--すっかり夜になり空は曇り時々月明かりが差す
「いやー、食べた食べた。テント暮らしのご飯は美味しいな」
「ホントにお兄ちゃん、よく食べてたね。それにヴォルクくんも」
「また獣みたいな食べ方だったな」
フフッと二人は笑い合う。
「そういえば、ヴォルクくんなんで森にいたのかな? 」
「確かに、あの時からバタバタしていて、まともに話をしていないな。ご飯の時も話しかけづらいし」
「明日時間があったら聞いてみる? 」
「そうだな、気になるし聞いてみようか。食事中に聞いたら食べられるかもな」
「えーー、そんなこと……ありそう」
『ハハハハハ!! 』
そんな軽口を交わしながら、二人の会話は続いていった。
「寝よっか。笑い疲れたよ」
「そうだね、ランタン消すね」
『おやすみーー』
それは消灯して、目を瞑ってからすぐに起こった。
--(……見つけた……)
(ん、いま何か聞こえたような)
アレトは声ではない“声”を聞く、それは直接耳元で小さく囁かれているようだった。
--(……すまないが、今会ってくれないか……)
(やっぱり聞こえる)
目を開け、起き上がるとリーナも起き上がっていた。
「今の声、聞こえたか……? 」
「声?声は聞こえなかったけど、何か違和感を感じたからお兄ちゃん大丈夫かなーって」
--(……離れていては……ボヤける…………)
「ほら、今聞こえた」
「え、何も聞こえないよ? 」
すると、アレトの目の前に白いモヤが掛かる。それはテントの入り口をすり抜け出ていく。
「今の……」
その白のモヤを追うようにアレトはテントを飛び出た。
「ちょ、お兄ちゃん」
リーナは声を抑えながらついてきた。
「リーナは今のモヤも見えなかったのか? 」
「それは見えたよ、追いかけるの? 」
その白いモヤはテントを出た後、軌跡を残しつつ蛇行しながら森の方へ向かっていく
--(……こっ……安全……)
(何か分からないけど……焦っているようにも感じる)
「森は危ないよ」
「リーナはここで待ってろ」
アレトは深く考えることなく、ただ白いモヤに引き寄せられるように足を踏み出した。
「お兄ちゃん! 」
リーナの声が震える。怖さに足がすくみ、その場から動けないでいた。
追いかけているモヤはついに森の中へと入っていく。
(どこまで奥に行くんだろう、もしモンスターに出会した時俺一人で逃げ切れるかな)
緊張しながらもそのモヤを追っていると、だんだんと声が大きくなってくる
--(……大丈夫、このルートにはいないよ……もうすぐ)
(何か、あそこ光って……)
モヤの向かう方向に僅かな光が灯っている。アレトはモヤを追い抜かし、その光に向かい走った。
「やぁ、やっと会えたね」
そう話すのは差し込む月の光を反射し僅かに輝く子供サイズの翼の無い白い龍、その龍の喉元は血が固まり黒くなっている。その姿、様子を見て、大きさは違えど黒い龍と争いあっていた白の龍だとすぐにわかった。
「君は……昨日の」
「色々と混乱させてしまっているようだね」
「その傷……早く手当しないと! 」
「おや、意外だね……いや君にとっては当然か」
すぐさま龍に近寄り傷口を見る。その傷口は昨日の黒い龍の歯形がくっきりと、深く穴が空き、引き裂かれるように所々肉がえぐられている。
「こんな深い傷、血が固まってきているとしても……」
「ふふふ、ありがとう。でも私の残された時間はあと数日なのは確定しているよ」
「そんなこと言っちゃダメだ、なんとか、先生を呼べば……」
「……それは絶対にやめてくれ、私は君に会いたかっただけなんだ。先生というのはあの赤髪の人だろう?」
「君、先生のことを知っているの? 」
「ほんの少しだけね、彼の少し先の未来を見ただけさ」
その龍はアレトに向かい優しく笑いかける。
「未来……どういうこと? 」
「私は“明るい未来”を見る力を持つ龍、名は『フーチ』。私は上位龍なので君と話すことが出来る。今のこの姿は大人たちに見つからないようにサイズを変え、君に会うためにここまで歩いてきたのさ。……自己紹介はこんなところかな」
「………………」
情報の多さに混乱するアレトにフーチは続ける。
「そんなに混乱しなくても良いさ。フーチと呼んでおくれ。結論から言うと君の未来を見たから私は会いにきたのさ」
「俺の未来……? 」
「君の未来は、数多あるどの未来を辿ったとしても、“人々を助け、導いている”。そんな君の一助になればと思ってね。……ウッ」
(傷が痛いんだ、早く何か手当てをしないと)
フーチは手を差し伸べるアレトを尾を使い制止する。
「言っただろう、私には未来が見えると……私には私の先の未来が見えなくなってしまった。その意味が君には理解してもらえるだろう?」
思わず悲しそうな表情を浮かべるアレト
「大丈夫、私は希望を見出している。君の力になるという希望を」
「力って……? 」
龍の真剣な眼差しを見て、傷のことは一旦考えることをやめ、素直に龍の話を聞くことにした。
「そうだね、どこから話そうか。私が君に宿ると、君は“
「ごめん……知らない。まだ先生からそれは習ってない」
「……ふふふ、そうかい。これから習うんだね。素直だね……ふふふ」
意外な答えだったのか、呆気のない返事にフーチはくすくすと笑い続けた。
「君たちはね、基本属性の
アレトは息をのんだ。
「私は君をすでに認めている。だから、君に宿りたいんだ。君の歩む未来を、この目で見届けたい」
「……俺の中に宿ったら、フーチはどうなるの? 」
「私はこの世から消える。でも、その後も君と共に生きていく……そう言えば、少しは安心できるかい? 」
フーチの声は穏やかだった。不思議と、その言葉には温かみがあった。アレトの胸の奥にあった不安が、少しだけ和らいでいく。だが、それでも疑問は尽きない。
「……俺の未来が見えたってことは分かった。フーチの気持ちも、なんとなく。でも、なんで俺を選んでくれたのか……まだ分からない」
「そうだね。私は“明るい未来”しか見ることができない。でも、その未来には……世界に広がる混乱や争いが映っていたんだ」
「争い……? 」
「君の未来はね、混沌に巻き込まれた人々を導く未来だった。明るい未来が見えたとはいえ前提は暗かったんだよ……」
--ガサガサガサ……
アレトが来た方角から、草をかき分ける音が響く。
「しまった! 」
フーチが焦ったように声を上げた。
「やっと見つけた! 」
現れたのは、小さな影――怯えながらも兄を追いかけてきたリーナだった。