——銅像前
昨日より大人が騎士や兵士が多い、昨日とは違った鎧の人たちもおり、どうやら王都スセイリアからの騎士団と合流したようだ。
「みなさん、集まりましたね。昨日のことがありましたが全員無事ですか? 」
『はい! 』
先生は優しく微笑む。
「今日は新しいお友達がいます。ヴォルクさんです」
そう、今回は昨日の少年『ヴォルク』が参加している。とは言っても半ば無理やり参加させられているのだ。アレトはさっき先生に首元を引っ張られながら連れてこられるのを見ていた。抵抗した様子ではあったが先生の強さに負けたのだろう。
「友達じゃねーよ!クソが! 」
なぜか怒っている。一瞬の静寂が訪れるがそれはすぐに打ち破られた。
『あははははー』
「何笑ってんだお前ら! 」
『よろしくー! 』
無邪気な子供たちを前に調子を狂わされたのか、顔を赤くして
アレトも改めて声をかける
「よろしくな」
「ウル……せぇ」
「さぁ始めますよ」
先生は落ち着いた表情で銅像を指差す。
その銅像には中年くらいの男女二人が形どられている。
姿は男は少し筋肉質で
「ふふ、像の話の前に、頭の中で地図を思い浮かべられますか? 思い浮かべられる人は、ぜひやってみてください」
「だいたい分かる」 「あたしはほとんど分かるよ!」 「……地図ってなんだ?」
アレト、リーナ、ヴォルク。それぞれの理解度には差があった。
「分からない子は、分かる子がざっくりでいいので教えてあげてくださいね」
「お兄ちゃん、こんな感じだよ!」
リーナは大きな声で、周りの子たちにも聞こえるように説明し始める。良い意味でお節介な性格だ。
説明によると。
現在一般的に使われる地図では、<コガクシア聖典国>が中心とされており、北に<タケミナール帝国>、東北東に<ミカドリア王国>、南東に<スセイリア王国>、そして海を越え、南から西にかけて広がる森林地帯が<アマノガルド共和国>である。
「<スセイリア王国>と国境を接していない国は、<タケミナール帝国>だけだよ」
アレトを含め、周囲の子どもたちは一斉に「ふーん」となんとなく理解した様子を見せる。
「では、大体地図は頭に浮かびましたね。そろそろ、像の話に移りましょうか」
みんなの視線がリーナから再び先生へと向けられた。
「この像はスセイリア王国の守護神『
--知ってるー
ーーあれ、アマノなんとかは?
ーー41ってことは、799年?
各々の言葉が先生に投げられるが、先生は優しく受け止める。
「おや?この戦争についても、何か知っている様ですね、解説して見ますか? 」
その問いかけに、リーナは目を輝かせ、まるで待ちかねていたと言わんばかりに勢いよく手を挙げた。
「はい!この戦争はアルヴァノス紀799年の夏、4つの国それぞれが3対1で戦争を仕掛けられると思い込んだのが始まりです。ちなみにアマノガルドはこの時の戦争に一切参加しませんでした!いろんな見方がありますが、言われている各国の……」
「リーナさん、他の子たちには少し難しい話になりそうなのでこの辺で。一旦終わりにしましょうね。でも、とてもよくできました」
先生がリーナを優しく褒めると、リーナは満面の笑顔を浮かべ、少し誇らしげに頷いた。
「はい!ありがとうございます! 」
さすが、将来は先生になりたいという夢を持つだけあって、その堂々とした態度にはアレトも感心するばかりだ。歴史の知識に関しては、どうやら自分よりも一枚上手らしい。
リーナが褒められてウキウキしている間、先生は再び視線を全員に向けて続けた。
「その戦争の終盤、アルヴァノス紀801年の春頃にはタケミナールが勢いづき、その結果、スセイリア王国が特に攻め込まれました。エアリアスの街付近まで進行を許してしまい、スセイリアの地は大きく縮小することになったのです。」
--え、エアリアスってことは
--カザミ村はタケミナールに?
--僕たちがいるここも取られてたのかな?
再び湧き上がる子供たちの声を静止し続ける。
「ですがその時、風神と雷神を含むたった数人でタケミナールの勢力を押し返したのです。その強さが戦争を終わらす決め手となりました。各国はその二人を恐れ戦争を止めました」
--すげー
--かっこいいね
子供たちは銅像に目を向け、目を輝かせる。
「すごい、二人で、いや…」
「こいつらどんだけ強ぇんだよ」
アレトはその話に衝撃を受けていた。そして疑問も出てきた。
ヴォルクもすっかり先生の話に聞き入っている。
「その後の停戦交渉が行われた時、。圧倒的に交渉で有利にも関わらずスセイリアは元々の自国の領土以上には国を広げませんでしたが、タケミナールとの国境をなくすために互いの国境隣接部をミカドリアの領土とすることで話がつきました。」
--えぇ、もったいな
--大きくすればいいのに
「スセイリアはバカなのか?」
子供たちとヴォルクはその結末に納得がいっていなかった。
「ふふ、皆さんはいづれ、この理由がわかるようになりますよ。話を戻して、スセイリアが……カザミ村があるのはこの『風神』『雷神』のおかげということでカザミ村へ入る森の入り口付近のここに、銅像が建てられています。そして国境に向かい
先生の話に区切りがつくと同時にアレトは誰よりも早く質問した
「なんで死んじゃったの?それに風神と雷神以外の“数人”って今も生きてるの?」
「良い質問ですね、風神と雷神はそこで力を使い果たしスセイリア王国に戻ったのちに亡くなりました、スセイリア国中の人々からあの世へと見送られたそうです。そして数人の仲間は今どこにいるかわからないそうです。」
「そうなんだ、ありがとう先生」
ふっ…と先生は微笑むと表情を変えて楽しそうに
「そういえば風神と雷神は夫婦だったそうです。この村の中で恋人ができたら、そのカップルは新たな『風神』『雷神』になるかも知れませんね! 」
--恋人って…きゃーー!
--べ、別に恋人なんていなくても強くなれるし
--(顔、赤くなってる)
子供たちが恥ずかしそうに騒ぎ出した、特に女子が。
『あははははは』
アレトとリーナはその光景を見て笑った。