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第59話 油断大敵

 今回も三チームとも、ほぼ同時に目的地周辺へと到着した。

 周囲の探索が始まると、ティガが例の洞窟を見つける役目を買って出てくれた。

「みなさん! あっちの崖の下に洞窟があるっす! 中に、たっくさんの魔物がいるっす!」


 その報告を聞いたガストンが、すぐさまそちらへと向かおうと進言する。

「よし、みんな、そっちへ行くぞ!」

「あーっ、まだダメっす!」


「……まだ? なぜまだダメなんだ?」

「あ~、えーっと……そ、そう! おいらに、いい作戦があるっす!」

「ほう。それは、どういう作戦かな?」


「まず穴を掘って、かくかくしかじか——」

 ティガは、俺と練った落とし穴作戦を、みんなに伝えてくれる。

「よし、分かった! では、穴を掘る者、竹槍を作る者、投石などを準備する者で分かれてくれ! エスピアたちは、洞窟とその周辺の見張りを頼む」


「了解いたしました」

 ガストンの指示のもと、準備は手際よく進んでいく。

 やっぱり、リーダーはガストンさんで良くないか? と思いつつも、この作戦を考えたのは俺だ、俺にしかできない役目なんだと、自分に言い聞かせた。



 ティガ率いる穴掘り集団、アンガス率いる力自慢たち、ボアーズ率いる職人チームのおかげで、一時間ほどで大きな罠が完成した。

「できましたね、旦那!」


「ああ、みんなすごいな。これで魔物たちを一掃できそうだ!」

「にしても、例の力を隠しながら、いろいろ説明するの……大変っすねぇ」

「だろ⁉ いや、ほんとそれな! 分かってくれる仲間が増えて、俺は嬉しいよ」


「おいらも旦那の力になれるんで嬉しいっす! これからも、なんでも相談してくれっす!」

「ああ。ありがと、ティガ」



 魔物の陽動には、ヴェルディと、足自慢のコボルト三匹——イダ、テン、シンが向かってくれることになった。

 各自が定位置につくと、一気に緊張感が高まる。俺は生唾をゴクリと飲み込んだ。


 ガストンが号令を出す。

「——よし、ヴェルディ! 行って来い!」

「あいよっ!」


 ヴェルディとコボルトたちは、一気に洞窟へと駆けていく。

 あっという間に、入り口付近へと迫ったそのとき——

(ズダダダダダダダダッ‼)


 来た……! ガストンが叫ぶ。

「退け! 全速力で戻ってくるんだ!」

 あまりの数に、仲間たちからどよめきが聞こえ始めた。


「なんだ、あの数は⁉」

「いくらなんでも多すぎだろっ⁉」

「こ、こえぇぇぇ~」


 あの数を目の当たりにするのは二度目だが、俺も同じ気持ちだった。だが、今回は勝算がある。

 俺は気高く振る舞い、みなを鼓舞した。


「大丈夫です、みなさん! 絶対うまくいきます。さあ……来ますよ!」

 落とし穴の手前で、コボルトたちが一斉に跳躍する。

 次の瞬間——


 魔物たちが、術中通りに次々と穴の中へと落ちていく。

 すべての魔物が見事に罠へと誘い込まれたのを確認し、俺が指示を出す。

「今です! 石を投げ入れてください!」


「うおぉーっ!」

「とりゃーっ!」

(ゴロゴロゴロゴロッ!)


 すべての石が投げ入れられると、森は再び静寂に包まれた。

「……やりましたね」

「大成功だな、桃くん!」


「素晴らしい作戦じゃったな、桃太郎くんよ!」

「ありがとうございます、ガストンさん、アビフ様。でも、俺一人じゃこんな大きな罠は仕掛けられませんでした。これは、みなさんのおかげです。本当に、ありがとうございます」


 俺が深々と頭を下げた、その時だった。

「危ないっ!」

「えっ……⁉」


 落とし穴の隙間から、命からがら這い出てきたホーンラビットが、俺の背後を狙って跳びかかる——

(バシュッ!)


「……ふぅ、危ないところだったぜ」

 俺を助けてくれたのは、ボアーズさんだった。

 射止めたホーンラビットが、彼の槍で串刺しになっていた。


「あ、ありがとうございます。ボアーズさん!」

「うむ。油断大敵だぞ」

「は、はい!」


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