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第57話 再戦

『北西の方角、魔物と交戦中! 魔物は……でっかい鹿が四頭だ!』

 ヴェルディからの、聞き覚えのある報告が入ってきた。

 前回同様、ガストンがヴェルディに向かって質問する。


「ヴェルディ、戦況は分かるか?」

『一頭は撃破済み! でも残り三頭に囲まれてる。人間二人、負傷してる!』

「マズいな……。援護に向かうぞ!」


 その指示を、俺が止める。

「エスピアさんたちは問題ないです。それより、俺たちもそろそろ臨戦態勢を整えましょう」


 俺の意識は、再び現れるであろうベアファングとの再戦に向け集中していた。

 あれだけの強敵だ……さっきは何とか勝てたけど、次も勝てる保証はないかもしれない。


「……桃くん? なぜ問題ないと言い切れるんだ? 鹿ってことは、ブラックホーンディアだろう……援護に向かった方がいいんじゃないか?」

 ——毎度ながらにやってしまっていた。今回は、皆の命がかかっているので、あーだこーだを考える余裕がいつも以上になかった……。


「あ、えーっと……そう! エスピアさんたちは、ブラックホーンディアとの戦闘に慣れてるはずですので、ちょちょいと首チョンパしてくれるはずですから!」

 そう言った矢先——


『ガストン、援護は不要だ……鹿の頭が、急にチョン切れた。何が起こった?』

「おぉ、桃くんの言った通りだな! ヴェルディ、報告ありがとう。引き続き頼む!」

 ……よし! これで、エスピア班は問題なく目的地まで辿り着けるはず。


「なぁ……桃くん?」

「はい?」

「さっきのは、どういう意味だ?」


「さっきの……とは?」

「エスピアたちは問題ないとか、そろそろ臨戦態勢を……とか」

「あっ、あ、あれはですねぇ~、何というか……」


 返答に困っていると、フィンが遠くを指差して叫ぶ。

「ベアファングだ! かなり大きいぞ……。奴ら体躯に見合わず、動きは身軽だ。前脚のなぎ払いには注意てくれ。風圧だけでもダメージを食らうぞ」


 コボルト部隊が、俊敏な動きでベアファングを包囲していく。

 あの時は、ここで一斉攻撃をしかけたが、無傷に終わっている……俺は、勇気を出して大声でコボルトたちに指示を出した。


「みなさん! 奴に打撃は効きません! あいつに向かって一斉に石を投げてください!」

 その号令と共に、大小様々な石がベアファングに向かって飛んでいく。


『グォォォォォ!』

 よし、次! 次の一手は確か……。

「サラさん! ベアファングの弱点は『目』です! そこを狙ってください!」


 的確な指示を出す俺の様子を見て、フィンが唇を吹く。

「ヒュ~ウ♪ すごいじゃん、リーダー君! アンガス、俺たちも行くぜっ!」

「おう!」


 サラが、指示通り弓矢で目を貫く。

 ベアファングが怯んだ隙を突き、後方からガストンとアビフが打撃を喰らわそうと間合いを詰める。


「お二人とも、背中への攻撃もダメです! 前脚での反撃が来るので、それを防いでください!」

「よっしゃー!」

「とぉりゃー!」


『ングアァァァ‼』

 アンガスさんに助けられるまでもなく、俺はあの攻撃を回避することに成功した。

「よし、今だっ!」


 みなが作ってくれた好機に、俺は全速力で駆け出し、ベアファングの足元を狙う——

(バシュッ!)

「ナイスだ、リーダー君! これでも喰らいやがれっ‼」


『ヴオオォォォ……』

 俺たちは、誰一人血を流すことなく、ベアファングとの再戦に勝利した。

 ホッと息をついたそのとき——俺の手が、柔らかな感触に包まれた。


「すごいね、桃ちゃん!」

「(も、桃……ちゃん⁉)」

「さっすが、ギルマスにリーダー任されるだけあるよ! なんで、こんなヒョロい男の子がリーダー? って思ってたけど、見直したよ~」


 その柔らかな感触は、サラさんの手だった。手を握られているだけでも嬉しいのに、めっちゃ褒めてくれている……最高かよっ!

 今回は、ララがいないことも分かっているので、俺は存分にデレデレさせてもらうことにした。


 だが、しかし——

「……おい、桃太郎君。さっさとその手を離せ」

 なぜかアンガスさんが、不機嫌そうに注意してきた。


「あ、ご、ごめんなさい。サラさんも、すみません」

「なぁに、アンガス? あなたも褒めて欲しいの~? でも、今回は何もしてないじゃないのさ。頑張ったら、褒めてあ・げ・る!」

 え? えっ? お二人は……一体どういうご関係で……⁉


 その疑問を見透かしたように、フィンが笑いながら耳打ちしてくる。

「俺たちは、隣町のレガード村出身の幼なじみなんだ。アンガスは、ずっと昔っからサラにご執心なんだよ。サラはそれを知った上で、あいつをからかい続けてんだよ」


 あらまぁ、そういうことですか!

 でも、あんな美人の手のひらで、何年もコロコロ転がされ続けるなんて……ちょっと羨ましいかも——ムフフフフ。


 俺の未知の性癖が開花しかけたところで、ティガがベアファングの魔含を持ってきてくれた。

「旦那、これいるっすか?」


「あぁ、ありがと。ちょっと行きたい場所があるから、しばらく待っててくれる?」

「わかったっす。みんなに伝えてくるっす」

 魔含を手に、俺は再び、あの熊の親子の元へと向かった。

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