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第5話 避難

 しばらくし、ハゼン達と合流できた。

みんな森の中を突っ切るようにできている街道を列をなして南方向に進んでいる。

 ハゼン達は最後尾でリーナと手を繋いでいた。


 「お兄ちゃーん!…ゔええぇぇーーん」

 「リーナ、もう大丈夫だよ。このまま王都へ続く道に沿って龍たちから離れよう」


 「まずはこの森を抜けてから、先のことについて考えましょう。こんな大きな騒動です、スセイリア王国には必ず情報が伝わって、騎士団がこちらへ向かってきているはずです」



ギャオラ--------ーーーーーーー!!!!

グルオーーーーーーーーーーーーーーー!!!!



激しい龍の叫び声が響く。


 村から離れている人々は思わず足を止め2頭の龍を見た。

2頭の龍は互いの喉元を鋭い牙で噛み合っていた、2頭の龍は噛み合ったまま村付近の上空で静止している。


 アレトとリーナは“何か”を感じた。それはすぐにわかった。


 「お兄ちゃん…白い龍、こっちを見てない? 」

 「うん、今、目が合ってる。」


白い龍と目が合うと感じる。なぜだかはわからないし、この言葉で良いのだろうか

 『不安そう…』

二人は同時に同じことを感じた。そして胸がモヤモヤと胸騒ぎのような不安のような言い表せない感情になった。



 このように感じたのは380人ほどの避難者の中で彼ら二人だけだった。


 「それにしても派手な喧嘩ですね。そろそろ仲直りしてもらわないと」


ゼフィールは当然のように、そろそろ終わる頃合いだろうとでも言わんばかりの発言に、まだ不安ではあるがアレトとリーナは少しだけ安心する


 二人の表情を見たゼフィールは、より安心させるために笑顔で解説する。

 「アレトさん、リーナさん、同種の龍の殺し合いは過去に一度もありません。

他の龍種族との争いから死に至ようなことはありますが、過去各国、何千との観測結果で分かっています」


 真剣に聞く二人に、さらに話を続ける。

 「その結果、龍は同種殺しが“出来ない”と言われています。ちなみに妖精も同じです」


ニコッと微笑む先生は、龍に視線をやり

 「……ただ、今回の二頭は少し変わっていますね。普通の龍種と違って翼がなく、色も特異です。しかし、これまでも新たな龍種が発見されるたび、驚きを持って迎えられたものです。今回も、その延長線上にある出来事なのでしょう」


 彼の言葉にはどこか確信があり、アレトとリーナの胸の中にあった不安を、ゆっくりと溶かしていくようだった。


 「そうだとええのぉ…ワシには…」

ハゼンは不安そうに呟いた。


--ガシュルッ!--

途端に予想を反した。



2頭の龍はそのまま喉を噛み切りあったのだ。



…………



 見ていた者たちの時間が止まったように感じた。中でも一番驚きを隠せないのは

ゼフィール先生だった。

 「そ…そんなはず…」


 アレトとリーナは龍の喉元から出る大量の血に目が釘付けだった、子供でもわかる、その大量の出血を。


 ハゼンは泣いていた。顔には弱々しさの中にどこか真剣さが感じられた。

 「起きる…良からぬことが…」


 2頭の出血している龍は互いに少し距離を置き、白い龍はゆっくりと森の中に落ちていった。黒い龍はもう死ぬのは明白ながらも出血スピードが遅くフラフラと北の方へ逃げて行く力は残っているようだった。


 落ちていく龍を見届けたあと先生は冷静に

 「森の外まで歩き続けましょう。そのあたりで騎士団と合流出来るはずです」

その場にいた全員が無言で目的地に向かって歩いていった。




 それから時間がたち龍の死闘を見てから、もうすぐ日没だ。


 道中アレトは龍と目があったことを考えていた、しかもなぜか不思議な感情が湧いてくる。村を壊滅かいめつに追いやった龍たちなのに、なぜかあの白い龍は助けてあげたいと。

リーナを見ると、リーナも龍について考えているのか上の空だ。


 「そろそろ森の外に着きますよ」



--おーい、こっちだ。

スセイリア王国の兵士が森を抜けた先で手を振っている。


 やっとだ、やっと落ち着ける。

 「先生、もう大丈夫ってことだよな。」

リーナもアレトの声にハッとし先生を見る。


 「お兄ちゃんとお母さんが無事で良かった!改めて、ありがとう!先生。」

 「おやおや、まだついてませんよ。ふふ気が早いですね」

先生も気が抜けたように笑っている。


 森を抜けた先には大きな銅像を中心としテントがたくさん張られていて、村の全員が休める簡易的な村になっている。


 「いい匂いがする、腹減ったー! 」

 「すごーい!! 」

リーナはテントの方へ走り出した。


 「みんなしっかり休めそうだな!」

 「そうですね、今日はゆっくりと休んでください、明日のことはまた明日考えましょう」

 「先生も休まないのか?」

 「私はまだやることがありますので」


 「ゼフィールさん!」

 「アドリウスさん、お久しぶりです。ということはこの部隊は本隊では無いのですね。」

 彼はスセイリア王国騎士団アドリウス隊団長『アドリウス ヴェイル』、茶髪の冴えない顔をしており、軽鎧ライトアーマーを身にまとっている。金のスセイリア王国紋章が小さく輝く胸当てと、戦場でも機敏きびんに動けるように作られた腰周りの防具が特徴的で長剣を腰にたずさえている。

 その身なりから騎士団ではあるがスセイリアの主力級の部隊では無いことがわかる。


 「そうなんですよ、僕の隊はエアリアスが拠点なんで、早く来れました。」

 「ふふ…実際助かりましたしこのテントの数には驚きましたよ、私の予想ではもう少し後に合流して、騎士団と村の人たちとで野営の準備をするかと考えてました」

 「ハハハッ、僕の部隊は普段から物資の輸送か調査がメインですからね。こういうことに関しては王国一の騎士団ですよ。だから君もゆっくり休んでね。」


アドリウスはアレトの頭を撫でた

 「やめろよ、子供みたいに! 」

少し照れてしまいそうで、怒り気味にアドリウスの手をどかした。


 「そうですよ、彼がいなければ全員無事というのは達成しませんでしたからね。彼の名はアレトさんです。勇気ある少年ですよ」

 「そうなんですか。これはどうも失礼しました、勇気あるものには敬意を払うのが騎士道ですからね」

 「少年っていうなよ先生、俺はリーナと休んでくる」

 「ええ、ゆっくりしてください」

 「うん、先生も早く休みなよ」

アレトはテントへ走り出した。

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