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第54話 それぞれの役目

 一方その頃、紅蓮の翼班では——

「おいおい、また来やがったぜ……。一体何匹いやがんだ」

 ぼやきながら剣を構えるのは、紅蓮の翼のリーダー、ロイド・フェニーだ。


「さっきから切りがねぇな。マッドラットだらけじゃねぇか」

 紅蓮の翼の一員である、キャシー・アルバが注意する。

「ロイド! 減らず口を閉じて、魔物の数を減らすことに集中して!」


「あぁん⁉ っせぇなぁ、キャシーはよぉ。マッドラットくらい、お前らで片付けられるだろーが」

 彼の自慢の剣『フランヴェルジュ』を地面に突き刺し、余裕をかますロイド。


 だが突然、彼の背中に何かがぶつかってきた。

「ぐはぁっ!」

 ぶつかってきたのは、コボルト族のハデスだった。


「ボケっとしてんじゃねぇ、若造!」

 ロイドの背後から飛びかかってきたマッドラットを、ハデスは寸前で仕留めていた。


「す……すまねぇ。助かった」

「だから言ったでしょ、ロイド! ハデスさん助かったわ、ありがとう」

「礼を言ってる暇があるなら、一匹でも多く片付けろ。行くぞ!」

「お、おうよ!」




 同じ頃——

 ベアファングの動きは、衰えることなく猛威を振り続けていた。

「はぁはぁ……。大丈夫か、サラ⁉」


「そういうフィンこそ平気? だいぶ息が上がってるけど!」

「クソッ……こいつ、前に戦ったベアファングより格段に強いぞ……!」

 フィンたちが、ベアファングを倒しあぐねていると——


『グォォォォォン‼』

 突如、ベアファングが悲鳴のような咆哮を上げた。

 何事かと様子を窺うと……ベアファングに向けて、大小様々な岩や石が雨のように降り注いでいる。


 先ほど深手を負って倒れていたはずのコボルトたちが、立ち上がり、休むことなく投石を続けていたのだ。

「よし、今がチャンスだ! 一気に距離を詰めるぞ!」


 フィンの声が響く。

 その号令に呼応するように、仲間たちが攻撃に転じる。後方で待機していたガストンの拳と、アビフの蹴りが、ベアファングの背へ一撃を加える。


「よっしゃー! う、うぉーーー⁉」

「とぉりゃー! な、なんじゃと⁉」

 だが、分厚いゴムのような皮膚に守られた背中には、ほとんどダメージが通らず、逆に二人は反動で吹き飛ばされてしまう。


「構うな、リーダー君! 敵に集中しろ!」

「は、はいっ!」

 フィンは脇目も振らずに前へと躍り出る。その直後、ベアファングの鋭い爪が彼に向かって振り下ろされる——


「あっ、フィンさん危ないっ!」

 そう叫んだ瞬間、フィンの姿が目の前から忽然と消えた。

 何が起きたのか分からず、俺は思わず足を止めた——それがいけなかった。


「避けろ、桃太郎君!」

 その声に、俺は咄嗟に身を屈める。

「……うぐっ‼」


 苦悶の声を漏らしたのは、アンガスさんだった。

 ベアファングの爪が巻き起こしたかまいたちが、俺を狙っていた。だが、それに気づいたアンガスさんが、身を挺して俺を庇ってくれたのだ。


「だ、大丈夫ですか⁉」

「この程度の傷、どうということはない」

 そうは言うものの、右腕からは血が溢れている。俺が心配そうに見つめると、アンガスさんは笑みを浮かべて言った。


「言っただろ? これが俺の役目だ。俺のことを心配している暇があったら、自分の役目を果たせ! さぁ、敵は目の前だ!」

 ……もう、仲間の傷つくところは見たくない。


 俺は、数少ない勇気を絞り出すと、力強く金光を握り直した。

「うおぉぉぉぉぉ‼」

 渾身の気合と共に、俺はベアファングへと駆け出す! だが――


(あ……っ)

 何かに足を取られ、勢いのままに転倒してしまった。

『グガァァァァァ‼』


 ベアファングが雄叫びを上げる。殺気が全身を貫いた。

「(あぁ、結局こういうオチなんだ。やっぱ俺ってツイてねぇな……。また生き戻ったら、足元には注意しようね、俺——)」


 諦めて、その時を待つ。すると、再びベアファングが叫び声を上げだした。

『ヴオオォォォ……』

 そっと目を開けると、目の前に転がっていたのは……ベアファングの頭部だった。


「うぎゃー‼ って、あれ? 俺……生きてる⁉」

「でかしたぞ、リーダー君!」

 フィンさんが手を差し出し、俺を起こしてくれる。


「で、でかした……って、俺なにかやりました?」

「君がベアファングの脚を切り落としてくれたおかげで、奴の体勢が崩れた。その隙に俺が頭を斬れたんだ! ナイス判断だったよ!」


 あのとき、フィンさんは姿を消したわけじゃないく、一瞬で空高く跳躍していたのだ。

 その間に俺が足を引っかけて転んだ——じゃなかった、金光で脚を切り落としたおかげで、必殺の一撃を喰らわせることができた……という筋書きだったらしい。

 ——知らんけど。


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