ララが俺の前に立ちふさがり、大声を張り上げた。

「いま大将のことを笑ったのはどいつですか⁉ ララがボッコボコにしてやります‼」


「お、おいララ! 落ち着いて」

 怒ったララをなだめる。ララの目は、怒りの矛先を探し続けていた。

 俺のために、ここまで感情を露わにしてくれるのは、とても嬉しかった。だがその反面、こんなことでララに庇われている自分が、とても情けなくも感じた。


 このままじゃいけない……。

「んんっ。す、すみません。俺の仲間のララが取り乱しました。失礼いたしました。改めまして、俺は桃太郎と言います。この共闘作戦の……リ、リーダーをさせていただきます。よろしくおねがいします!」


 これでよかっただろうかと、ちらりとガストンさんの顔を窺うと……にこっと笑って頷いてくれていた。

 すると——


(パチ……パチパチパチ)

 誰かが手を叩きはじめ、それがだんだんと広がっていく。

「よっ、期待してるぜ、兄ちゃん!」


「リーダー、頑張れよ!」

「心配すんなー。俺たちがついてるぜ!」

 温かな拍手と声援が、大広間を包み込んだ。


 拍手がやや落ち着いたころ、チャットさんが何かを抱えて会場に入ってきた。

「みなさま、今宵はお集まりいただきましてありがとうございます。ありがたいことに、僕の作るコレを、ご所望されている方がたくさんいらっしゃるということで、今日は特別にご用意させていただきました。ぜひ、お召し上がりください!」


 運ばれてきたのは、円形の見慣れない料理だった。

「ねぇ、ララ? あれはなんだい?」

「あれは、ピッツァですね! 美味しそぉ~です~♪」


 机の余白部に、ピッツァが次々と配膳されていく。なるほど、このために場所を開けていたのか!

 チャットさんの特製ピッツァの登場に、冒険者たちからは、割れんばかりの拍手が轟いた。……俺のときよりも何倍も盛大な盛り上がり具合だな……はは。


「こ……これは、正しく、ピッツァチャットのマルガリータとフォルマッジョピッツァだ……。来てよかった……」

 そう言って泣き出す者まで現れた。すごいな、チャットさん……‼


「さて、サプライズ料理も出揃ったところで、乾杯といこうか! んじゃ、クエストの成功を祈願して……かんぱーい‼」

「乾杯‼」


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