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第8話 属魔の基礎

「……まぁ今は混乱してるか。手当ても必要だろうし」

 「いや、お兄ちゃんも必要だから。今お母さんとおじいちゃんを見てくれているお医者さんがいるから、お兄ちゃんも見てもらってね! 」

そう言って腰に手を当て、ムスッとした表情で顔を近づけてくる。


 「ははは……わかったって」

 「なら、今すぐ行くよ。」

手を引かれ、半ば強引に連れて行かれる。


 「せ、先生!ありがとー! 」


--じいちゃんと母さんの元へいき医者からの治療を受け終わった途端、今か今かと怒るタイミングを待っていたハゼンが。


 「こらーーーー、一人で突っ走りよってからに」

 「わかったわーかったって! 」


 「いや、お前は何にもわかっとらん。そもそも戦い方、属魔アトマの使い方の基礎も知らんのに」

 「じいちゃんが今まで教えてくれなかったからだろ!?散々村で聞いたのに『お前にはまだ早い、ゆくゆく先生の授業で教えてもらえ』とか濁しやがってさ! 」

 「む、むぅ……それは……」

 「危うく死にかけるところだったんだぞ! 」

 「それはお兄ちゃんが悪い! 」

 「うっ、リーナそれはごめんってさっきから……」


少しの静寂が3人と寝ている母さんを通り過ぎる。


 「わかった、明日の朝に教えてやるわい。」

 「ほんとか!? 」

アレトの表情が一気にワクワクとした表情に変わる。


 「全く、都合の良い奴め。のう、リーナ」

リーナの目はキラキラと輝いていた。


 「はぁ、お前らはこんなに村の外に出るのは初めてじゃし、今日のこともあるしの、今日はゆっくり寝なさい」


 『はーい』

二人は空いているベットに飛び込み、息をつく間もなく寝た。



「二人が無事でよかったわい、先生には感謝せんとな」



ーーーーーーーーーーーーーーー


チュンチュンと小鳥たちがなく中、声が聞こえる。

--おい、まだ寝とるのか?……まだ昨日の疲れは取れんかの……


-はっ!

 「戦い方教えてくれるの忘れてないよな!? 」


 「なんじゃい、まだ寝ててもよかったんじゃぞ」

 「疲れは大丈夫! 」

 「そうか、リーナには既に少し教えてるぞ」

 「え!?」

アレトは急いでテントの外に飛び出た。


 「お兄ちゃんおはよー、見ててね! 」

リーナは一瞬真剣な表情を見せる。


「<噴砂サリオ>! 」

——バスゥゥゥーーーーー


リーナが構えた手から、乾いた砂が放射状に勢いよく噴射された。それは先生から授業を受けリーナが土を出した時よりも、はるかに多かった。


 「すげーーー!かっこいいー!ずるい」


 「えっへん!……つ、疲れた」

 「張り切りすぎじゃ、兄の前だからと教えた以上に力を込めよってからに」

 「早く起こせよな、二人とも! 」

 「昨日突っ走った罰じゃ、ほほほ」

 「おーほほほほほ……お兄ちゃんが悪い」


 「う……何も言えない」

 「まぁ、今から教えちゃる。お前、風の玉を出せるんじゃろ、出してみ」

 「うん」

アレトは手のひらに風の玉を1つ、2つ、3つと出した。


 「3つも出せるのか、それを」

ハゼンは素直に驚いた、それは風の属魔アトマの基礎だが同時に3つも出せるのは、風の属魔アトマに慣れた大人レベルであったからだ。


 「じいちゃんが全然教えてくれないから、できるやつをずっと練習してたら3つまで出せるようになった。」


 (一つをずっと練習しておったのか、基礎は大人顔負けなほどやったと言うことは、こりゃ飲み込みが早いかもしれんな)


 「そうか、一つ聞くが三つ出すまでに何秒かかる、もう一度やってみ」

 「わかった」

もう一度アレトは同じように玉を出した。それを真剣な表情で見つめるハゼン。


 「2,5〜3秒程度か、中々早いのう。それはな<風の玉ウィーバ>という技じゃ、お前なぜそれを口に出さんのじゃ、口に出して、もいっぺんやってみ」

 「???--口に出していうのか?<風の玉ウィーバ>」


……先程と何も変わらなかった。相変わらず3秒未満の速度で風の玉が3つ出てくる。


 「むぅ、お前、まだリンクしとらんな、目をつぶって<風の玉ウィーバ>という言葉がその手の玉のことを指しているというのを頭の中でしっかり理解するんじゃ、そうすればもっと早よ出せるわい」

 「ほんとか!? むーーーー……」

アレトは目をつぶり頭の中で繰り返し言葉を発して、それが手に出せる玉と言うことを自分に言い聞かせる。


 「お前なら5分も考えれば出来るようになるわい」

 「お兄ちゃん、頑張って! 」




 「ハゼンさん 」

 「先生! 」

 「おお先生、なんじゃワシに用かの? 」

 ゼフィールが静かに現れた。昨日の険しい表情はどこにもなく、いつも通りの落ち着いた様子だった。軽やかな足取り、なびく赤い髪。そして穏やかな微笑み。

リーナはその姿を見た瞬間、ゼフィールの足元へと駆け寄っていた。昨日の不安がふっと消えたのだろう。その顔には安心感が滲んでいた。


 「いえ、用というよりは体調に変化などはありませんか? 」

 「先生のおかげで大丈夫じゃわい」

 「はは、それはよかったです。安心しました。それともうすぐ村の子供たちにせっかくですので授業をしようと思ってましてね、こんなに村から離れることは滅多にないでしょうから」

 「先生、授業するの!?やったー、あたし楽しみ! 」


 「おい、もう目を開けても良いんじゃないか、おい、おーーいアレト! 」

 「はっ、せ、先生いつの間に」

 「集中力はずば抜けとるの、ほれやってみ」


アレトは口角をあげ自分の手を見る。

 「<風の玉ウィーバ>!!」

言葉を言い切るまでに1秒経たない程度、それは皆だいたい同じだがアレトは少し違った。<風の玉ウィーバ>が出るまで早かったのだ、その言葉を言い切る直前には出てきていた様な気がする。


 「早い!ハゼンさん、これは……しかも3つも」

 「うむ、ひたすらこれだけをやっていたんじゃと、技を覚える前に3秒ほどで3つ出しよったんじゃ、詠唱させたら一線級の速さじゃわい」

 「お兄ちゃんすごい、やっぱりあたしのお兄ちゃんだー! 」


 アレトはみんなが驚いていることに意味を理解していなかった。

 「あ、ありがとう、ございます」

なぜかかしこまった。


 「ハゼンさんアレトさんと、リーナさんを良いですか? 」

 「うむ、行ってこい二人とも」

 「銅像の前に集合です」

 「授業だーー! 」

リーナは走り去っていった。


 「授業!?やったーー!じいちゃん行ってきます!」

 「ではお預かりします」

 「元気でよろしい、ほほっ」



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