一方その頃、紅蓮の翼班では——
「おいおい、また来やがったぜ……。一体何匹いやがんだ」
ぼやきながら剣を構えるのは、紅蓮の翼のリーダー、ロイド・フェニーだ。
「さっきから切りがねぇな。マッドラットだらけじゃねぇか」
紅蓮の翼の一員である、キャシー・アルバが注意する。
「ロイド! 減らず口を閉じて、魔物の数を減らすことに集中して!」
「あぁん⁉ っせぇなぁ、キャシーはよぉ。マッドラットくらい、お前らで片付けられるだろーが」
彼の自慢の剣『フランヴェルジュ』を地面に突き刺し、余裕をかますロイド。
だが突然、彼の背中に何かがぶつかってきた。
「ぐはぁっ!」
ぶつかってきたのは、コボルト族のハデスだった。
「ボケっとしてんじゃねぇ、若造!」
ロイドの背後から飛びかかってきたマッドラットを、ハデスは寸前で仕留めていた。
「す……すまねぇ。助かった」
「だから言ったでしょ、ロイド! ハデスさん助かったわ、ありがとう」
「礼を言ってる暇があるなら、一匹でも多く片付けろ。行くぞ!」
「お、おうよ!」
同じ頃——
ベアファングの動きは、衰えることなく猛威を振り続けていた。
「はぁはぁ……。大丈夫か、サラ⁉」
「そういうフィンこそ平気? だいぶ息が上がってるけど!」
「クソッ……こいつ、前に戦ったベアファングより格段に強いぞ……!」
フィンたちが、ベアファングを倒しあぐねていると——
『グォォォォォン‼』
突如、ベアファングが悲鳴のような咆哮を上げた。
何事かと様子を窺うと……ベアファングに向けて、大小様々な岩や石が雨のように降り注いでいる。
先ほど深手を負って倒れていたはずのコボルトたちが、立ち上がり、休むことなく投石を続けていたのだ。
「よし、今がチャンスだ! 一気に距離を詰めるぞ!」
フィンの声が響く。
その号令に呼応するように、仲間たちが攻撃に転じる。後方で待機していたガストンの拳と、アビフの蹴りが、ベアファングの背へ一撃を加える。
「よっしゃー! う、うぉーーー⁉」
「とぉりゃー! な、なんじゃと⁉」
だが、分厚いゴムのような皮膚に守られた背中には、ほとんどダメージが通らず、逆に二人は反動で吹き飛ばされてしまう。
「構うな、リーダー君! 敵に集中しろ!」
「は、はいっ!」
フィンは脇目も振らずに前へと躍り出る。その直後、ベアファングの鋭い爪が彼に向かって振り下ろされる——
「あっ、フィンさん危ないっ!」
そう叫んだ瞬間、フィンの姿が目の前から忽然と消えた。
何が起きたのか分からず、俺は思わず足を止めた——それがいけなかった。
「避けろ、桃太郎君!」
その声に、俺は咄嗟に身を屈める。
「……うぐっ‼」
苦悶の声を漏らしたのは、アンガスさんだった。
ベアファングの爪が巻き起こしたかまいたちが、俺を狙っていた。だが、それに気づいたアンガスさんが、身を挺して俺を庇ってくれたのだ。
「だ、大丈夫ですか⁉」
「この程度の傷、どうということはない」
そうは言うものの、右腕からは血が溢れている。俺が心配そうに見つめると、アンガスさんは笑みを浮かべて言った。
「言っただろ? これが俺の役目だ。俺のことを心配している暇があったら、自分の役目を果たせ! さぁ、敵は目の前だ!」
……もう、仲間の傷つくところは見たくない。
俺は、数少ない勇気を絞り出すと、力強く金光を握り直した。
「うおぉぉぉぉぉ‼」
渾身の気合と共に、俺はベアファングへと駆け出す! だが――
(あ……っ)
何かに足を取られ、勢いのままに転倒してしまった。
『グガァァァァァ‼』
ベアファングが雄叫びを上げる。殺気が全身を貫いた。
「(あぁ、結局こういうオチなんだ。やっぱ俺ってツイてねぇな……。また生き戻ったら、足元には注意しようね、俺——)」
諦めて、その時を待つ。すると、再びベアファングが叫び声を上げだした。
『ヴオオォォォ……』
そっと目を開けると、目の前に転がっていたのは……ベアファングの頭部だった。
「うぎゃー‼ って、あれ? 俺……生きてる⁉」
「でかしたぞ、リーダー君!」
フィンさんが手を差し出し、俺を起こしてくれる。
「で、でかした……って、俺なにかやりました?」
「君がベアファングの脚を切り落としてくれたおかげで、奴の体勢が崩れた。その隙に俺が頭を斬れたんだ! ナイス判断だったよ!」
あのとき、フィンさんは姿を消したわけじゃないく、一瞬で空高く跳躍していたのだ。
その間に俺が足を引っかけて転んだ——じゃなかった、金光で脚を切り落としたおかげで、必殺の一撃を喰らわせることができた……という筋書きだったらしい。
——知らんけど。