宴もたけなわとなった頃、ガストンさんがみなの注目を集めるために大きな声を上げた。
「おーい。盛り上がってるとこ悪いが、ちょっと聞いてくれ。今日のメーンイベントと言ってもいいもんをこれから配っていくぞー」
その言葉を合図に、俺とララ、チャットさんやレイラさんたちで手分けして、参加者たちに、
「みんな行き届いたか? これが、例の——きびだんご
初めて見る形状をした食べ物に、躊躇する人も散見された。
だが——
「なにコレ、美味し~い‼」
一人の女性冒険者がそう叫ぶと、場の空気が一気に変わった。途端に「うまっ!」「これ、もっと欲しいな」などの声が飛び交い、みなこぞってだんごを口に運び始めた。
ひとしきり食べ終えたところで、一人の男が声を上げる。
「なぁ、ギルマス。確かにうまかったけどよ、どうやってこのだんごの効果とやらを証明したんだ?」
彼は、名をフィンというらしい。見た目も言動も頼れる雰囲気をまとっている。
「そ、それはだな……」
なぜかガストンさんは、ヴェルディのことを言おうとしない。どうしたんだろうかと、小声で尋ねてみる。
「どうしたんです、ガストンさん? 俺がヴェルディ、連れてきましょうか?」
「やめとけやめとけ~。あいつをここに連れてきたら、こいつらの前で何言い出すか分かったもんじゃねぇ……。俺にも、ちったぁ面子ってもんがあんだよ。分かるだろ?」
言われて納得。ギルドマスターが、メイド長に日々の怠惰を叱られていることなど、冒険者たちに知られてはいけない。彼らも、ギルマスのそんな裏の顔、知りたくもないだろうしな……。
結局、ガストンさんはこの場で効果の証明はできないと謝罪した上で、意思疎通を深める意味も兼ね、作戦実行の前日にコボルトたちとの懇親会を開くことを提案した。参加者たちもこれに同意し、今日の宴は名残惜しくもお開きとなった。
共闘会議から九日後の朝。俺はギルドへと足を運んだ。
今日は、緊急クエストのために召集された冒険者たちと、救護係、そしてエスピアさん率いる近衛騎士団が顔をそろえる日だ。
今日までに、コボルト用のきびだんごもどきもしっかりと用意してある。
ちなみに、近衛騎士団の面々には、コボルト集落の視察から戻ってきた日に食べてもらっている。あとは、順調にことが運ぶことを祈るばかりだ。
ギルドに到着すると、ベリアさんがすぐに俺たちを見つけ、笑顔で出迎えてくれた。
「おはようございます、桃太郎さんにララちゃん。皆さんもうおそろいですよ。こちらへどうぞ」
案内された扉の先には、装備を整えた冒険者たちがずらりと並んでいた。部屋の隅には、黒装束のエスピアさん率いる近衛騎士団の姿も見える。——なんだか緊張してきた……。
俺の到着を確認すると、ガストンさんが声を上げた。
「よーし、全員そろったな! 改めて、集まってくれてありがとう。ギルドマスターとして、心から礼を言う」
一呼吸置いて、続ける。
「本来なら出発は明日の予定だったが、コボルトたちとの懇親会を開くため、一日前倒しで移動することにした。道中の案内は近衛騎士団のエスピアに任せたいと思う。エスピア、壇上へ!」
名を呼ばれたエスピアさんが前に出る。
「おはようございます。私は近衛騎士団団長、エスピアと申します。目的地であるコボルト集落へは、西の森を通って向かいます。道中では、熊や鹿などの野生動物に加え、いくつかの魔物の存在も確認されています。何か異常を感じた場合は、速やかに報告してください」
そのとき、フィンが手を挙げて質問した。
「その確認されたって魔物は、具体的には?」
「ファングボアが二頭、ホーンラビットが五羽、マッドラットが十匹ほどです」
「弱っちいのばっかだな。これだけの冒険者が揃ってりゃ、問題ないね!」
場のあちこちから、同じような余裕の笑みが浮かぶ。
実際、これだけの数がいれば、俺の出番は無いに等しいだろう。絶対この中で俺が一番弱いだろうしな。
エスピアさんが軽く咳払いし、話を続けた。
「んんっ……油断は禁物です。森の深部に入るにつれ、魔物の数は確実に増えています。今回は『掃討』が目的。くれぐれも油断なさらぬよう、お願いします」
そう言ってエスピアさんは一礼し、元の位置へと戻っていった。
「エスピアの言う通りだ。クエストは成功してナンボだが、俺としてはここにいる全員が、無事に戻ってくることを最優先としたい。……いいな⁉」
「おー‼」
全員の声が、ひとつに揃った。
いよいよ——人とコボルトの、未来をかけた大きな第一歩が始動する。