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第4話  異変

一方その頃


--王都スセイリア・スセイリア城--

 城内は騒がしかった。

王『アルヴィス スセイリア ディ グレンゼル』は静かに息を呑み彼女を見つめることしかできなかった。彼女は突如として玉座の間に寿命の最後を迎えながら必死の形相で予言を伝えにきていたからだ。王は生まれてから“必死”な彼女を見たことがなかった。

 王国預言官おうこくよげんかん『ミレイユ フォルトゥナ』は玉座の間に這いつくばっていた


 「……ま、まだ……終わっておりませぬ……」


 震える声が玉座の間に響く。

王の前にひざまずき、手を必死に押さえながら周りに見えないよう最後の預言を記していた。
彼女のまとう紫の法衣は長年の儀式の中で擦り切れ、ところどころに古い染みが残っていて、その布地には王国の歴史をつむいできた数々の象徴的な刺繍ししゅうが施されている

 しかし、今それは彼女の体にまとわりつくように重たく垂れている。

額からは冷や汗が滴り落ち、呼吸は荒い。

それでも、彼女の瞳だけは未だに燃えていた。


 「王よ……この預言は……っ、最後の、預言……」


王の前に差し出された紙には、土の属魔アトマで書かれた文字が並んでいた。

軽く目を通した後に視線をミレイユに移すと、既に息はしていなかった。


 「王以外は見てはならない…か」


王は紙に書かれたその一節を周りに聞こえるよう読んで、書かれた内容が見えないように折り、ミレイユ フォルトゥナの遺体を抱き抱え玉座の間を出ていった。




--カザミ村--

 昼休憩中の子供たちは、すぐにご飯を食べ終えてしまい、習ったばかりの属魔アトマを所構わず出している。


 「アレト〜いつものか〜?戻ってきたら遊ぼうぜー」

 「うん!待ってて! 」

 「こら!危ないじゃろ! 」

ハゼンじいちゃんが子供を追っかけているのを、よそ目にアレトはリーナと二人で自宅に向かっていった。


 自宅には綺麗なオレンジ色の長髪をしたお母さんが寝ている。

正しくは“目覚めれな”いだが。

リーナは笑顔でお母さんに話しかけている。


 「今日はねー先生が来てるんだ〜♪ 」

 「母さん、今日はリーナは基本属性が土ってわかったんだよ」

 「!!--それ、あたしの口から言おうと思ってたのにー! 」

 「ごめんごめん、ハハッ、でもお母さんと一緒でよかったな。起きたら指導してもらえるかもな」


雰囲気は明るくとも悩みながら

 「ん〜あたしが教えられるのが先か、あたしが教えるのが先か…」


 「どっちにしろ母さんがいつでも起きてもいいように毎日成果を披露ひろうしてみたら? 」


 「うん!そうだね!お兄ちゃんなんかすぐに追い越すからね〜。」


 「俺は今こんなことができるんだぞ〜」

手のひらに集中する。次第に風が集まってきて、小さな三つの風の玉が旋回する。

 「も、もうそんなことできるんだ、ふ、ふ〜ん」


 「リーナもできるようになるよ、属性は違うけどコツみたいなのは教えるからさ」

そう言って風の舞う手をギュッと閉じる


 「それならこの後教えてね!」


母さん、いつでも起きていいからね……そんな言葉が頭をよぎる


 「“無覚病むかくびょう“……の為にお兄ちゃんが何でも屋を始めてから、たくさんお金が貯まってきたよ。いつ治療薬が開発されても買えるように頑張ってたら。今ではほとんどの村の子が集まってきちゃった。」

少し寂しそうにも、明るい笑顔で話しかけている。


リーナがもっと笑えるように頑張ろう。母さんのためにも。


 “無覚病むかくびょう”…それは世界的に見られる奇病の一種である。主に<ミカドリア王国>での発症率が高く、村が国境間際にあるせいか、カザミ村では3人が症状を発症している


 「遊びに行こう! 」

 「うん! 」



 「おーい! 」

アレトは手を振りながら歩き。

 「戻ったよーーー! 」

リーナは両手を上げながら、走って子供たちの群れに向かっていく。


だが--様子がおかしい。子供たち、いや、村の人々が黙って上を見ている。


 「……何、あれ……龍? 」

一人の少女が指差す方向に視線を向けるとそこには、授業前に見えていた黒と白の二つの影は明らかにさっきよりも近づいてきていた。


 アレトにもその二つの影の輪郭りんかくが見えてきていた--龍だ。


 「龍じゃ!二頭の龍が戦っておる! 」

最初にその存在を確定させたのは、ハゼンだった。

 村の人々が“龍”と断定するのに迷った理由があった、それは通常の龍はどの種類も翼が付いているのである。その2頭の龍には翼が付いていなかった。


その黒と白、対照的な二頭の龍はまだまだ遠くとも、ゆっくりと、しかし確実に村の方向に近づいてきている。


 「村の皆さん!遠いとはいえこちらに向かってきています!龍とは逆方向に落ち着いて避難しましょう! 」

(黒と白の龍なんて、聞いたこともありませんね。一刻も早く村の人々を、子供たちを避難させなくては…)


 アレトは村に取り残されそうな人が数名いること、何より家に母さんがいることで、動揺が全身を駆け巡り、心臓が跳ね上がる。いてもたってもいられず、足が無意識に動き出した


 先生が肩をがっちり掴んでくる。

 「ダメですよ。お母さんのことでしょう。」


何度もこの村に講義をしているゼフィールはアレトたち兄妹の事情を把握していた。


 「でも、今行かなきゃ!! 」

 「わかっています。あなた一人ではダメです。ハゼンさん、お願いしても良いですか? 」


 このお願いは避難する村人をまとめてもらえるようにお願いしている。ハゼンは当然と言わんばかりに、頭をゆっくりと縦に振る。

その横でリーナはアレトについて行きたそうな表情と共に不安なのか、ハゼンの服をギュッと握りしめている。


ハゼンは龍から目を話さず、口をつむぎ、汗を吹き出しながら、

 「リーナよ、行きたい気持ちはわかるが、ダメじゃ、なーにアレトには先生がついておる。お母さんも大丈夫じゃ、それに他の小さな子供たちが怪我をした時はどうする、そんな時はリーナが頼りじゃぞ? 」


リーナは急な展開で動揺し、もちまえの明るさが姿を隠し、涙目の表情で頷く。


 リーナは怖くて行かないのではない、動揺はしながらも、今ここで兄や先生を信じ足手纏あしでまといにならないことこそが、一番お母さんが助かる率が高いと感じていたからだ。


 距離が遠いうちに判断できたおかげか、村全体でソワソワしながらも落ち着いて避難が始まっている。


 アレトはリーナの顔を見ながら

 「先生、急ごう。」

アレトとゼフィールは駆け足で村の奥へと戻る。


 アレトは自分の家を通り過ぎた、ゼフィールは理解している。

この子はお母さんが一番大事であっても、村の人たち全員が助かることを優先することを。


 だんだんと2匹の龍は近づいてきている。


なんとか村の奥から順に一人、二人と避難へ誘導を終える。

自分の家の前に立つアレトとゼフィール。


--その時!!


 黒い龍が口から光線を放つ、それは白い龍には当たらず大森林へ放たれた。

その、光線は当たった森で爆発を起こす!--が止まらずに光線の射線はこちらに近づきながら爆発と共に村を破壊しながら向かってくる!!


「<黒の溶壁ネザーフォート>!! 」


 ゼフィールは燃え固まった黒く大きな溶岩の壁を発生させた!さらに、その破壊していく光線が近づいてくるのを見て瞬時に追加で2枚の計3枚の大きな壁を発生させる。


光線の向きがアレト達がいる場所と重なる。光線は壁に当たると、2枚の壁を壊した後に上空へと向きがズレていく


 アレトは一瞬の驚きと共に足は母さんの方へ向かって行った


 「母さん!! 」


母さんはいつもと変わらなかった。

 「今から移動するよ、母さん…」

 「アレトさん、私が抱えますよ。」


上空では争いはまだ終わっていない、打撃音なのか破裂音なのかはわからないが、激しい攻防が広げられているのが分かる。

先生を頼ることが一番確実だ


 「お願いします。……」

グッと拳を握り締め、いざとなった時の自分の無力さを実感した。

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