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第10話 昼食

 そんな楽しい授業が終わり、村の人や休憩中の騎士たちと共に昼食をとっている。


 村の子供たちの前には五種類の料理が乱雑に並んでいる。それを各々が好きなものを好きなだけ食べている。

 「昨日の大量のモンスター達を使っているんだって」

 「へー、お兄ちゃんはこの中でどれが一番好き? 」

 「んー、これかな? 」

アレトは手に持っていたスプーンで一番人気のないスープをすくって食べた。


 「げっ…よりによって、その青色の水の中にただ野菜が浮かんでいるスープ」

 「リーナ、食わず嫌いは良くないぞ」

 「どんな味なの? 」

 「甘いけど、肉を食ってる時に出てくる甘さ?っていうのかな、わかんないけど美味い」

 「ゴクリ……じゃ、じゃあ食べてみる。……ん?お、美味しい! 」

 「スライムがベースなんだって」

 「え、村でたまに食べれるスライムスープって緑なのに、色も味の美味しさも全然違うね」

 「スセイリア城の料理人が作ったんだって。やっぱりプロは違うな」


--ガッガッガッガ!!

 二人は音の聞こえる方向を見る。そこにはヴォルクが素手で料理を掴み、時には料理に顔を突っ込み直接食べている。


 「け、獣だな……」

 「うん……こら、ヴォルクくん。お行儀が悪いよ! 」


--ガッガッガッガ!!


全く聴こえていないようだ。その暴食は続く。


 『はは……』

二人はその食べっぷりに放っておこうと決めた。




——ゼフィールはその時、王国の騎士団と騎士テント内にて話をしていた。


 「はい、そういう訳でして」

 「むー、先生がそういうのでしたら我々も気を付けねばなりませんな、今朝アドリウス隊が龍の調査に向かったが、心配だな」

そう頷くのはスセイリア王国直属“第四”騎士団セッカ隊、副団長『ガルオス・ヴェルナー』

 鋼の壁のように屈強な体を持つ、大柄な男。灰色の髪は短く刈られ、あごには立派なひげを蓄え、鋭く引き締まった男らしい目をしている。

彼が身にまとうのは、白みがかった灰色の重厚な鎧。僅かに青色の縁取りが施され、右肩には手のひらほどの大きさのスセイリア王国の紋章が刻まれていた。

さらに、その背には常人では持ち上げることすら難しい巨大な盾を背負っている。それを当然のように担ぎ、悠然ゆうぜんと立つ姿は、まさに砦そのものだ。


 「えぇ、気をつけて向かっているとは思いますが」

 「あの隊はなかなかの速さですからな、もう向かっているではなく、既にこちらに折り返してきているかもですな、ガハハ!」



--報告!アドリウス隊が帰還致しました。


 「なにぃ!?怪我でもしたか? 」

報告に来た兵士はそんなガルオスの疑問に素早く返事をする。

 「いえ、全員無事帰還となります。が……」



 「いいよいいよ、僕が説明するよ。」

テントに入ってきたのはアドリウス。


 「相変わらずせっかちですね、アドリウスさん。兵のお仕事を奪ってはいけませんよ」

 「ははは……ごめんね、帰還した後走ってきちゃった」

報告しにきた兵に軽く頭を下げる。

 「団長がそれでは、兵たちが可哀想だな。もっと団長らしく腰をそえろ」


 「いや、もうこの性格は治らないですよ。早速本題に入りますね。結論から言うと、龍が落ちたであろう場所に龍はいなかったよ」

 「どういうことだ。詳しく」

 「明らかに落ちた形跡はあったんですよ、相当デカかったんですね、大きく龍の形であろうとおりに木々が折れてましたよ、あの大きさで考えると動いたら分かるはずなんですが」

 「消えたということは寿命が来たということですかね」

 「龍の第一世代の寿命って……悪い、ド忘れしてしまった、先生」

戦闘関連以外のことにあまり関心のないガルオスはゼフィールに顔を向ける。


 「龍の第一世代の寿命は30〜300年の30の倍数ですよ、ガルオスさん、子供たちに質問されたらどうするのですか。基礎ですよ」

 「ガハハ!その時もド忘れってことにしますよ」


 この世界のモンスターはどこからともなく自然発生する“第一世代”がいる。

基本的には成長した姿で発生し、その寿命を全うするまでに子孫を残し、最初に定められている寿命を終えるとちりとなり消え去っていくのだ。第二世代からは決められた寿命は存在しない。


 「ガルオスさんは相変わらずだな〜、でも僕が聞く限りではその龍、白色だったんですよね?そんな珍しいの僕が生まれてから一度も聞いたことないですよ」

 「そうですね、第一世代の消滅ではなく怪我による死亡なら、死体は残るはずなのですが…」


騎士テント内は疑問に包まれ、その日は明日以降、今後どうするかの作戦を立てることとなった。




——アレトとリーナは昼食を終え再びハゼンに属魔アトマの使い方を学んでいた。


「じいちゃん!こうか!?……<疾風渦シップウカ>! 」

アレトは地面に突き刺さった木の枝めがけて、風の玉を放った。

--フフォォォォッ!

風がうねりを上げ、ちりや落ち葉を巻き込みながら、瞬く間に大人一人ほどの竜巻が立ち上がった。


 「お兄ちゃんすごいね、もう出来るようになったの!? 」

 「いや、じいちゃんの説明が分かりやすかったから出来ただけだよ」

 「ほぉ、お前、世辞を言えるようになったか」

 「いや、ほんとだって、てかこんな事出来るなら早く教えろよな! 」

 「まぁ良いじゃないか、いま出来とるんじゃから」

(アレトのやつ、基礎をずっとやってきただけあって、覚えるのが早すぎるわい)


アレトが技の成功にすると同時に2人に疑問がわく

 「<疾風渦シップウカ>って他のやつと、何か違うくない?」

 「私の<噴砂サリオ>とか、お兄ちゃんの<風の玉ウィーバ>と、技の言い方?……が何か違うよね」


 ハゼンは顎を掻きながら、上を向きながら困り顔で答える。 

 「むぅ……あまり記憶がないからのぉ〜、簡単に言うと、学校のようなところで習ったり、正式に研究されたりした技が<噴砂サリオ>や<風の玉ウィーバ>じゃ、古代語からつけとるっぽいの」


 アレトとリーナは小さく頷きながら、その話を真剣に聞いている。その真剣さとは裏腹にハゼンは本当に忘れているのであろう、頭を傾げながら思い出すように言葉を捻り出す。

 「今アレトに教えた<疾風渦シップウカ>は……むー、なんというか、そいつは口伝や個人の工夫で生まれた術じゃ。国が術として正式に認めとらんもんは、だいたいそういう“野良の技”じゃな! 」


 ハゼンは少しドヤ顔で話を締めるが、思い出したように付け加える。


 「ま、言い方はなんでもええんじゃ。頭でイメージしとるもんと、発動する術があまりにもかけ離れておらん限りはな。たとえば<風の玉ウィーバ>を<玉風ギョクフウ>って呼ぶやつもおる。基礎の術じゃから、誰からも教えられずに自分で発動した時に技のイメージから名前をつけとる、ってわけじゃな」


 リーナは技名について知見を得たことに興奮している。

 「なるほどー!ってことは<玉風ギョクフウ>って自分でつけた人から、教えられた人も<玉風ギョクフウ>って言うんだね」

その反応にハゼンはよりドヤ顔をした。

 「そうじゃよ」

 「ならじいちゃんは学校で習ったの?教えてくれた人が別でいるの? 」

 「いや覚えとらん、昔の記憶がないのはお前も知っとるじゃろ。まぁ、ワシは<玉風ギョクフウ>じゃけど、なるべく正式なもの教えといた方が良いじゃろ、他の技は正式名があるかわからんでのぉ、そのまま教えとるだけじゃ」


――そう、ハゼンはなぜか昔の記憶が曖昧だった。

彼が村にやってきたのは、アレトが生まれるより少し前。今から二十年ほど前のことだ。その時にはすでに、多くのことを忘れていたという。


 その事実を知っているからこそ、アレトは深く追及することができなかった。

呆気ない返答に、どこかモヤモヤしたものを抱えつつ、アレトは好奇心に背中を押され、次の質問を投げかける。


 「なぁ、じいちゃんは他にはどんなのが出来るの?」

 「あたしも見たーい」


 「お前と違ってワシは若くない、属魔アトマを使うのも体力を使うんじゃ、あんまり無理させんでくれよ」

ハゼンは二人に大袈裟な雰囲気で、腰が痛いアピールをしてくる。

 「<鎌風カマイタチ>」

さっきとは別の地面に突き刺さった木の枝めがけて、ハゼンは指先から風の刃を飛ばす。その刃は枝に真っ直ぐ向かい通過した。


 「す、すげーー、切れた! 」

 「おじいちゃん、すごーい! 」

 「それ、教えてくれよ! 」

じいちゃんはため息をついた後に。

 「絶対にリーナに向けるなよ、あとこれはワシが出来る最大の技じゃ、ちと難しいと思うぞ」

じいちゃんはアレトに<風の玉ウィーバ>を出すよう指示する。


 「その丸を細くしてみ……もっと、もっとじゃ」

アレトは集中しながら玉の形を押しつぶすようにイメージすると、だんだんと円盤状になっていく。

 「そうじゃ、それではまだ切れん。その円盤状をあの枝に向けて、さらに三日月状にするのじゃ」

(やはり、早いのう、この円盤状にするまで3時間は練習せんといかんのに一発目から、これかい)


 「クッ……じいちゃん限界」

言葉と同時にその円盤は半月状になり、手から飛び出した。--その半月の刃はリーナに当たり、リーナは1メートル程吹っ飛ばされた。


 『リーナ!! 』

二人は駆け寄り、リーナの様子を確かめる。


 「イタタ……大丈夫」

咄嗟とっさに腕でそれを受けていたようだ。

 「腕が少し切れておる」

 「このくらいは大丈夫! 」

 「ご、ごめん」


本当に大丈夫なのだろう、いつもの笑顔がその事実を語っている。

 「よかったー。次はもっと気をつけるよ」

 「何かお詫びでもしてもらおっかなー」

安心から胸を撫で下ろすアレトにリーナは怪しげな笑顔を見せた。


 「アレト見てみ、横にあるその枝」

リーナから目を離しじいちゃんの視線の先を見ると、そこにある練習用に立ててあった太めの枝が吹っ飛び、折れている。


 「切れてはないが、十分な威力があるという事じゃ、今日はもう疲れが出ておる。二人とも休め」

 「……わかった。でも枝はこんな風になっているのに、リーナがそれで済んでるのはなんで?」


 「それはな、生まれてから持っておる属魔アトマ、“しゅ属魔アトマ”じゃ、先生から習っておるじゃろう」

 「どんな人でも持っているっていう、あれか。“どう属魔アトマ”と“しゅ属魔アトマ”。だいぶ前に教えてもらったやつだ」

「そうじゃ、“どう属魔アトマ”があるから風の玉を別の形に変えることができておる。“しゅ属魔アトマ”があるから、ぶつけられた属魔アトマの効力が少しだけ弱まるのじゃ」


 「先生が教えてくれていたのは、こういうことだったのか」

 「あたしも言葉ではわかってても、意味は理解してなかった! 」

 「さぁ、とにかく休みなさい二人とも」

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